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「フレームの魔術師」 と称されるジム・フェルト率いるブランド、FELT。細部にまで徹底した検討が行われ、剛性としなやかさという相反する要素を高次元でパッケージしたというフルカーボンバイク 「F2」 をライター・安井が300kmに渡って徹底インプレッション!
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
FELTというメーカーは、他とは一味違うブランドストーリーを持っている。ヤマハ、カワサキ、スズキ、ホンダといったモーターサイクルメーカーでプロライダー用フレームを設計していたエンジニア、ジム・フェルトが、自宅の裏庭の小さなガレージでトライアスロンバイクのフレーム作りを始めたことに端を発する。そのフレームの性能に驚いたライダーが彼にフレーム製作を依頼し、FELTのフレームを駆った選手達がトライアスロンとシクロクロスでチャンピオンを獲得すると、彼の名声はチューブの大手メーカー、イーストンにも伝わり、イーストン社で今では名品と呼ばれているロード用チューブ 「スーパーライト」 などの開発を手がける。いつしか 「フレームの魔術師」 と呼ばれるようになった彼は自らのブランド 「FELT Bicycles」 を設立し、あくまでも本物の物作りにこだわるドイツの高品質ブランドとして、スポーツバイクの総合メーカーへと成長させたのである。
このFELT F2はウルトラハイモジュラスカーボンを素材とし、「モジュラーモノコック」 という製法で造られている。これはフロント三角・シートステー・チェーンステーの3個のパートをそれぞれ独立した金型で一体成型した後、それらを溶かしながら完全に一体化させるというもの。これにより継ぎ目や接合部分が不要となり、強度・耐久性に優れ、美しく軽いフレームを生み出しているのだ。
アワーグラスシェイプのトップチューブ、リアホイールに沿って湾曲したシートステーなど、フレーム形状は細部まで徹底したディティールの検討が行われ、剛性としなやかさという相反する要素を高次元でパッケージしているという。組み合わされるコンポーネントはデュラエース。ホイールはシマノの金属系ホイールのトップモデル、WH-7850SLだ (試乗車にセットされているのはMAVIC・キシリウムSL)。
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僕は自転車に関してはミーハーな人間である。所有するバイクは全てプロチームが使用しているレーシングブランドだし、自慢にはならないがほとんどがツール・ド・フランスで活躍した車種だ。チームカラーというだけでソソられてしまうのも確かで、「名」 も 「実」 も欲しいのである。
FELTというブランドだが、地味でどこかビギナーの街乗り向け自転車というイメージがあり、僕の購入候補リストには決して入ることはなかった。しかし今年、アメリカのプロサイクリングチーム 「スリップストリーム」 にトップモデル、F1を供給するようになり、チームカラーが発表され、D・ミラーやD・ザブリスキー、バクステッドらが活躍を始めるとブランドイメージはガラリと変わり、急に魅力的に見えてくる。全く、ブランド品に目の色を変える女性達をこれっぽっちも笑えない。というわけで、今回この徹底インプレに連れ出したのはFELT F2。F1に次ぐセカンドグレードではあるが、フルデュラエースで組まれたFELTの気合を感じる一台である。
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硬いといえば硬い。しかしただ硬いのではない。ダンシングの振り始めでハンドルがスッと横にスライドし、ペダルがスーッと下がっていく。ペダル下死点でフレームがクッとねばる。ねばるのだが、ぐにゃりと捩れるのではなく、しっかりとした手応え。それはどこまでも精密で滑らかな感触なのだ。そしてとにかく良く進む。細部にまでわたる周到な設計と適度な剛性コントロールの二つが揃っていないと、このような乗り味と、淀みない推進力への変換は実現できないだろう。
ガタがないのに摩擦抵抗が少なく蓋の自重でスーッと下がり始めてピタリと密閉する、そんな職人が作った 「茶筒」 のような動作感である。スムースだがどこにも遊びがない。精密で充実した剛性感。これは乗り手の感覚を欺く演出や小細工を一切使わず、物理法則の基本に忠実に、しっかりとカッチリと作られたフレームという印象を受ける。
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