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LOOKといえども斟酌せず。待ち望んでいた595と400kmを共にした安井は、カーボンロードフレーム史上最高傑作と評されるそれに、いきなり悪態をついた。比較の精度を上げるため、595と同じホイールを付けた愛車585ウルトラで計300kmを走り、さらに朧げになりつつある586の記憶を手繰り寄せる…それらオーバー1000kmの先に見えてきたものとは?LOOKレーシングレンジ、危険な三つ巴評論!
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
ユタ州の2000m級山岳地帯でターマックSL3を堪能し、EPSのあまりの凄さに驚愕し、585ウルトラ+GDRアクセラレートBD+ハイペロンの切れ味にぶっ飛び、他媒体の企画で乗った新型マドン6シリーズのあまりのスムーズさに圧倒され…最近はこんな濃厚な高性能車にばかり触れているので、体力的に疲れるというより、イイ感じに精神的飽和状態になってしまう。嬉しい悲鳴。
そんな時である。LOOKの輸入総代理店、ユーロスポーツインテグレーションの岡部氏から 「08モデルなんですが、595の試乗車のシートポストを短く切りました。乗られますか?」 という嬉しい電話をいただいたのは。今年の乗鞍で、岡部氏 (ちなみにこの方は、586にライトウェイトホイールという反則バイクではあるものの、乗鞍を1時間15分というかなりの好タイムで登られる健脚の持ち主である) と初めてお会いし、僕の中古585ウルトラを見せびらかし、ついでに 「595にも乗せて!」 と我儘なお願いをしてきたばかりである。それを覚えて下さっていたのだろう。飽和状態がなんだ!こうなったら、ハイパフォーマンスバイクにとことん溺れてみようじゃないか!ということで、「是非お願いします」 と答えたのだった。
2006年にデビューした595は、チューブにVHMカーボン、BBラグにVHPC (ベリーハイプレッシャー・コンプレッスド) カーボンを使用するラグドカーボンフレームである。交代周期の早いハイエンドレンジにあって、すでに3年もの間、LOOK社のフラッグシップモデルを務めているという珍しいロングセラーバイクであるこれは、インテグラルシートポスト (LOOK流に言うとE-POST)、1-1/4インチに大口径化した下ヘッドベアリングなど、現代ロードバイクにおける 「三種の神器」 のうち2つを装備する (残りの一つはインテグレーテッドBB?)。09モデルからはHEAD FITシステムが導入され、2010シーズンもLOOKの旗艦モデルとして続投される。
今回はvol.32に登場した586と、vol.33で乗りその後購入した愛車585との比較を通じて、同一ブランドにおける悩ましい三車択一問題を、そして現代ロードバイクの潮流を考えてみたい。
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さてLOOK 595。
なんせあの585の次世代機である。デビュー後3年も経ているにも関わらず、未だに最前線で大暴れを続けているバイクである。一体どんなスーパー・アクションを見せてくれるのか?
ところがLOOK 595。
全然暴れない。むしろ無個性で大人しい。最初はそう思った。岡部氏のご厚意を無碍にしてしまうようなコメントをするのが非常に心苦しいのだが、個性の強いバイクばかり乗っていたため、そして比較対象となる585があまりに刺激的なため、595に対してはがっかり…とまでは行かないが、少なくとも拍子抜けはした。
漕ぎ出しの鋭さは585が上。登坂の軽快さも585が上。変態濃度の高いバイクばかり乗っていた中で、それはあまりに普通すぎるように思えたのだった。
同業の知人の多くが絶賛を惜しまない595。カーボンフレーム史上最高傑作とまで言われるあのLOOK 595に、「拍子抜け」? 「がっかり」?
それが本当なのだから仕方がない。身体がそう感じてしまったものは仕様がない。なにか問題ありますか?
その日はそのまま200kmを走り込んだ。夜、試乗車に装着されていたキシリウムESのフリーをシマノに交換し、自分の585ウルトラに履かせて、次の日その585で160kmほどを走った。数日を空けてからホイールを元に戻し、595でまた峠へ。さらにまた同じことを繰り返し…そうすることで、見えてきたことは多かった。
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誤解を恐れずに言えば、595は、シャープではない (あくまでも585と比較すれば)。シルキーでもないし、スムーズとも少し違う (あくまでも586と比較すれば)。シームレス、と表現するのが最も近いと思う。
「Seamless」 とは文字通り、継ぎ目のないことだ。
人間の脚から左右交互に脚力が入力される (ピストン運動がクランク機構によって回転運動に変換される) 自転車という乗り物の特性の一つに、ペダリングをしているときは常に細かい加減速を繰り返していることが挙げられるが、595からは、その細かい加減速が少ない、もしくは無いような印象を受けた。だから、「階段を二段飛ばしでエイヤッと力強く駆け上がる585」 と、「その隣をエスカレーターでスーッと昇ってゆく595」 という、そんな比較イメージが2台を乗り比べた者の中に発生する。
加速感も独特だ。出足はいいが高速域で頭打ちになるでもなく、後半でグーンと大きく伸びるでもない。粛々と一本調子の定G加速。加速やペダリングだけでなく、ハンドリング、コーナリング中の姿勢変化、トルクデリバリーなどのやり方に、切れ目や繋ぎ目がない。まさに 「Seamless」 なライディング・フィール。ダウンヒルやスプリント的な走りでも、585に付き纏うナーバスさとは無縁だ。たわみを上手く活かしてピュンピュンと進む586よりはフレームの芯がしっかりしており、単純な剛性で言うと585>595>586という感じだろうか。こんな比較はあまり意味がないだろうが。
ハンドリングやヘッド剛性では 585に勝ち目は全くない。下側ベアリングの大口径化は確実に効いている。スプリントでハンドルを大きく振ったときのスタビリティ、ハンドリングの正確さなど、595から585に乗り換えるとさすがに古さというかアバウトさを感じてしまう。凄まじい安定感と抜群の直進性、扱いやすさ、回頭性、どれをとっても595 (や586) の上下異径ヘッドと585の上下ノーマルヘッドではレベルが数段違う。パワフルだが、しかし穏やか。車体の姿勢を制御する自動安定装置が備わっているよう。
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