ウクライナ危機を理解するために知るべきは「歴史」と「国民」 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

ウクライナ危機を理解するために知るべきは「歴史」と「国民」

オピニオン コラム
戦艦ポチョムキン
戦艦ポチョムキン 全 4 枚 拡大写真
みなさんは、「戦艦ポチョムキン」という映画をご存じだろうか。1925年にソビエト連邦によって製作された無声映画だ。ロシア革命を称えるプロパガンダは別として、無声映画としての評価は世界でも高い。ストーリーは、1905年(日露戦争の最中)にウクライナの港、オデッサで実際に起きた事件を映画化したもの。黒海艦隊の旗艦である戦艦ポチョムキンの乗組員が、体制への不満を募らせて戦艦を乗っ取る。オデッサに停泊し、市民にも賛同を呼びかけるが、帝政ロシアの軍隊が市民に向かって発砲する。この発砲シーンは「オデッサの階段」と呼ばれ(海に面する階段で撮影)、映画史上に残る名場面と言われている。最後は、多くの船舶が同調して、ロシア革命に繋がっていくという映画だ。




◆クリミアはロシアにとって歴史的・地政学的に重要

私は、前職(トヨタ自動車)で、ロシアやウクライナを幾度となく訪問した。この映画の舞台であるオデッサも、戦艦ポチョムキンの一部が残る博物館も訪問したことがある。オデッサは、黒海(地中海の一部)に面した旧ソ連の中では、大変温暖な地域である。このアデッサやその隣のクリミア半島が、今、再び世界の注目を浴びるところとなっている。ロシアにとって、オデッサやクリミア半島というのは特別な存在である。クリミアは、18世紀末にロシア帝国女帝のエカテリーナ2世が、「何としても不凍港を確保したい」とオスマン帝国との戦争に勝利し、クリミア・ハン国から手に入れた地政学的に極めて重要な地域である。そして、その後、「クリミア戦争」など幾度かの戦争で、血で血を争う戦いを経て、ロシア帝国が確保した地域だ。

ロシア帝国時代、その艦隊は、「バルチック艦隊」、「太平洋艦隊」、「黒海艦隊」と3つに分類されており、現在もクリミアはその「黒海艦隊」の母港となっている。1954年、旧ソ連時代に当時のフルシチョフ書記長が、クリミアをロシア共和国からウクライナ共和国に移管することを決めた。当時は、同じソビエト連邦内のことだったから、まさか今のような状況になるとは誰も想像していなかったのだろう。1991年にウクライナはソ連の崩壊で独立したが、ロシアは2042年まで、ロシア軍がクリミアの軍事基地を使用することを認めさせている。それほど、「クリミア」はロシアにとって歴史的にも、地政学的にも重要な地域であるということは理解しておいた方がいい。今回、ウクライナに欧米寄りの暫定政権が樹立されると決まった時、ロシアが、真っ先に「クリミア」を死守に来ることは多くの研究者が想定していたこことだ。結局、ロシア系住民が6割を占めることから、住民投票により、ロシアへの帰属が住民に選択されたが、まだ、ウクライナ暫定政権は認知していない。


◆西欧にとってロシアからのエネルギーは欠かせず

もう一つ、今回の危機を見るうえで、知っておくべきことは、「エネルギー問題」である。ロシアは、現在、世界最大の原油・天然ガスの生産国である。国家財政の半分以上をこれらの収入に頼っている。ロシアで採掘される天然ガスの多くが、欧州にパイプラインで送られており、ウクライナにも供給され、また、ウクライナ経由で西欧に供給されている。

ウクライナは、ロシアから比較的安価な価格で提供されているが、それでも昨今の経済混乱から対露負債が大きくなっており、その額は20~30億ドルと言われている。また、ロシアも決して国家財政状況は、思わしいものではなく原油や天然ガスを確実に海外に売っていかなければ財政が破たんする。ロシアの国家予算が成り立つ原油価格は、110~120ドル/バーレルと言われている。昨今の中国の景気減速や米国のシェール・ガスなどの産出により、原油価格が100ドルを割る状況も起きてきているから、ロシアにとっての金払いのいい西欧は離せないはずだ。また、ウクライナからの債務が、デフォルト(借金棒引き)にでもなったらロシアの国家財政は大変なことになる。これは、世界経済に激震が走ることにもなる。

一方、EU側としても、ロシアからの天然ガスの供給が細るようなことがあれば、家庭生活や経済に大きな影響がでる。特に、ドイツはロシアへのエネルギー依存が大きい。こうしたことから考えると、EU側もロシアも、「早くウクライナが平常に戻り、ロシアから欧州へのエネルギー供給を安定させたい」という気持ちは強いと思える。


◆ウクライナ危機は「国民の問題」

ここまで観て分かるように、ロシアもEUもウクライナのこれ以上の混乱は望んでいないし、ウクライナが敵対的に東西に分割されることも望んでいない。よって、ここからはウクライナの「国民の問題」である。彼らが、EUやNATO加盟を求めていくのか、ロシアの影響下であり続けたいのかを選択していかなければならない。この国は、これまで第一次世界大戦やソ連崩壊などにより、国の運命を外的要因で決められてきたことが多く、国民が「国の姿」を議論する時期があまりなかった。私は個人的には、州の権限を高めた「連邦制」をまず導入するのがいいのではないかと思う。東部の州は、ロシア語も公用語に認めたり、ロシアとの自由貿易特区を作ればいい、西部はEUとの連携を深めていけばいい。そのうち「EU加盟」や「NATO加盟」の踏絵が訪れるが、その時に意見が合わなければ、1993年にチェコとスロバキアが行ったように、平和裏に東西で協議離婚(分割)をする手もある。(チェコとスロバキアは現在も兄弟国として緊密な関係にある)

いずれの場合も国民が議論をして決めていくことである。国民が「国の姿」をじっくり考える時間が必要だ。周りの国が武力介入をすることはあってはならない。また、為政者が、銃を国民にむけることが、何の解決にもならないことは、「戦艦ポチョムキン」の中で、90年も前に語られていたはずである。我々としては、ウクライナの人たちが、冷静に民主的な議論ができるよう見守り、両陣営に顔が利くドイツなどと歩調を合わせて支援することが必要だと思う。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年のトヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。

【土井正己のMove the World】緊急報告「どうなるウクライナ危機」…戦艦ポチョムキンから読み取るウクライナの将来

《土井 正己@レスポンス》

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