世の潮流に逆らう純国産チタンバイク vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

世の潮流に逆らう純国産チタンバイク vol.2

オピニオン インプレ
世の潮流に逆らう純国産チタンバイク vol.2
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乗り込むにつれてどんどんと深まる快感
予想を遥かに超えた、素晴らしい走り
特徴その3は、ジオメトリの多彩さとサイズ展開の豊富さである。試乗車のサイズは500 (水平換算のトップ長523mm) で、シート角は75度、ヘッド角が71.5度。スモールサイズの国産車としては標準的なジオメトリと言えるだろう (スローピングが強いのも特徴で、シートチューブのC-Tは430mmほどしかない) 。フルオーダーができるのもパナチタンの美点であるが、標準的なジオメトリとして準備されているサイズもすさまじく多い。FRTP3のジオメトリ表は圧巻で、460mm~610mmの間で16種類ものサイズが準備されている。トップチューブ長で言うと2~6mm刻みで展開されているのだ。ロードフレームのサイズラインナップとは、本来こうでなくてはならない。
いざ実物を目にしてみると、海外ブランドの製品によく見られる所謂 「様式美」 に溢れたチタンフレームとは、少し趣が異なっていることが分かる。無骨な溶接痕。荒々しく貼り付けられた数々の補強ガゼット。走り以外の付加価値を与えようとせず、必要以上に手を入れていない細部。らしいと言えば、らしい。
肝心の走りっぷりは悪くないどころか、予想を遥かに超えて素晴らしいものだったということを、まず強調して言いたい。剛性重視のHタイプとはいえ、絶対的な剛性の高低で言えばかなり柔らかい部類に属する。しかし、想像していたよりもずっと漕ぎ出しは軽く、好ましい。身をキュッとよじり、その直後に溜めたものを解き放ち、ゴム毬が弾かれたようにポーンと加速していく。たまらなく色っぽい加速感である。薄肉チタンが張り詰めた大口径チューブの持つ軽やかさと、素材のしなやかさが絶妙にブレンドされ、お互いの良さを引き立て合っているという好印象。この感覚は、乗り込むにつれてどんどんと深まっていく。ダンシングで加速させるときの快感は、近年乗ったフレームの中で最も大きなものだった。
乗り心地はチタン丸出し。クラシックギターの (スチール弦ではなく) ガット弦を、 (ピックではなく) 爪で優しく弾いた時のような、オーガニックな心地よさがある。振動吸収性・減衰性は、素材の美点を最大限に活かしたものとなっている。路面の凹凸をタンタントントンと柔らかく処理するやり方に思わず笑みがこぼれる。路面の状態を乗り手につぶさに知らせることも忘れない。肉薄大口径チューブ内に反響するコーンコーンという (風に揺れる竹林のような) 音を聞きながら走っていると、時間を忘れてしまう。
類い稀なる高度なセッティング
ヒルクライムにおいても、パナソニック技術陣による類い稀なる高度なセッティングを感じることができる。ギュッと撓んだ瞬間にヒュンと戻る。金属であることのメリットを最大限に活かした設計。出来の悪いカーボンフレームのようにペダリングパワーをズルズルと吸い取ってしまうのではなく、脚力の 「上澄み」 を一旦そっと懐に入れ、本当に必要なときにスッと差し出してくれるような感覚。実際に、疲労の蓄積も少ないと感じることが出来た。これは、むやみに高剛性化するよりよっぽど難しい仕事のはずだ。
試乗車はフレーム重量1450g (カタログ重量) にアルテグラ・フルアッセンブルという、決して軽いとは言えないスペックのバイクだったが、登坂でも重量を全く感じさせない。体重が軽く、ダンシングを多用するヒルクライマーにはかなり向いているフレームなのではないかと思う。このフレームが、しなりを必要とする人にとって理想的な一本となる可能性は大いにある。僕は積極的に峠に向かいたくなった。
フォークも、ブレーキがガツンと利くタイプではなく、グッと撓んでからしっかり耐える、という性格。これはネガではなく、前後方向の加速度をコントロールしやすいというメリットとして捉えられるもの。最初はストレートフォークらしい微舵応答の鋭さというか気ぜわしさが気になったが、一度慣れてしまうと気にならない。
巷ではソフトな乗り心地や振動吸収性の高さばかりが高く評価され、熱心なスポーツバイクフリークの話題にのぼることは少ないパナチタンだが、商品力 (軽さ、安さ、見栄えの良さ) を切って捨て、あえて複雑な工作でしなやかさを与えたエンジニアリングには見識を感じざるを得ない。
その反面、ベタッとした重々しいペダリングは受け付けないし、SL3やEPS、プリンスカーボンなどのような超絶的・爆発的動力伝達性は持たない。重量級ライダーやスプリンター向けではないだろう。それに、現在の筆者の体重 (約51kg) が上述したような好印象を与えている可能性は高い。開発にあたって意見を聞いたという某選手 (前出) は、筆者に近い体格だという。その選手の体型・好みにピンポイントでフォーカスしたフレーム設計になっていることも考えられる。
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本当の「しなやかさ」、本当の「バネ感」が分かる
一期一会
