最新技術を大量投入したトレック渾身の勝負球 vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

最新技術を大量投入したトレック渾身の勝負球 vol.2

オピニオン インプレ
最新技術を大量投入したトレック渾身の勝負球 vol.2
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高速高負荷の世界でこそ輝く剛性感
動的性能は明らかに旧マドンを凌ぐ
サイズ50の見た目はちょっと歪だ。スローピングが非常に強く、ヘッドチューブがKVF形状によって前後に長くなっているため、ヘッド角が立っているように見えることも原因である。試乗車はヘッドチューブの長いH2フィットだったため、筆者のポジションに合わせるためにヘッド周りが無理のあるセッティングになってしまっているが、マドン7シリーズにはヘッドチューブの短いH1フィットも用意されている。最近のフレームには小さいサイズでもとにかくバカみたいにヘッドチューブを長く設定する傾向があり小柄なライダーを困らせているが、ハンドルをきっちりと下げられるジオメトリを用意するあたり、抜かりがない。
さて、これらの新機構をトレックのエンジニア達はどうまとめてきたのか。本格的に走り出す。さすがに加速はいい。脚に伝わってくる剛性感は非常に硬く、切れ味は鋭い。いずれも旧マドンを凌いでおり、性能の面では文句を付けることができない。
スピードを上げてみる。フレームは相変わらずガチガチに硬いのだが、どうも巡航が楽な気がする。ホイールを替えて走ってみる。高負荷域になればなるほど、高速域になればなるほど、通常のバイクに比べて巡航に必要なパワーが少なくなっていく気がする。
まさかKVFが効いているのだろうか。それもあるかもしれない。空力に優れたフレームが多くなってきた昨今だが、空力形状の効果を実感できるかというとほぼ不可能だ。エアロロードの空気抵抗の少なさを絶賛するコメントがメディア上には溢れているが、よほど繊細な神経の持ち主が書いたのだろう。ポジションもホイールもいつもとは異なる試乗車であるはずなのに、よく分かるもんだと感心してしまう。筆者がポジションとホイールを統一して実走比較した結果、高速域でなんとなく速いかな、と思えたのはスコット・フォイルとスペシャライズド・ヴェンジ、そしてこの新型マドンの3台のみ。全て開発資金豊富な巨大メーカーである。
余談だが、パワータップで時速40km巡航時の必要ワットを計測し、パーツを統一してエアロフレームと通常のフレームとを比較したことがある。しかし、空力性能の違いよりその他の要素 (自然の風、追い越すクルマが巻き起こす乱流、フォーム、ペダリングのトルクムラなど) の影響のほうが大きく、明確な数値差はでなかった。
「山を高くする」より「谷を埋める」
KVF形状も手伝っているのかもしれないが、おそらく理由はほかにある。ペダリングフィール (=剛性チューニング) である。動力伝達のみにフォーカスしたフレームは、踏み込むポイントでトルクがガツンとかかり、死点で抜けるという感覚を与えやすい。ゼロスタートに強く、トルクの脈動が激しくなるため登坂でもヒラヒラパリパリとした軽快感が強くなる。このようなバイクに乗った人は、「過激」 「刺激的」 「目の覚めるような加速」 などと評する。いかにも速いという印象を与えるのだ。
しかし、それらとは種類の違う 「速さ」 もある。ペダリングのトルクむらを強くする方向ではなく、トルクむらを均 (なら) す方向に仕上げてあるフレームである。これに乗った人は、「高速巡航に長けている」 「踏めば踏んだだけ進む」 などと言う。ペダリングのトルク変化を波形で表したとき、山部分をさらに高く上に伸ばす方向で走るのが前者、谷部分を埋める方向で走るのが後者 (これはあくまで感覚的な表現であり、実現象がこうなっているとは限らない)。
今回のマドンは、初対面では前者かと思わせといて、じっくりと向き合うと実は典型的な後者、という複雑なフレームであった。そして後者は、レベルの高い剛性チューニングを施さないとベタッと重いペダリングフィールになってしまいがちだ。しかしマドンに重ったるさは微塵もない。実に見事である。京都で行われたメーカー試乗会では、高速で長時間踏み倒せるルートがなく気付かなかった。新型マドンは、高負荷高速域に強い。これはちょっと未体験の性能である。
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客層を絞ることで高みに達した“戦う道具”
ドマーネがマドンに与えた影響
快適性においても、ある程度の振動は来るが減衰が早い。ストイックだと思わせておいて、不快ではないのである。ここもまた見事だ。ただ、2008年以降のマドンに見られた、磨きに磨き上げた洗練の極致ともいえるような剛性感、あの氷上を滑るのごときスムーズな走行感は、2013年モデルのマドン7からは消えてしまったように思う。これもドマーネの登場による変化なのだろうか。
Q:5500の時代からトレックのトップモデルはずっとインプレさせてもらっていますが、08モデル以降、マドンは長らく、乗りやすくしなやかに仕上げられていたように思います。しかし昨年の6シリーズあたりから高剛性高反応性、いわゆるレーシーな味付けになってきて、2013年モデルの7シリーズはかなりカリカリになっていました。そこには理由があるのでしょうか?個人的には、快適志向のドマーネができたことでマドンにレーシーな味付けが許されるようになったのでは…と思っているのですが。
