【ツール・ド・フランス14】沿道の観客数が半減したワケを考えてみた
オピニオン
コラム
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開幕地英国こそ沿道は脅威を感じるほどの大観衆で埋まったが、アルプスそしてピレネーでは近年にないほど観客数が少なかった。ベルナール・イノーやローラン・フィニョンなど地元フランス勢が総合優勝していた1970年代後半から80年にかけてが最も盛り上がった時代だと聞いていて、ボクが現地取材を始めた80年代後半も現在の倍は観客数がいた。
それではツール・ド・フランス人気は落ちたのか? そうは思いたくないし、実際に現地で23日間つき合ってみて感じたことは社会の変化、そしてその最たる要因はスマホ普及などによって情報入手が手軽になったことがあると思う。
かつてツール・ド・フランスは、もちろんフランス国営テレビで放送してはいたが、沿道に足を運んでこそ楽しめるものだった。だれが勝つのかとハラハラしたり、特定の選手を熱狂的に応援する人もいたが、その当時から家族や地域の人たちと真夏のお祭りを一緒に楽しもうよというノリがあってのレースだった。
ツール・ド・フランスは真夏にやってくる一大スペクタクルなサーカス軍団なのである。
インターネットや携帯端末の普及は、そんなヨーロッパの伝統的な社会にも変化をもたらした。沿道に行かなくても楽しめる。だれが逃げているかスマホで分かるし。そしてコースに乗り込む規制も厳重になり、一般の人が沿道にクルマで陣取るためには2日ほど前に乗り込む必要もある。現代は楽しい娯楽がたくさんあり、そこまでしたくないという機運も手伝う。
それと同時に社会情勢が厳しくなって、バカンスの取り方も規模を落とした。フランスの労働者は毎年5.5週間のバカンスを取る義務があった(権利ではなく、義務)。ところが最近はフランス経済全体の競争力の観点から、それを見直す方向にある。キャンピングカーを取得して、あるいは借りて家族と一緒にツール・ド・フランスの沿道に陣取ることもままならない時代になった。
そうはいっても、沿道の人たちの楽しみ方は四半世紀の取材を通して変わらないことにも安心した。みんな基本的にツール・ド・フランスが好きであり、それはなぜかというと子供心にワクワクした記憶がよみがえってくるからだ。日本のファンのみなさんも機会があれば実際に現地に足を運んで、ちょっと拍子抜けするほど、のんびりしているナマのツール・ド・フランスを目撃してほしい。
《山口和幸》
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