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最新スペックの採用で大幅に進化を遂げたという新生ゼニスを前に、「08モデルにBB30入れてヘッド太くしただけ?そんなんでちゃんと走んのかよ?地味なルックスとナゾのパーツアッセンブルは健在だな」 などと暴言を吐いて営業チームをヒヤヒヤさせる安井。文句をつけたからには…と、300km超の時間と距離でバイクと真摯に向き合う。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
ニュージャージーに籍を置く総合バイクブランド、ジェイミスのミドルグレードロードバイクであるゼニス・シリーズが数々の最新トレンドを獲得してリニューアル、09モデルとしてデビューした。BBベアリングを直接フレーム内部に埋め込むことでチェーンステーの取り付け位置を広げ、同時にBBシャフトを大口径化する新システム 「BB30」 を導入し、フレームの高剛性化と動力伝達率を向上。さらにヘッドチューブの下側を大口径化し、高いヘッド剛性やシャープなハンドリング、ブレーキング時の安定性などを得る 「上下異径ヘッド」 も取り入れている。
このゼニス・レースはシマノ・アルテグラ仕様の完成車で、ワンランク下には同フレームで105仕様のゼニス・コンプ (25万9,000円) も用意される。このフレームは、UCI登録を目指す日本人女子チーム 「Ready Go JAPAN」 に供給されている。ゼニス・シリーズのフラッグシップモデルにはウルトラハイモジュラスカーボンを使用したゼニス・SLがあり、こちらはアメリカのコンチネンタルプロチーム、コラヴィータ・レーシングに供給され、すでにツアー・オブ・カリフォルニアなどのビッグレースで活躍を見せている。
今回は、大幅に進化したというゼニス・レースを2週間ほど借り出した。花粉渦巻く大垂水峠~和田峠を2回走り、08モデルからの進化の度合いと、各ブランドの売れ筋モデルがぶつかり合う激戦区での位置づけを見極める。
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マイケル・J・フォックスをモンゴロイド化したような風貌のK氏がジェイミス・ジャパンの広報部に在籍している。“ハンドルやステム、必要ならばサドルやクランクまで交換し自分のポジションを厳密に出したうえで、300km以上は確実に走ります” という僕のワガママなやり方にいち早く賛同してくれて、ジェイミスのインプレ用車両を手配してくれている人物である (残念なことにパーツ交換を嫌がる代理店は多い)。
昨年末、赤坂で行われたジェイミス09モデル発表会でそのフォックス氏は僕を見つけるとスススと寄ってきて、「ヴェンチュラのインプレ、読みましたよ。特にブレーキについていろいろと…」 などと意味ありげに言うのである。
確かに僕は、vol.18でヴェンチュラについて 「未だにブレーキ本体でコストダウンをしようとする神経は疑わざるを得ない。ブレーキに粗悪品をつけるということは、ユーザーをバカにしているのみならず、ユーザーの安全をないがしろにしているに等しい。シートピラーにカーボンを巻いて喜んでいる場合ではない」 なんて書いている。
「乗り物の三大性能の一つである“制動”を、たった数千円のコストダウンのために、こんなに簡単に犠牲にしていいはずがない。加速が悪くても死にはしないが、止まらなければ死んでしまう。購入する人はせめてシマノ・105のブレーキも同時に買ってほしい。たった8000円ほどで、上質なブレーキフィールと、安全が手に入るのである」
あぁクレームかめんどくせぇ、と耳栓モードに入っていると、「あれは全くもっともなご意見です。まぁ代理店の人間としては、あれは厳しい言い方だとは思いますよ。でも安井さんは他のインプレでも一貫してそれを言われているし、同じ自転車乗りとして私は反論できません。なので09モデルからヴェンチュラのブレーキ、換えました。105にしたんです」
そう言って氏は、ほら見てください、とヴェンチュラのブレーキキャリパーを指差した。
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貧弱なキャリパーが付いているはずのヴェンチュラのフォークに、シマノ・105のアイスグレーが光っていた。「せめてシマノ・105のブレーキも…」 という僕の思いを、そのまま形にしてくれたのだ。これは日本市場のみの特別対応で (ノーマルの状態で輸入し、日本でブレーキを105に換装して出荷するとのこと。確かにジェイミス本国サイトのスペック表では 「Tektro dual pivot calipers」 のままになっている)、しかもブレーキキャリパーのアップグレードによる値上げは一切行っていないのだという。
意外な反応にビックリしたが、これが自転車人のやることだ、と思った。業界にはそんな風が吹いていなければならない。決して小さくはないジェイミス・ジャパンという会社で実行に移したK氏には、反発や苦労も多かったのではと推測する。それを許したジェイミス・ジャパンという会社の英断には、メディアに関わる人間としては大きな拍手を、ユーザーとしては心からの感謝を、それぞれ贈りたい。
ジェイミスは決して派手なブランドではないだろう。ヴェンチュラは羨望の的になるような高級車ではないだろう。この行為は、ユーザーへの訴求力という観点で見ればそれほど大きなものとはならないだろうし、巷の自転車好きが好んで話題にする類の話ではないかもしれない。しかしこれは、日本の自転車好きとしてちょっとばかり誇りに思ってもいい出来事のひとつではないか、と思うのだが、どうだろうか。
これでジェイミス・ヴェンチュラは、本当にオススメできる優れたエントリークラスになった。メインコンポのアルテグラにノーブランドのブレーキキャリパーを恥ずかしげもなく紛れ込ませるブランドよ、見習え!というわけで僕の中のジェイミス株は急上昇したのである。
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