炭素ドグマの真価とは ピナレロ ドグマ 60.1 vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

炭素ドグマの真価とは ピナレロ ドグマ 60.1 vol.2

オピニオン インプレ
プリンスとの最大の違いは「ソフトな表面層」の存在
全力でハエを叩き潰す大男
とはいえ、表面に二枚ほどソフトな層を残してあるのがこの最新鋭フレームのキモであり、プリンス・カーボンとの最も大きな差異である。プリンスと比べてダンシングがしやすく、長く維持しやすい。メーカーが 「グランフォンドにも対応する」 とアピールしているのは、このような理由によるものだろう。
しかし快適性が高いフレームではない。ここまで高剛性に仕上がっているのだから、さすがにガツンという少々大きな衝撃をハンドルに伝えることを許す。だが振動収束性は非常に良好だ。良好なのだが、所謂 「快適性・収束性の高い」 バイクとは振動処理の仕方が少し違う。同じく超絶に速い振動収束スピードを持つ586などは武道家が体捌きをするようにサラリと衝撃をいなすが、ドグマは大男が全力で蠅を叩き潰すように、振動の首根っこをギュッと一瞬で締め上げる。このやり方も、また鮮やかではある。
感覚の追従がやっと
乗りやすくなっているとはいえ、かなり硬いことに変わりはない。それこそ、この性能を100%発揮させられることのできるライダーはかなり限定されてしまうだろう、と思わせるほどに。フォーク自体もかなり高剛性に仕上がっており、それ故に初期応答性・微舵応答性は鋭い。タイトコーナーではクリッピングポイントを抉り取るようにスパッと向きを変える。しかし直進安定性はよく、シッティングでギアを踏み倒しているような状態でも上半身のブレがフロントホイールに伝わらず、微蛇行してしまうようなことが全くない。高速コーナーでもビシッと安定している。左右のブレード形状に差はあれど、相変わらずONDAフォークは奇跡的に素晴らしい。
これは、クニャクニャと湾曲したフォークが付いているというただそれだけで 「これぞピナレロ・ハンドリングだ!」 とほとんど脊髄反射で騒ぎ立てるような輩にはいつまでたっても解らないであろう、本当の、本物の、正真正銘の実戦性能である。
制動力は驚くほど高く、特に前輪側の剛性感 (フロントフォーク前後方向) は凄い。思い切りフルブレーキングすると腹から思わずグッと声が漏れるほどの凄まじい減速G。これはほとんど 「感覚の追従がやっと」 という世界に入りつつある。78デュラと組み合わせると危険かもしれない。試乗車に付いていたスーパーレコードならマッチングはいい。79デュラでも問題ないだろう。