A:その通り。一台で全てのライダーの全ての要求に応えようとすると、バイクの進化度合が限られてしまうこともあります。ドマーネとの棲み分けも考え、マドンはよりレーシーな味付けにしています。私はレースでもドマーネを使っていますが、実業団クラスなど高い反応性が求められるレースならマドンに乗っていたでしょう。レーシングバイクとしてのマドンは素晴らしい性能を持っていますが、それはあるライダーには過剰なものにもなってしまうことも確かです。ライダーが何を求めるかによって、ベストバイクは異なります。
なるほど、今度のマドンは、あえてターゲットを絞ったのである。「マドンがキツいならドマーネをどうぞ」 と言えるようになったのだから、その手法が可能になったのだ。これで成功しているのがスペシャライズドである。ドグマK (旧コブ) を投入したピナレロも、最新型ドグマをかなり過激な方向に味付けている。
Q:昔のバイクは剛性偏重だったのに対し、2007年のニューマドンからしなりを良きものとして取り入れた設計にシフトしていたような気もするのですが。
A:その通りです。ただ硬いだけではなく、たわみを計算に入れ、あえてしならせるような設計を取り入れています。単に硬いだけ、軽いだけのバイクではなく、フレームトータルでみたときに 「どこでどうしなるか」 ということが非常に重要になってきています。これは最近の研究結果で分かったことなんです。
Q:新型マドンのフレーム形状はKVFで空力に特化したものになっていますが、この形状だと “しなりコントロール” の妨げにはならないんですか?各チューブの 「しなり方」 はカーボンの積層でコントロールしているのでしょうか?
A:しなりのコントロールは、形状と積層の両方で行っています。カーボンレイヤーの積層によってしなりを調整できることも確かです。
新型マドンのフォルムはほぼ全てがKVF形状に支配されている。新型マドンに限っていえば、形状というよりは積層方法による剛性コントロールがメインなのだろう。先述の剛性コントロールも、この積層によって実現されているものだと思われる。
ひたすら絶対的な速さを求めたフレーム
「マドンの性能は、あるライダーにとっては過剰なものとなってしまう」 というエンジニアの言葉通り、7シリーズの剛性感の仕上げ方は、アマチュアライダーの脚力に合うか、いかに気持ちよく走れるか、などという方向性ではないように思う。今回の7シリーズの想定脚力は非常に高く、そして狭いのだ。ピントが合うのは高負荷走行時のみ。ただひたすらに絶対的な速さを求めたフレームなのである。
旧マドン (6シリーズ) の想定脚力はもっと低く、幅広かった。だから筆者レベルの乗り手でも恍惚となれたのだ。もちろん、動力性能は高く大トルクにもきっちりと答えた。スパッと加速もしてみせた。そうでなければグランツールの先頭集団では戦えない。しかし、どこか女性的な線の細さを備えていた。そこが旧マドンの最大の魅力だった。繊細で軽やかで滑らかで動物的な、乗り手を至福に包む甘くも爽快なあのペダリングフィール。あれは、もはや過去のものとなってしまったのだ…。
そう思っていたから、比較のために同時に借りていた新型のマドン6シリーズにそんな走行感を発見したときは嬉しかった。旧6シリーズのあの独特の走行感は、そのまま新型6シリーズに色濃く受け継がれていたのである。だから、味とか一体感とか楽しさなどの情緒が欲しいのであれば、7ではなく6シリーズが有力な選択肢となる。7シリーズは、ユーザーを限定してしまうことを承知で絶対的な速さを目指し、見事にその高みに達した冷徹な “戦う道具”。6シリーズは、究極の滑らかさとでもいうべき旧型の優れた走行感を受け継いでいる。6がセカンドグレードになったのではなく、7という別モノが加わったと考えるべきなのだ。
さて、エンジニアの言葉を挟み込みつつ検証してきた新型マドンだが、果たしてこれは、ロードバイクの正統な進化を示したモデルなのだろうか?現時点ではまだ明確な回答は差し上げられないし、未来のロードバイクが全てこのようなカタチ、このような方向性になるとは思わない。しかし、「とりあえず現在最速のバイクが欲しい」 のであれば、今はこの7シリーズを買うしかなさそうである。空力、軽さ、加速、巡航性、全てがハイレベルでバランスされたモノがあっさりと手に入る。プロジェクトワンで 「好みのカラーがない」 という言い訳もできなくなる。9000系のダイレクトマウントブレーキが発売されたら、そいつに交換すればいい。おそらく制動力も最高レベルになるのだろう。それこそがロードバイクが目指すべき理想像じゃないかと言われれば、そうかもしれない。
しかし、この新型マドンを自転車評論という視点で眺めてみれば、非常にレベル高くしかもグレード間で上手く作り分けられたその全体的な走行性能より、それらを補助している個々の要素技術にフォーカスしたくなる。マーケットの拒否反応や顧客からのクレームなど、KVFとダイレクトマウントについての厄介な事態は容易に想像できる。あのトレックがその辺りを想定してないわけがない。技術者達はそれを全て受け入れる覚悟で新技術の投入に踏み切ったのだろう。こうしてトレックは 「先駆者が必ず味わう辛苦」 と引き換えに、このロードバイク激動の時代を先頭切って走り始めたのだ。
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