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モノコックのメテオ・ランチと同時に発売されたラグドフレームのメテオ・スピード。方向性は2台とも同じ。カラーリングを含めた見た目もほとんど同じ。GDRの購入を決意した人ならどちらにするべきか思い悩むところだ。しかし乗れば意外な味付けの違いがあった。見たまま・乗ったまま・考えたままの報告をもってGDRというフレームの立ち位置をよりいっそう明確にせんとする第47回。「高剛性は高性能」というノーテンキな時代は終わりを告げた!…のか?
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
グラファイトデザインフレームの宣伝文句の一つに、「ゴルフシャフトで培われたカーボンの技術をロードバイクのフレームに…」 というものがある。そもそも、ゴルフシャフトにはなぜ “カーボンのしなり” が必要とされるのだろうか?ゴルフシャフトとロードフレームとの共通点・関連性とは何か?そして2車種のラインナップとした理由とは?GDR開発の中心人物である新矢氏と松崎氏に聞いてみた。国産ブランドのいいところは、比較的簡単に開発陣に直接話を聞くことができる点にある。興味深い回答を得ることができたので、以下にほぼ原文のまま掲載する。かなり長いので、読みたい人だけ読んで下さい。
Q:そもそも、ゴルフシャフトにはなぜ “しなり” が必要とされるんですか?
A:シャフトをしならせることにより、人間の力に加えて 「戻り力」 を利用できるようになること。そして、人間一人一人タイミングや力量が違うため、しなりを作ることにより性能を曖昧にできること。その2点が理由です。しなりが無いと、「1つのタイミング」、「ある速度域」、「ある力量」 でしかポテンシャルを発揮できなくなります。ビンディングペダルにおけるフローティングシステムを考えてみて下さい。あれがあることによってほんの少し足元が自由になり、ライダーの癖などを抑え、ポテンシャルを向上させることができますよね。それと同じイメージです。
Q:ゴルフシャフトとロードフレームとの共通点・関連性とは?
A:両方とも人間が使う機材です。そのため、製品には若干の曖昧さ (適度なしなり、ねじれ) が必要になる、ということが共通点になってきます。人間が機材に合わせるのではなく、機材が人間に同調するイメージで作っています。そうすることで自分の癖や力量を気にしなくてもポテンシャルを上げることができるんです。
確かに、ロードフレームとゴルフシャフトには共通して求められるものが多いと言えるかもしれない。しかし、それは人によって変わるのではないだろうか?(ゴルフならインパクトスピードの高低、バイクならペダリングトルクの強弱・ケイデンスの高低…)
Q:求められる 「しなり」 とは、人によって違うのではないですか?やっぱり理想はオーダー?
A:確かに人によって千差万別だと思います。理想はオーダーですが、価格も高くなり一部の人間しか試せません。それも踏まえ、弊社はフレームの剛性を抑えて適度なしなり (曖昧さやゆとり) をもたせました。そうすることで幅広いライダーに合うフレームになっていると思います。一時はオーダーも考えましたが、弊社の様な小さなメーカーには信頼性や責任の面で厳しく、さらにフィットさせるための膨大なサンプルの用意が難しいのでやめました。しかし、パイプの基礎研究は永遠に続けて行くつもりです。現在までに約100種類の自転車用パイプの調査を行っています。
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Q:なぜ2種類のフレームをラインナップしたんですか?モノコックとラグ、それぞれの理由は?
A:まずは弊社の得意分野でもある造管技術を発揮するためにラグタイプを作りました。パイプ自体の完成度を高め、フレームにする手法です。モノコックは高度な積層技術を発揮するために作りました。軽量で高強度が可能になる方法です。そして、そこに合った用途をはめ込み、ラグタイプは高速レース向き、モノコックはヒルクライム向きとしました。
Q:なぜランチをISPにしたんですか?
