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僕らアマチュアが重視しがちな 「ゼロ加速」 という性能だが、プロにとってはそれほど重要なファクターではないらしい。なぜなら静止状態からの加速というのは、レースにおいてスタートする時、そのただ一度しかないから。
そのゼロスタート時にひとつ、低〜中速域にひとつ、加速感の谷を感じるが、コーナー脱出によく使う速度域と高速からの伸びはかなりいいことが乗り込むうちに分かってくる。これは初速・微速領域をいたずらにチューニングするよりよっぽどレースで活きてくる性能だろう。
踏み込む走り方には向いておらず、ペダリングが完成している上級者向けだが、ガチガチのバイクのように限界を超えて踏まされてしまうのではなく、高速への誘い方が実に自然だ。ヒルクライムにおいても剛性は高くないのだが、びっくりするほど軽快に走る。ダンシングの振りも非常に軽い。シッティングからダンシングに移行するときに 「頭打ち感」 がないのも大きな美点だ。
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さらに、僕はTREKニューマドンの回で 「脚への優しさは今まで乗ってきたバイクの中でピカイチ」 と書いたが、RHM9の疲労感の少なさはそれを遥かに凌ぐ。一度は限界近くまで追い込んだヒルクライムをし、その後もアップダウンをそこそこのペースで走り、サイクルコンピューターは6時間で150kmを刻んだにも関わらず、まだまだ踏める。まだダンシングできる。僕が一番驚いたのはここだ。これは漫然と走っただけでは決して分からない。一度に100km以上を走ってみて、初めて体感できる。今まで “疲れにくい” と感じるフレームはあったが、これは次元が違う。「たまたま体調が良かっただけでしょ?」と言われるのは嫌なので、さらに2回、同じルートを走ってみたが、結果は同じ。
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間違いない。これは設計段階で意図的に出している性能だ。
想像してほしい。100km以上走ってきた日。いくつもの峠を越えてきた日。太陽も傾きかけて疲れた頃、目の前には最後の登坂が現れるものだ。よっこらせと腰を上げてペダルを踏み込むと、いつもなら太ももの筋肉に疲労物質が流れ、じんわりと鈍痛が広がる。しかしRHM9では、その筋肉の疲労感が1/3ほどになってしまう感覚がある。これが世界のステージレースを戦うブリヂストン・アンカーの選手達が求めた性能なのだろう。しかもメディアのインプレで400kmも500kmも走るヤツは珍しいだろうから、ユーザーに分かってもらいにくく地味な要素である。
08モデルのフォーク変更によって 「なんだよ柔らかくなってんじゃん」 というのは簡単だが、RHM9の本領は乗り手が疲れた頃にやってくる。150kmの向こう側にあるのだ。
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なにより走っていて本当に気持ちいい。これは僕が思うRHM9の最も大きな存在価値だ。この羽のような軽やかさ、軽快で自然なダンシング、しなやかな加速性、心地よいロードインフォメーション…身体が暖まってきたころには脳内麻薬ドバドバの垂れ流し状態である。RHM9よりもかかりの良いフレームやゼロスタート加速に優れるバイクはたくさんあるが、ハンドルが手にピタリと吸い付いてくるような、天使に背中を優しく押されているような、この稀有な 「気持ちよさ」 にはなかなか出会えない。
文句なしにイイバイクである。玄人好みで、表面化しにくい性能、奥深い本質を秘めている。「この国にはGT−Rがあることを誇りたい」 というキャッチコピーがあったが、日本にRHM9のようなバイクがあるというのは喜ぶべきこと、日本の自転車乗りとして誇るべきことだと思う。このRHM9には、もうこれ以上の軽量性も洒落たカラーリングも必要ない。
もちろん日本人選手の活躍にも期待するが、
「世界のメジャーレースを走るアンカーバイクを見てみたい」
一週間のオーナー体験を終えてRHM9から降りたとき、僕はそう思った。
プロロード界を席巻するあのイタリアンブランドや、最も進化したカーボンフレームと言われるあのフレンチメーカー、ツールを勝ちまくった例のアメリカンフレームなど、世界のトップブランドと呼ばれるバイクたち。
その彼らを震え上がらせた台湾の巨人がそうしたように、僕がアンカーに願うのは、RHM9がツール・ド・フランスの先頭集団を力強く牽引する光景、それである。
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