議題は、GPSの結果について。その地図をよくよく見てみると、現在地が本来歩くべき道の反対側にあることがわかる。
つまり、まったく逆の方向に下山してきたことになる。
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筆者たちと一時的に行動を共にした2組の登山パーティ。
ということは、今降りてきた道を再び登り返し、分岐まで戻って再び正しい下山路を歩かねばならない。
この事実を、皆受け入れられないでいた。下山してきた沢の道が、そこそこの勾配であったためであろう。いや、まさか。そんなはずはない。でも、GPSが……。
話し合っても結論が出ない。そうこうしている内に時間は刻々と過ぎていく。登山日は初秋。17時を過ぎれば暗くなる季節だ。暗くなれば、灯りなどまったくない山の中では身動きが取れない。その時、時刻は14時過ぎ。まだ時間的な余裕はあるが、迷い続ければ最悪の自体が訪れる。
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正しい下山路は道幅も広く、足場もしっかりとしていた。
「加波山で遭難! 3組の登山パーティが消息不明」
このような新聞の見出しを思い浮かべる。何となく気恥ずかしい。北アルプスなどの高山ならまだしも、標高700m程度の地元の里山で遭難とは如何に。更に、その見出しの後にはこのような記事が続く筈だ。
「某月某日。茨城県桜川市と石岡市の境に位置する加波山に登った登山パーティ3組と連絡が取れない状況だ。登山者たちの準備不足が原因と思われる」などと、批判的な記事が掲載されることだろう。しかも、それを見たネットユーザーが、馬鹿だ、阿呆だ、山に登る資格なし、などと更なる罵声を浴びせるに違いない。
それだけは避けなければならない。翌日は仕事だってある。何としても正しい下山路に戻らねば。
そこに、一台の車が通りかかる。筆者はその車を止め、道を尋ねた。
「ああ、逆だね。今はここだよ」
運転手が指を差したのは、目指す目的地と180度反対の場所であった。恐れていた事実が、現実となった瞬間であった。
その後、3組の道迷いは正しい下山路を選び、無事に下山した。それにしても、3組同時に低山で遭難しかけるとは。
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5号目の看板。看板は正しい道だと証明してくれた。ひと安心。
そもそも、意外と低山は道に迷いやすいのだ。今回は、看板の文字が消えていたことが最たる要因(自分の非を認めないわけではないが、他の登山者も同じように迷っているのだ)だが、他にも、正式な登山道の他に踏み跡があり、間違えてその道を歩いてしまうケースもある。
のんびりと歩く楽しみがある低山。しかし、あまり呑気に歩いていると、このようなしっぺ返しを食らうことがあるのだ。