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現役時代から機材には異常なこだわりを見せていたメルクスが、最終プロトタイプの試乗で長い間帰ってこなかったという逸話を持つフレーム、Carbon EXM。100枚を越えるカーボンシートをすべて手作業で重ね合わせて生み出されるモノコックカーボンフレームの実力とは?
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
「EDDY MERCKX」 は、自転車競技史上最強のロード選手と言われ、その圧倒的な強さと勝利への執念から“人食い”とも呼ばれたエディ・メルクスが引退後に自らの名を冠して興したブランドだ。そのフラッグシップモデルとなるカーボンEXMは、ポルシェのレースカーにも使われているというアメリカCYTEC社のカーボンを使用したハンドメイド・モノコックフレームである。メインフレームにはT700・TENAX、UTS・TENAXというカーボン素材を用いて剛性と耐久性を確保し、K210アラミドとチタンメッシュによって振動吸収性を高めているという。表面には美しいT300を使用。これらの100枚を越えるカーボンシートをすべて手作業で重ね合わせて生み出される。
トップチューブとダウンチューブには、剛性アップが目的だという深く鋭いリブが刻まれており、太いチューブながらファットな印象は受けにくい。ルックスはシャープかつ個性的で、見る者の目を楽しませてくれる。チェーンステーは大きくベンドしており、最近のフレームにしては珍しく、かなり太めである。特にブレーキブリッジあたりのボリュームはすさまじい。フォークにはイーストン・EC90を採用している。
※ホイールの選択は任されていたので、キシリウムSL&ヴィットリア・オープンコルサをメインに、カンパニョーロ・ハイペロン&ヴィットリア・コルサCXでもテストを行った。
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色々なロードバイクに乗っていると、時折、言葉では表現しにくい非理論的で不思議な感覚に出会うことがある。それは文章力の貧弱さを痛感して落ち込む瞬間でもあるのだが、このメルクスのカーボンフレームにもそれがあった。
その感覚とは、走り出して2、3回クランクを回しただけで 「これは資金と技術が惜しげもなくつぎ込まれたバイクだ」 ということが分かる直感のようなものだ。身体とバイクの接点から上質さが滲み出てきて、瞬時に体内を侵食するのである。ペダルに体重の一部を乗せたその刹那、「これはいいバイクである!」 という意識が脳を占拠する。これは理性や理論ではなく、現実の感覚として現れてくる。
このような感覚は、ブランド、生産国、フレーム素材、フレーム構造の違いを問わず、高い意識を持った人々が高度な技術を用いて作ったバイク (それらは一つの例外もなく非常に高価である、少なくとも僕の経験の中では) を走らせたときに共通して感じられるもので、それを言葉で的確に言い表すのは難しい。選手でもないライダーに高価で高性能なバイクは必要ないという人もいるが、この感覚は “高度な技術と高い志” を持って作られたモノにしか存在しないのも事実である。高いロードバイクが良いとは限らないが、安価なものに、このEXMにあるような上質さが宿ることは、決してない。
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ルックスについても、ベルギーのブランドだがイタリアンアートのような華やかさがあるのは不思議だ。写真ではシルエットがモッサリしているように見えて物欲を刺激してくることはなかったこのEXMだが、実際に目の前に現れると、見るものの美的感性に訴えてくるかのようだ。ボーラを付ければ全くスキのない佇まいを楽しむことができるだろうし、ハイペロンでは気持ちが良いほどにストイックなシルエットとなる。少し昔のキシリウムを履かせるとビシッとシャープに締まる。芸術や音楽と一緒で、乗り物が持つ雰囲気というのも、実際にホンモノに触れてみないと分からない。
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