【THE REAL】青森山田・郷家友太が引き継ぐ驚異の「飛び道具」…二代目ロングスロワーの誕生秘話 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】青森山田・郷家友太が引き継ぐ驚異の「飛び道具」…二代目ロングスロワーの誕生秘話

オピニオン コラム

埼玉スタジアム 参考画像(c)Getty Images
埼玉スタジアム 参考画像(c)Getty Images 全 3 枚 拡大写真
■狙い通りの形から奪った決勝ゴール

可能な限り距離をとって、左手で合図を送ってから助走に入る。目いっぱい勢いをつけて、タッチラインのぎりぎり手前で急停止。加速で生じたエネルギーを、上体を反らした反動から思い切り振り抜かれようとしている両腕へ加える。

決勝戦を残すだけとなった第95回全国高校サッカー選手権大会。優勝候補の一角・青森山田(青森)が勝ち進むにつれて、マイボールのスローインを獲得して、背番号7にボールが託されるだけでスタンドがざわめき始めるようになった。

果たして、7日に埼玉スタジアムで行われた東海大仰星(大阪)との準決勝でも、MF郷家友太(2年)が投じる一撃必殺のロングスローがゴールを生み出した。それも、7大会ぶり2度目の決勝戦へチームを導く、値千金の決勝弾を。

「高さという部分では青森山田は本当に自信をもっているので、自分は信じて投げているだけです」

両チームともに1点ずつを奪い合い、迎えた前半41分だった。左サイドの深い位置で得たスローイン。郷家の標的はニアサイドにそびえる、身長186センチのDF三国スティビアエブス(3年)に定められた。

距離にして約25メートル。低空かつ滑らかな軌跡を描いたボールは3人がかりのマークに弾かれたが、ファーサイドにこぼれたところへ、DF小山新(3年)が左足を思い切り振り抜く。

強烈なシュートを、GK宮本一郎(2年)が体勢を崩しながら必死に防ぐ。しかし、再びこぼれてきたボールに詰めたMF高橋壱晟(3年)のシュートを防ぐ東海大仰星の選手は誰もいなかった。

初戦だった鵬翔(宮崎)との2回戦から4試合連続ゴールを決めて、チームメイトのFW鳴海彰人(3年)と並んで4ゴールで得点ランキングのトップに立った高橋が自信満々に胸を張った。

「ロングスローからの形はすごく練習していた。味方がシュートを打ったときのこぼれ球に反応しようと準備をしていたので、狙い通りにできたと思います」

■3つのゴールを演出した必殺の飛び道具

手を使える分だけ、フリーキックやコーナーキックよりもコントロールがつく。それでいてオフサイドが適用されないロングスローは、ある意味では究極の「飛び道具」になるといっていい。

実際、今大会の4試合で青森山田が奪った15ゴールのうち、聖和学園(宮城)との3回戦の先制点、正智深谷(埼玉)との準々決勝の2点目は郷家のロングスローを起点とするものだった。

いずれも最後にこぼれ球に鋭く反応し、ゴールネットを揺らしたのは、卒業後はJ2ジェフユナイテッド千葉への入団が内定している高橋だった。これも決して偶然ではないと郷家も胸を張る。

「ターゲットはエブスさん(三国)であったり、アキさん(鳴海)であったり。コースがずれたら他の人が競る、というのはみんなで話し合っているので。どこにボールがいっても反らして、セカンドボールを誰かが拾うのが狙い。ほとんどイッセイさん(高橋)が先に拾っていますけど、練習通りですね」

実は大会直前の合宿でシュートを打ったときに、腰の部分に張りを覚えた。以来、大事を取ってホットパックで腰を温めることを欠かさず、トレーナーのケアのもとで超音波治療やマッサージも受けている。

昨年の夏前に脱臼したような激痛に襲われた、左肩に続く体の異変。本来ならばゴール中央まで、距離にして30メートルは届くロングスローが、今大会ではニアポストが精いっぱいだと苦笑いする。

「左肩はもう気にしなくなりましたけど、腰が治りかけなので。完治すればもうちょっと飛ぶかな、というのはあります。ただ、県大会からずっと投げているんですけど、まったくゴールに結びつかなかった。それが全国大会に入って3つも入っているので、ちょっと不思議な感じがします」

腰に違和感を覚えながらも、チャンスになればボールをもってタッチライン際に立つ。準決勝では前後半を通じて合計8度、勝利のために体に決して小さくはない負担がかかるロングスローを投げ込んだ。

