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
インテグラルBB、シートマスト、No90フォークなど独自の機構を取り入れ、規格に縛られていた既存の構造を破壊しながら大幅に進化してきたニューマドン。そのマドンシリーズのトップモデルが6.9だ。今もっとも注目すべきこのバイクを、ライター安井があらゆる地形を様々なホイールで走り、徹底検証した。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
遂に真打登場、という感もあるマドン6.9。世界選手権を制したターマックSL2も凄いバイクだったが、こちらは2007年のツール・ド・フランスで鮮烈のデビューウィンを飾り、先日まで行われていた2008ジロ・デ・イタリアでも鮮やかな勝利を挙げたばかりのTREKのフラッグシップモデルだ。
クラウン部分での曲げを必要としないNo90フォークやベアリングユニットをフレームに組み込んでしまったBB、快適性と軽量化を同時に実現したシートマスト構造 (流行りのインテグラルシートピラーと違って緊張の切断も必要とせず、従来のバイクと同様の調整幅を持たせているところも評価したい) など、ロードバイクファンにはすでにお馴染みの 「革新的」 構造は下位モデルと同一。5.1や5.2との違いは、フレーム素材にある。
この6.9に使用されている素材はOCLVレッドカーボン。最上級のハイモジュラスカーボンを使用し、トレックが採用しているカーボン積層法の中で最も複雑で手間のかかる方法で作られている。その結果、旧マドンと比較してフレームセットのトータル重量 (シートポスト、ヘッドセット、BB込み) で250g以上の軽量化を実現している。
そんなマドン6.9で、二日間・合計300kmに渡るテストライドを楽しんだ。
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初っ端から完全な主観で申し訳ないが、このスタイリングとカラーリング (要するに見た目) は2008年モデルのロードバイクの中でも出色の出来だと思った。
その形状はどこまでもエレガントであり、オーガニックな美しさを持ち、もしかすると見る者に宇宙的なイメージすら与えるかもしれないが、しかしカタログの中では理論的な正当性をしっかりと説明している。
グラフィックにおいても、モノトーンを纏ったボディをパーンと張りつめた緊張感が包み込み、バイク全体を優しく支配している。それはフレーム各所にちりばめられた赤いラインによってもたらされているものかもしれない。 このカラーリングを含めた6.9の美しさはオルベア・オルカと双璧をなしているとまで思うのだが、オルカの回でも言ったように、性能が伴っていなければただの飾りにすぎない。
とはいえ、07年のツール・ド・フランスと08年のジロ・デ・イタリアを最速タイムで駆け抜けたマシンに乗るのだ。それは地上で最も速い自転車を走らせる、ということでもある。ちょっと気合を入れよう。
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とは言ったものの、僕の意気込みに反して、このマドンはあっけなく速く、さりげなくスーパーな走りをしてみせた。ストーンとスピードを上げてスパッと曲がりスタッと止まる。どこにも死角がない。破綻が全くみられない。過激な性能でライダーをたじたじとさせはしない。気合を入れる必要なんてなかったのだ。
しかし何という軽やかでなめらかな感触!わざと荒く振っても激しく踏んでも、最初に感じたそのなめらかさは変わらない。これが新たな 「OCLVらしさ」 なのだろうか。ハンガーは堅すぎず柔らかすぎず (5.2よりは硬いが)。振動吸収性も、コンフォートな下位グレードと比べるとコツコツとした振動が伝わってきはするが、全く不快ではない。
他メーカーのバイクに比べると、ハンドリングに多少のクイックさを感じる。しかし扱いにくい過敏さではなく、コントロールしやすい俊敏さである。どんなスピードでもどんなRでも、ダウンヒル中に思った以上に深いコーナーに突っ込んで慌ててハンドルを切り増すようなシーンでさえも、ステア特性が変化することはない。 6.9が納車された幸せなオーナーは、一度その軽い鼻っ面を左右に振って、癖 (というほどのものでもないが) を掴んでしまえばOKだ。後は自由自在に振り回せるようになるだろう。
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