褒めすぎた気もしてきたので、他にも懸念点を挙げておく。このような繊細でギリギリな均衡の上に成り立つフレームは、ライダーを含めた完成車状態の構成要素 (体重、脚力、ホイール…) が変化したときにバランスを崩しやすいと言えるだろう。「しなりとしなり戻りの妙」 は、体重や脚力はもちろん、ペダリング、ケイデンス、ホイール、フレームサイズ等の組み合わせによって起こる一期一会のような現象であるから、そういったファクターの変化によってバランスが崩れる可能性は多いにあると思う (なお、C24やC50、シャマル、R-SYSなどのホールで走ってみたが、バランスの崩壊は起こらなかった。ホイールに対しての懐は案外広いかもしれない)。
最後にもう一つ。その価格である。原材料価の高騰、国内生産であること、パイプ加工の手間とコスト、サイズ展開の多さ、オーダーに対応していることなどを考えると、不当に高いとは全く思わないが、約35万円というフレーム価格は、性能的にも外見的にもレベルの高い魅力的なライバルが星の数ほどひしめく激戦レンジの真っただ中に存在する。分かりやすい商品力を持つとは決して言えないFRTP3の苦戦は、これからも避けられないだろう。
とはいえ、もっと評価されて然るべき
筆者所有のライトスピード (アルコンT1) とFRTP3を並べてじっくりと眺め、同じチタンフレーム同士を比べてみる。すると、このFRTP3には市場のチタンフレームに対する欲望への回答は、何一つ盛り込まれていないことに気付く。惚れ惚れする宝石のようなディティールも、シルクのように滑らかなビードも、羽のような軽さも、華々しいブランドヒストリーとクールなそのロゴも、ストーリーと情緒に満ちた車名もない。チタンフレームの顧客はそういった美しい幻想のようなものを求めることが多いのだから、パナソニックスポーツサイクルのイメージリーダーとしての役割が与えられているのだろうと深読みしたとしても、このFRTP3が日本のメーカー系スポーツサイクル市場においていかに特異な存在かお分かりいただけると思う。
一カ月、300km。乗って眺めて分かったことは、FRTP3は 「チタンであること」 ではなく、 「しなる悦び」 によって再評価されるべきフレームである、ということである。出来の悪いクロモリフレームや安価なカーボンフレームの 「鈍重さ」 を 「しなやかさ」 と取り違えて有り難がっている傾向も見られるが、FRTP3に乗れば本当の 「しなやかさ」 が分かる。本当の 「バネ感」 を体感できる。パナソニックがチタンという素材に拘るのは、最も理想に近い 「しなやかさ」 と 「バネ感」 をフレームに与えることができるためであろう。現在のパナソニックのノウハウが最も効率的に活かせるのがたまたまチタンなのであって、決して 「チタンであること」 を第一のウリとしたフレームではない (もしそうであれば、生産拠点をとっとと台湾か中国あたりに移し、マニアが喜びそうな緻密で煌びやかでチープな細工をここそこに施しているはずだ。そうした方がずっと売上アップが見込めるのだから)。
剛性偏重の反動か、しなやかなフレームが市民権を取り戻しつつあるように思うが、なぜこの時代にFRTP3のような極上のしなやかさを持つフレームが評価されないのか、(個人的には) 納得がいかない。VXRS系フレームやGDRの2台などがあれほどチヤホヤされるのであれば、このFRTP3も、もっと褒められて然るべきである。国内メーカーであることとか、個人的な思い入れがあることなどを抜きにしても、心から、本当にいいフレームだと思った。それに、未だに職人を抱え、国内でチタンフレームを作り続けるということがどういうことか、僕らはもうちょっと意識をしてもいいと思う (めったに見かけないこのチタンフレームが、パナソニックという巨大メーカーの中でどれほどの利益を出しているか、大まかな推測は容易だろう)。僕らは今、新しいやり方でこのフレームを再評価するべきなのだ。
しかし、ロードバイクを取り巻く時代の歩みはあまりにも速く、消費者の価値観はこの自転車界においても単一化しつつある。それらは果たして、“パナチタン” の生き残りを許すだろうか。こんな世の中では、トレンドにすり寄ったバイク作りの方が簡単に商売になる、というのが事実でありメーカーの本音だろう。要するに、カーボン製で、派手で太くてケバケバしくてそこそこ軽く、適度に硬く適度に快適、最新スペックと派手なカラーリングを纏い、高いコストパフォーマンスを持ち、上手くブランディングされて評判がよく、誰が乗ってもそれなりにソツなく速く走れ、プロチームも使っている一流 (と呼ばれている) ブランドのバイク…であれば、大半の人は何だっていいのだ。
そんな中で、今となっては重く、柔らかく、少しばかり高価で、至って地味だがどこか無言の迫力を持ち、小柄なライダーが走らせればスイスイと泳ぐように坂を上ってくれる、不器用だが愛さずにはいられない、この素晴らしいチタンフレームの生き残りを、果たして我々は許すのだろうか。
試乗する前は考えもしなかったことだが、FRTP3と一カ月を共にした僕は、祈りにも似た、ほとんど悲痛な想いを持って、このバイクを見送ることになったのだった。そのうちにまた、笑顔で再会できることを願いつつ。
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安井行生のPickUpアイテム

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