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
パリ・カーボンと同型のFP6に続き、プリンス・カーボンに酷似するFP3にも試乗した。ハイエンドバイクのイメージを戦略的に使ったモデルは好きじゃない!と我儘を言う安井だが、FP6の完璧なる性能には文句を付けられなかった。その下位モデルとなるFP3は再び彼の口を塞げるか?ONDAフォークの秘密にも迫りつつ、その実体を見抜かんとする第27回。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
FP3はピナレロのミッドレンジを支えることになるであろうフルカーボンフレームの完成車である。フレームのシルエットはプリンス・カーボンと見間違うほど良く似ているが、使用するカーボン素材や積層方法、加工性、用途などを考慮し、新設計のモールド (金型) を採用したモノコックフレームだ。素材は30トングレードのハイモジュラスカーボン。ミッドレンジの価格帯ながら上下異径ヘッドチューブや内蔵ブレーキケーブル、左右非対称チェーンステーなどハイエンドモデルと同様のスペックを持ち、広報資料によると 「ワンクラス上の性能を手に入れることができるコストパフォーマンスに優れた完成車モデル」 になっているという。フロントフォークは新設計となるONDA FPK、ホイールはピナレロオリジナルとなるMost CHALL (105仕様はシマノ・WH-500A)。コンポーネントは、シマノ・105、シマノ・アルテグラSL、カンパニョーロ・ヴェローチェから選択できる。
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ピナレロが元気だ。パリ・カーボンの金型を使ったFP6に続いて、プリンス・カーボンの形状を継承したというニューモデル、FP3も投入してきた。そのFP3、目を細めて見れば、確かにシルエットはプリンス・カーボンにそっくりである。ヘッドチューブのアヒル口、かすかに湾曲したトップチューブ、前後のオンダフォーク。しかし近くに寄れば、細部の造りはちゃんと簡素化 (という言葉が適切でなければ最適化) されている。仰々しいほどのリブが入っていたフォークはスッキリとした楕円形状になり、ヘッド~ダウンチューブへと続く波のような造形も控えめ。ダウンチューブやハンガー部の形状も変更されているようだ。
しっかりと差別化を図りつつも確たるプリンス・カーボンのイメージを持たせたうえで、いかにもモダンで色気に溢れたカラーリングでラッピングする。これならビギナーやピナレロ・ファンをうっとりさせるには充分だろう。さすがピナレロは商売が上手いと思う。ロードバイクは走りの極みを探求する求道者のようであってほしいと願う僕にとって、このような上位機種や名車のイメージを (プリンスの形状そのものに構造的優位性があるのだとしても)、ビジネスとして戦略的に使ったモデルというのは好きではないのだが、前回試乗したFP6 (パリ・カーボンの金型を使用した同型フレーム) の素晴らしさには何も言えなくなってしまった。 FP3はどうだろうか。
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そう、僕はFP6のときと同じように少しネガ寄りの立場からFP3を眺めていた。今度こそ 「カタチだけじゃないか」 と言ってやろうと思っていたのだ。カッコは名車のイメージを受け継いで派手で立派だが中身はスカスカ、そんなバイクは最低だから。僕は、ロードバイクにとって性能=スピードこそが最高の商品力だと考える。外見はプリンスだが実力が低いバイクなんてお笑いにもならない。失笑を買うのみである。
しかし実際に走り出せば、このFPシリーズの三男坊はなんの雑味もない純粋なロードバイクの走りを見せてくれるので、書き手としては少々拍子抜けしたが、ピナレロ・ファンとしては安心した。走りそのものは、思わず笑みがこぼれてしまうほどにいい。
それはいたずらに過激さを叫ぶことなくフレンドリーであり、いい意味での重厚感がある。といってもレスポンシブではない、ということでは決してなく、加速は入力する踏力に対して、それこそ瞬間的かつ比例的に逞しく立ち上がる。
登坂能力についても、価格を考えれば、というエクスキューズが付きつつも、平均水準を大きく上回る才能を見せる。登り斜面をダンシングで踏み込んだときに感じるのは、この価格帯のバイクにありがちなバック三角のたわみによる不快なもどかしさではなく、あえて欠点をあげるとすればホイールの重量だ。しかし見るからに重そうなこのホイールも、とりたてて絶賛するほどではないが、実際の走りは決して重くない。トルクをかけても変なねじれ方はせず、動力伝達に秀でている。フレームの素性、ホイールの基本性能、そしてそれらの相性がよほどいいのだろう、走行性能は価格と想像を越えてハイレベルだ。
そして最も感銘を受けたのは、その優れた 「振動減衰性」。個人的には、ロードフレームの 「衝撃吸収性」 が悪くても一向にかまわない。コンペティションバイクなのだ、ガツンときて当たり前。しかし、いくら走りがよくてもそのガツンがドタバタと尾を引くフレームは、ユルくてダルくて出来の悪いバイクだと感じてしまう。このFP3は衝撃を一瞬で減衰し収束させる。進路上に見つけた大きなギャップに身構えても、ショックは伝わるものの一瞬で収まる。これもまたお見事。
さらにFP6の一番の美点、「走りが楽しくて気持ちいい」 という官能性能もこのFP3にもそっくりそのまま受け継がれており、ニューモデルでありながらすでに熟成された落ち着きを感じ取ることができる。発売されたばかりだが、完成度は高い。
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