ピナレロレーシングディヴィジョンの「硬派宣言」
 “未来”を力づくで“現在”へと引きずり込む
全開でダッシュしてみる。岩のような剛性を持つフレームを、苦痛が伴うことを承知でフルパワーを持ってして踏み付けてみる。ロードレーサー乗りにとっての、素晴らしき一瞬の始まりだ。そうするとドグマ60.1は、前方に広がる道という “未来” を筋骨隆々の腕で鷲掴みにし、力づくで “現在” へと引きずり込むようにしながら加速する。こんな走り方をするバイクは初めてだ。圧倒されるが、凄まじく速く、物凄く楽しい。
そこには、ニューマドンのように 「勝手に速く走っていってしまう」 のではなく、「ちゃんと自分が速く走らせている」 という生々しい実感がある。トレックのエンジニアは 「漕がずとも走り出すリニアモーターカー」 のようなロードバイクを目指しているに違いないが、ピナレロのエンジニアは 「人間の1馬力が走らせる100万馬力の機関車」 を作ろうとしている。それがドグマの 「作品性」 であり、ピナレロレーシングバイクの 「世界観」 である。
注目すべきは、何もその走りだけではない。新素材を使って凝りに凝った設計を取り入れた精度の高い超高性能フレーム、それを一本作ればいいのなら知識と経験のあるエンジニアを一人連れてくれば可能だろうが、それを同じクオリティで年間何百本何千本も 「量産」 したいというのなら、話は変わってくる。ピナレロに素材を供給する東レのある人物がこう言ったそうである。
「高価な60tカーボンやナノアロイのような特殊な素材を使って優れた設計で製品を作る能力があるブランドはピナレロ以外でも存在するだろうけど、それを量産化して実際に販売できるメーカーはピナレロくらいしかないでしょう」
生産技術が製品に課す制約は、おそらく我々が思っている以上に大きい。「世界観」 や 「作品性」 はなにもエンジニアの 「熱き想い」 だけが作り上げるのではない。それを 「具現化 (=量産化)」 することのできる体制と量産技術があって初めて世に出て、僕らに届くのである。今のピナレロにはそれができる体力と勢いがある。もちろんビジネス的な勝算もなければ社長はゴーサインを出さなかっただろうが。
ゼロ戦とグラマン
ブランドの方向性や各モデルの個性というものはそういったものの上に成り立っており、そこにロードバイクの面白さがある。
穴あけ加工をフレーム各部に施し極限まで機体を軽くして運動性能を上げ、「相手の銃弾に当たりづらく」 作ることで空中戦を生き残ろうとしたゼロ戦。戦闘能力を高める為に防弾装置すら無かった。それの2倍近くの重量を覚悟の上で機体をできるだけ頑丈に作ったグラマンは、スピードや旋回性能を犠牲にしながら 「弾が当たっても落ちない」 ことで貴重な人材 (パイロット) の安全を守り、戦況を有利に生き抜こうとした。
例えば、そんな 「ゼロ戦とグラマン機の設計思想における文化的相違」 のようなものが、このドグマ60.1と最新柔軟系バイクとの間には厳然と横たわっている。
しなりを積極的に取り入れ、柔らかいのになぜかよく進む、というマドンや新世代LOOKやR3やRHM9やGDR (次回登場予定) らとは、設計思想が180度逆。「たわみはトモダチ」 というのがそれら穏健派フレームの根底にある設計思想だが、たわみを力づくで押さえ込み、衝撃を弾き飛ばしながらどんどん進め!というのが武闘派ドグマのモットーだ。高性能ロードフレームを作るという目標こそ同じだが、そこへのアプローチが両車正反対なのである。
テクニック追求か、パワー強化か。
巧妙な戦略か、殴り合いの強さか。
暖かい血の通った馬を目指すか、冷徹なマシンにしたいのか。
これからの時代のハイパフォーマンスロードバイクはこういった視点で眺めなければならなくなるだろう。同じレーシングフレームなのにここまで思想の異なるモノが出来るというのは、金属素材ではなかったことのように思う。もちろんカーボンという素材の持つ多様性がその理由だが、それを使いこなせるだけの技術が熟成し、しかも技術レベルが各社間で均一化してきたことの証でもあるだろう。これはなかなか興味深い事実ではないだろうか。どっちが正しいとか、どっちがより優れている、というようなことではなく、どっちが自分のライディングスタイルに合っているか、を見極めなければならない。
だからピナレロのトップモデルが金属かカーボンかなんて、さほど重要な事ではない (近い将来にカタログから落ちてしまうであろうマグネシウム・ドグマを思うと少々寂しいが)。注目すべきは、ドグマ60.1によってピナレロは 「レーシングロードバイクとは硬くあるべし」 という態度をよりいっそう強固なものにしたという、その事実である。
しなりを取り入れ、万能性に重きを置き始めている有力メーカーが多くなり、八方美人の万人受けバイクが多くなってきている。「ターマックSL3なんかは十分高剛性でメチャ刺激的じゃないか」 という方もいるだろうが、スペシャライズド等の幅広いラインナップを有する大きなブランドは、レーシングライン以外に明確な快適路線を持っているからこそ、あそこまで剛性に振ったフレームが作れるのである。
そんな中、ドグマ60.1のデビューによって、FP7、プリンス・カーボン、ドグマ60.1というピナレロ本気の3台は全て 「撓み排除、剛性重視、喧嘩上等」 という潔いコンセプトを持つことになった。オリジナル・ドグマの退役とドグマ60.1の即位、それは希代のエンターテイナーであるピナレロの 「硬派宣言」 に他ならないのである。

《編集部》

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