■偶然に見出されたロングスロワーの才能

青森山田で、しかもロングスローとくれば、真っ先に思い出されるのがベスト4に進出した昨年度の大会でセンセーションを巻き起こしたDF原山海里(現・東京学芸大学1年生)となる。

最長不倒距離40メートルを誇る伝説のロングスロワーは、試合前になると入念に肩を温める。いわゆるキャッチボールの相手に偶然にも指名されたのが、ベガルタ仙台ジュニアユース出身の郷家だった。

「青森山田に入る前は、スローインを投げたことはありませんでした。原山さんの相手を務めて、自分もちょっと投げてみたら、意外と飛ぶんじゃないかと。ただ、他の人にはあまり言わなかったんですけど」

転機はすぐに訪れた。1年生の秋に行われた「紀の国わかやま国体」。青森県選抜に選ばれていた郷家が、試合前に遊び感覚で他の選手を相手にロングスローを披露していたときだった。

「おい、ちょっと試合で投げてみないか」

声の主はチームを率いていた青森県選抜の宮本徹郎監督(弘前実業監督)。攻撃的MFとして、日本サッカー協会のエリートプログラムにも選出されたことのあるホープのもうひとつの才能は、すぐに青森山田の黒田剛監督にも伝えられた。

新チームとなり、2年生ながらダブルシャドーの一角で、レギュラーの証でもある背番号7をゲット。同時に原山から、ここぞというときにゴールを導くロングスロワーの大役をも引き継いだ。

青森山田には三国の他にも186センチの小山、180センチのDF橋本恭輔(3年)、リザーブにも182センチのFW佐々木快(3年)と長身選手が多い。それだけに、黒田監督からかけられる期待も大きい。

「僕の場合は飛距離にちょっと波があるので、飛ばないときは味方をニアサイドに寄せるとか、逆に飛ぶときは『もうちょっと下がっていい』と伝えろと監督からは言われています。今日はキーパー寄りでエブスさんがほとんどノーマークだったので、エブスさんを狙って投げることが多くなりましたけど」

■3年生に有終の美を飾らせるために

郷家自身も183センチの長身を誇る。この1年間だけでも2、3センチほど伸び、ベガルタの下部組織で培われたテクニックに加えて、強さと高さをも身にまとった。鵬翔戦では2つのゴールもあげている。

「高校生年代では伸びたほうだと思います。これは言い訳みたいになるんですけど、(背が伸びた影響で)ボールが足につかないというか、そういう時期があって、ちょっとだけ苦しんだこともあります」

レギュラーの多くを3年生が占めるチーム編成で、DF小山内慎一郎とともに堂々のレギュラーを張る。偶然にも小山内とは同じ1999年6月10日生まれで、小学校時代からの親友でもある。

ベガルタ仙台ユースへの昇格を自らの意思で断り、冬場になれば積雪で練習もままならないことも少なくない青森山田を選択。小山内と初めてチームメイトとなり、厳しい環境のなかで新生活をスタートさせた。

20年連続22回目の選手権出場を果たしている青森山田だが、最高位は司令塔・柴崎岳(現・鹿島アントラーズ)を擁した2009年度大会の準優勝。だからこそ、小山内とともに郷家は「誓い」を立ててきた。

「2年生の自分たちが軽いプレーをしたら、3年生に合わせる顔がない。3年生に最後の最後までサッカーをさせてあげたいので、自分と(小山内)慎一郎が引っ張る気持ちでやってきました」

希望通りに、日本一を争う最後の2校まで勝ち上がった。決勝の相手は前橋育英(群馬)。ともに高校サッカー界の名門でありながら、選手権の優勝経験はない。新たな歴史を作る戦いへ。いざ、舞台は整った。

「決して焦れることなく、青森山田らしいサッカーをしていけば、最後の最後に必ずいいことがあると思っているので。自分たちはチャンピオンシップも経験しているので、アドバンテージもあると思う」

舞台となる埼玉スタジアムは昨年12月17日、高円宮杯U‐18チャンピオンシップでサンフレッチェ広島ユースを撃破し、高校生年代の日本一の称号を獲得した縁起のいい場所でもある。

キックオフは9日午後2時5分。東海大仰星戦後に「両肩に疲労は蓄積している?」と聞かれた郷家は、笑顔を浮かべながら「大丈夫です!」と、大一番でもタッチライン際に立つ自身の姿を思い浮かべていた。

《藤江直人》

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