A:一つは、シートポストを使うより軽量になるため。もう一つは、GDRフレームのISP部分にはわざとしなりをもたせてあるので路面からの突き上げがソフトになることです。しなりによってシッティングで登坂している時にISP部分を股関節の動きに同調させるという目的もあります。
Q:ハンガー下がりがメテオ・ランチは66mm、メテオ・スピードは68mmと変えてありますが、なぜですか?
A:ヒルクライム向けであるメテオ・ランチのダンシング性能 (弊社ではハンドルスイング性能とも呼びます) を向上させるためです。高速レース向きのメテオ・スピードに比べて、ハンガー下がりを2 mm上げています。
Q:ヘッドチューブの長さが違うのはなぜでしょう?
A:クライマータイプの選手のハンドルポジションはやや高めに設定されているケースが多いからです。選手によっては、平地のレースではハンドルポジションを低めに、山岳のレースでは高めに、と変更することもあります。だからといってコラムスペーサーを入れてハンドルポジションを高くすると、ヘッド周りの剛性感がなくなってしまい、登りのダンシング時にサクサクとした感じが損なわれてしまいます。そのため、ランチはダンシング性能を上げるために、スピードよりヘッド長さを10 mm長くしています。ただし51サイズは同じ100 mmです。
Q:スローピング角度も違うようですが、なぜですか?
A:スローピングを大きくするとダンシングがしやすくなります。しかしブレーキ制動性能は悪くなる傾向にあります。スピードは高速レースでのブレーキ性能を維持するために、ランチの同サイズを基準にスローピング度合いが20mm小さくしています (=ホリゾンタルに近くなる)。以上の説明でお分かりの通り、ランチは登りのダンシング性能を重視したフレーム、スピードは高速巡航性能を重視したフレームであるといえます。
Q:フレーム重量に差があるのはどうしてですか?
A:ラグ接着とモノコックという製法上の違いと、モノコックのランチには中弾性カーボンを使って軽量化しているためです。
最後にちょっと意地悪な質問も。
Q:国内メーカーとしてはかなり挑戦的な価格と言われませんか?
A:確かに価格設定は高めではありますが、これまでに費やしたR&Dや、それらから得られたノウハウで商品化したこと、また全体に高品質カーボン (高品質カーボン=高弾性カーボンということではない) を使用していることを考えると妥当な価格であると考えています。
Q:プロチームに供給する予定はありますか?
A:残念ながら現在その予定はありません。ただ、R&D上必要となった場合には何らかの形で選手にテスト供給することは常に考えております。
Q:ではニューモデルの予定は?
A:もちろん開発中です。発表までもう少しお待ちください。
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さて、設計者側の意図がある程度理解できたところで、実際に走り出そう。メテオ・ランチを一週間たっぷりと堪能した後はメテオ・スピードに乗り換えて、こちらも一週間をかけて存分に愉しむことができた。
トルク変動を少なく感じさせるペダリングフィールは、「ランチ」 と 「スピード」 に共通するもの。静かで滑らか。タメのある動き。それは極めて紳士的な挙動。振動吸収性もかなり高い。しかし、メテオ・ランチと比べてこのメテオ・スピードの方がクセが少なく、より普通のバイクに近いと感じた。とはいえ、かなりソフトな部類に属することに変わりはなく、加速そのものにドキッとするようなドラマ性はないし、瞬発力には乏しい。
全ての面において走りが丸い。かといって曖昧でもない。そこにGDRの2台の真価があると思う。ただ、今までロードバイクに必要だと思われてきた性能が備わっていないこと (絶対的な加速が苦手であること、走り方によってはヒルクライムでの軽快感が乏しいと感じられること) も、2車に共通する。しかし、少なくともこのメテオシリーズにおいては、それは必ずしも欠点の指摘を意味しない。
重要なのは、『そこではないどこか』 に、『どんな意味を見出すか』。
これがGDRの難しいところであり、面白いところだ。
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