新連載【山口和幸の茶輪記】“ディレーラー”は世紀の誤訳 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

新連載【山口和幸の茶輪記】“ディレーラー”は世紀の誤訳

オピニオン コラム
「というと、ムッシューはトゥール・ド・フランス自転車大レースをご存知ない?」

これは「くまのパディントン」シリーズのうち70年に初版発行された「パディントン、フランスへ」のなかに登場するセリフ。物語のなかではその後、三輪車に乗って選手気取りのパディント
「というと、ムッシューはトゥール・ド・フランス自転車大レースをご存知ない?」 これは「くまのパディントン」シリーズのうち70年に初版発行された「パディントン、フランスへ」のなかに登場するセリフ。物語のなかではその後、三輪車に乗って選手気取りのパディント 全 1 枚 拡大写真
「というと、ムッシューはトゥール・ド・フランス自転車大レースをご存知ない?」

これは「くまのパディントン」シリーズのうち70年に初版発行された「パディントン、フランスへ」のなかに登場するセリフ。物語のなかではその後、三輪車に乗って選手気取りのパディントンが大集団に巻き込まれ、ツール・ド・フランスの中間スプリント賞を獲得してしまうという奇想天外なお話が展開される。ツール・ド・フランスを四半世紀ほど取材しているボクが、最初にこの大会を認識したのは児童小説というわけだった。

児童小説といえば、アントワーヌ・ド・サンテグジュペリが書いた『星の王子さま』が日本も人気だ。ちょっと前には再ブームとなったが、そのきっかけは日本語訳の版権が切れて各社から新訳本が相次いで出版されたから。名訳といわれた仏文学者の故内藤あろう(曜の日ヘンをさんずいに)氏の誤訳を指摘する書籍もいくつかある。これまで半世紀以上もこれを普遍の小説として読み続けてきた人たちには、また別の世界を見せつけられたようで、戸惑いもあるが新鮮さもある。

そこで気づいたのだが、日本の自転車産業界においてヨーロッパの変速機を見よう見まねで模倣した時代に、開発者がとんでもない誤訳をしたのではないかということ。それによって日本はスポーツ変速機の開発が少なくとも20年は遅れたはずだ。

たとえば変速機という意味の「ディレーラー」という名詞。これを辞書で引くと動詞的な意味は「脱線する」とか「機械の調子が悪くなる」などあまり好ましいものじゃない。大阪府堺市の開発担当者が、「外装変速はこらアカンな。やったら内装変速にしたらエエんとちゃうか」と言ったか言わなかったかは知らないが、ディレーラーを使わない内装変速の開発に注力したとしても不思議ではない。

もちろんそんなことは堺市界隈の関係者50人ほどにお話をうかがったなかで一度も聞いたことがない。つまり勝手なボクの推測に過ぎないのだが。

もともとディレーラーとはチェーンを脱線させる仕組みのことで、変速機という訳し方がそもそもモノを見る方向性が違うような気がする。人間の視点から見れば「変速機」でしかあり得ないのだが、チェーンの身になってみれば「我が道を脱線させる代物」なのである。近年になって堺市でHGギヤという画期的な商品を開発したエンジニアが、「何カ月もそれに集中していると、最後にはチェーンの気持ちが分かるようになった」と言っていたが、心を対極において考えることも大切なんだと痛感した。
(山口和幸=サイクルスタイル編集長)

《山口和幸》

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