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そのスタイリングと性能で人々を魅了し、世界中で好調なセールスを続けているオルベア・オルカは2008年も続投される。美しすぎるルックスを堪能し、そのデザインの必然性を考え、そしてスタイリングを一度忘れて、山岳を含む300kmで純粋な走行性能を試す。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
2007年に劇的なフルモデルチェンジを遂げたオルベア・オルカ。スペインのトッププロチーム、エウスカルテルの選手が駆り、ビッグレースの山岳ステージで大暴れしたバイクである。
まず目を引くのはそのルックス。美しい曲線を描くエッジと流麗なカラーリングとが見事に融合し、今までのロードバイクにはなかった洗練された美しさを持っている。素材には高品質なカーボンを使用し、875g (付属品を除いたフレーム単体重量) という驚異的な軽量性を実現。また、サイズごとに剛性コントロールを行い、全てのサイズで同じ乗り味を引き出すSSN (Size Specific Nerve) テクノロジーを導入している。2008年モデルでは新色のレッドが追加された。
最近のカーボンロードフレームの設計では、振動吸収性と動力伝達性を両立させるためにダウンチューブ〜チェーンステーを太くしっかりと作り、対照的にトップチューブ〜シートステーを極端なほどに細く扁平することが流行している。
しかしこのオルカにおいては、チェーンステーよりシートステーの方が太い。快適性を担うはずのシートチューブ集合部はボリューム感に溢れ、トップチューブもダウンチューブと同じかそれ以上の太さを持っている。対してフォークは華奢だ。
フレームの上下で機能を分担させようという意図が伺えるスペシャライズド・ターマックやキャノンデール・スーパーシックス、サーベロ、リドレーなどとは、設計思想に違いがある。トレンドとは明らかな方向性の違いがあるのだ。
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トップチューブサイドに鋭い角を立てる2本のラインはシートクランプとまとまりながら滑らかに収束し、シートステーを引き締めるエッジは後方に向けて華麗に発散している。ダウンチューブに踊るシャープな曲線も、BB上を通ってチェーンステーへと流れるようなラインを描く。これらのエッジを境界線として上手く使い、カーボンブラックと明るいオレンジが塗り分けられている。非常に美しい。文句なく美しいのだが…
僕はこれを、ロードバイクのカタチとして素直に受け入れることが出来ない。これらは「スタイルのためのカタチ」、「デザインのためのデザイン」 であるように思えてしまう。だがこの乗り物は、全ての装飾を排すべきロードバイクなのだ。
「フレーム単体重量は875g!」 と高らかに軽量性を叫ぶキャッチコピーと、スタイルを重視したフレーム小物 (ワイヤー受けとしても機能している、クールだが重そうな金属製のヘッドバッジや、リアビューを優雅に纏め上げるのに一役買ってはいるものの巨大すぎるシートクランプなど) との間にも、不自然な温度差を感じてしまう。
そう、例えばこのシートクランプ。オルカ最大のアイデンティティーと言っても過言ではないこのパーツは確かに美しいが、ただ機能すればよいというものでよければあと数十グラムは軽くできたはずである。後部のダックテールのようなフィンだって、スタイリッシュではあるものの性能にはなんら寄与しないはずだ。
このシートクランプはおそらくアルミの鋳造品。裏側には切削の肉抜きによって計量化への多少の努力が見られるが、現実はかなりズシリとしたパーツである。実測すると65g。一般的な形状のクランプだと20g程度、軽い製品で10gほどである。瑣末なことかもしれないが、見た目を重視して軽量性が犠牲になっているのは事実だ。山岳を激しく駆けるヒルクライマーのバイクに装着されるには、少しふさわしくないのではないか。
個人的には50gぽっち重くなったって何も変わりはしないと思っているが、10gの軽量化のために、ときには数万円の出費を要求されるのがロードバイクの世界である。気にする人にとっては 「されど50g」 だろう。しかもオルカのこれは、ただの飾りのためだけの重量増なのだ。
確かに、これらのディティールを含むオルカのスタイリングは秀逸だ。野生動物のような躍動感に溢れ、誰が見ても、どこから見ても美しい。特に後ろ姿は魅力的である。
「made in spain」 のステッカーもTAIWANじゃないんだぞと言っているようで誇らしげだが、しかし芸術的なデザインやスペインの情熱がヒルクライムで背中を押してくれるわけではない。これで性能が伴っていなかったらただのダメバイクである。
これはユーザーに媚びたデザインコンシャス・ダメバイクか。
それとも性能を追及した結果として出来上がった奇跡の機能美なのか。
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