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様々な革新的機構と滑らかで新しい走行感を武器にロードバイクの進化スピードを一気に加速させたニューマドンが、早くもモデルチェンジを遂げた。ランス・アームストロング擁するチームレディオシャックの駿馬として活躍中のそれを、安井は「ロードバイクの進化の最先端に位置するフレーム」としながら、しかし「インプレ記事にありがちな○○讃歌にはしたくない」と言う。一体なぜ?最新型マドンについての、興奮の報告と冷静な評論。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
焼き直しを重ねながら綿々と続いていた5000系を一新し、圧倒的と言えるほどの高性能を世界に見せつけたニューマドン。それがデビューから2年と経たないうちにフルモデルチェンジを遂げてしまった。どう考えても、2008〜2009年式のマドンにモデルチェンジの必要はなかった。それほどの性能を持っていた。しかしトレックは 「イイモノができたからといって遊ばせておいたらエンジニアの腕が鈍る」 とでも考えたのか、あっさりと設計変更を命じたのである。
“フレームの全箇所にかかる負荷を検証したうえで素材を削減して100gもの軽量化に成功、同時にヘッドチューブの横方向への強度を17%改善することで、ハンドリング性能も向上” させた 「ロード・パス・デザイン」。
“シートマストの形状を改良して30gの軽量化をはかり、縦方向の柔軟性を47%改善” した 「ライドチューンドシートマスト」。
“フォークステアを円形からオーバル型にすることで、路面からの衝撃を吸収する前方向の柔軟性を15%改善、またコーナリング時に要求される横方向への剛性を20%改善し、2009年度のフォークから30gの軽量化を実現、より軽く、強固で、確実なハンドリング、快適な走行を約束” する 「オーバル型フォークステアリングコラム」。
“2つのカーボンラグを余分な厚みを増すことなくオーバーラップさせ、全体的に均一な厚みを維持し完璧に接合するトレック独自の製法” である 「ステップジョイントテクノロジー」。
“素材を全体的に均質化し、内部から表面まで歪みや偏りのない完璧なフレーム成形を可能にする” という 「レジンライトモールディング製法」。
そんなマドン6.9のフレームを作り出すカーボン製造の新技術、「OCLV2」 (“”内はカタログから引用)。
要するに、いつもの見慣れたお決まりのモデルチェンジなのだが、しかしこうして初代ニューマドンは、圧倒的な性能を持ちながら、たった2年で交代させられてしまったのである。トレックというブランドの可哀そうなところ (凄いところでもあるのだが) は、「トレックのトップグレード」 というそれだけで各方面から過大なる期待を寄せられてしまうことだ。誰もが 「トレックなんだから良くて当然」 だと思ってしまう。マニアックな中小欧州ブランドのトップモデルが少々ヘボでも 「職人技がなせる味つけ」 だの 「大人なサイクリストに似合う」 だのといくらでも言い様があるだろうが、トレックのフラッグシップモデルにそんなことは許されない。トレックのコンペティション・バイクは、ツール・ド・フランスの先頭集団をひた走っていなくてはならないのである。そんな 「出来すぎ君は100点があたりまえ」 的プレッシャーの元で、エンジニア達はどんな仕事をしてのけたのか?
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これ以上、いったい何を望むのか?
最新型、2010年式のマドン6.9に初めて乗ったのは、2月上旬の夜中、気温は3度、場所は都内某ホテルの前。アスファルトを白く染め上げるまではいかないにしても、確かチラリチラリと雪が舞っていた。ホワイトとイエローという軽々しくもシャープなカラーリングに塗られたこの最新鋭機は、地上1mをただただ滑空するスマートな浮遊体としてそこにあった。所謂ありがちな古めかしいコンペティションツール、要するに 「人間の脚力を強烈なトラクションに変換して力強く走ってくれる」 のなら、まだ安心できる。僕の経験の中にそんなサンプルは、すでにいくつも存在するからだ。
最新型マドンの走りは、全く異様だった。下方に目をやると、僕の脚が僕の意識とは無関係に、静かに正確に精密に上下している。クランクとペダルは音もなくスムーズに高回転している。それこそ高性能モーターのように。
他のバイクとは、少しデキが違う。手持ちの判断基準の中にはない、異様なフィール。今やどこにでも転がっているありきたりな高性能車とは一線を画している。
「なんと滑らかに走ることだ!」
僕の背筋が薄い戦慄を覚えたほどだった。
昨年モデルから大きく進化したのは、このペダリングの滑らかさだろう。「路面からの衝撃を均してフラット化する」 という意味の滑らかさではなく、「脚への当たりがソフト」 という意味での滑らかさである。快適性は、前作と同レベルか。それでもレベルは第一級。微震動はトトンと上手くいなし、衝撃を通過するとコクッという小気味のよい衝撃が手と尻に伝わってくる。そんなロードインフォメーションの伝え方は素晴らしい。
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ゼロスタートでは、ライダーを驚かすような爆発的な加速をしてくれるわけではない。思い切り踏み込むとソフトな面が顔を出す。しかし、あまりの滑らかさがそう錯覚させるのである。加速感は少ないのに、実はハンドルをしっかりと握り締めていないと身体が後方に取り残されてしまいそうになるほど激しく加速している、という加速の仕方だ。気が付けばとてつもないスピードになっていてビックリする。EPSのような高速域での爆発力はないものの、超プロ級スプリンターでもない限り、この動力伝達性能に文句を言うライダーはいないだろう。
登坂能力も素晴らしいと言う他ない。上りでの585や平地でのEPSのように、何かが爆発しているような感覚ではないが、モーターで薄くパワーを上乗せしてくれている (しかも、ライダー氏にそうとは気付かせぬように…と慎重に気を遣ったやり方で) ようなイメージを伴って、不思議なくらいによく進んでくれる。特にシッティングからダンシングに移行した瞬間の、凄まじいトラクションをドバッと吐き出しながら、しかし涼しい顔をしてスッと前に出るそのクールな気持ちよさ。暗く重い冬が突然朗らかな春に転じたかのような、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだような、そんな気分になる。こんな瞬間は、このマドン6.9にしか存在しない。突出したスムーズネスを持っていながら、ペダリングの軽さも群を抜く。極上の滑らかさとハイレベルなトラクション、その矛盾するはずのファクターの両立。これに乗るライダーは、それを冷静に受け止め、理解する努力が必要とされるほどだ。
今回は、純正 (ボントレガー・アイオロス) に加えてマヴィック・アクシウムからキシリウム、R-SYS、カンパニョーロ・ニュートロン、ユーラス、シマノ・7850C-TUまで、様々なホイールで試してみたが、どのホイールでもバイクから受ける印象はほとんど変化しなかった (もちろんホイールの性能差はそのまま出るが)。マドンのフレームがライダーに感じさせる 「ペダリングの滑らかさ」 は、ここまで支配的なのである。2010年型マドンのデビューにより、新たな 「マドンらしさ」 が完全に確立された。
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