年末から日本サッカー界を揺るがしてきた日本代表のハビエル・アギーレ監督の八百長疑惑騒動も、遠藤保仁(ガンバ大阪)は淡々とした口調で一笑にふしてしまう。
◆高まる存在感…遠藤の姿勢がチームを落ち着かせる
「僕らが気にしてもしかたないんでね。監督がやっていないと言えばやっていないと思いますし、僕らがどうこうと立ち入る場所でもないですし。そりゃあ急に言われたらビビりますけど、メディアの皆さんが長い間報道しているので別に何も感じないですね。選手はサッカーに集中すればいいだけですし、まったく大丈夫だと思いますよ」
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アジアの王者を決める4年に一度のアジアカップが、真夏のオーストラリアを舞台に幕を開けた。2大会連続5度目の優勝を目指す日本代表にはワールドカップ・ブラジル大会の代表メンバーが13人も名前を連ねる一方で、経験の浅い若手選手も多い。
ピッチ外の雑音に集中力をそがれる事態も生じかねない中で、遠藤の泰然自若とした立ち居振る舞いがどれだけチームを落ち着かせるか。現地入りしてから行われたクラブチームとの練習試合でしっかりとゴールを決めるなど、ピッチの中でも日増しに存在感を高めている。
◆まもなく迎える金字塔…栄光ばかりではない
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順調ならばアジアカップ期間中に「150」の大台に到達する国際Aマッチ出場数は、おそらく誰にも破られないだろう。日本サッカー史上に輝く金字塔を更新し続ける一方で、これまで何度も辛酸をなめてきた。
2000年のシドニー・オリンピックは、代表メンバーにけが人が出た場合に入れ替わる予備登録選手として現地に帯同。大黒柱の中村俊輔(横浜F・マリノス)との同部屋で、悶々とした日々を送った。
初めて臨んだ2004年のアジアカップ中国大会は準決勝で不可解なジャッジで一発退場処分を受け、中国代表との決勝戦はスタンドからの観戦を余儀なくされた。
2006年のワールドカップ・ドイツ大会はフィールドプレーヤーでただ一人、出場機会なしに終わった。ザックジャパンで不動の地位を築きながら、昨夏のワールドカップ・ブラジル大会では若手の山口蛍(セレッソ大阪)に先発を奪われている。
◆「サッカーは年齢じゃない」
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だからなのか、日の丸にかける思いは強い。昨年末に開催されたJリーグアウォーズ。MVPを獲得した晴れの舞台で、遠藤は抑揚のない口調の中に捲土重来の決意を込めている。
「個人的にはブラジル大会で悔しい思いをしたので、これからも成長しながら、さらにいい選手になって、チームとしても個人としてもいいパフォーマンスができるようになりたい」
次回のロシア大会を38歳で迎えることを考えれば、遠藤を復帰させ、先発でも起用したアギーレ監督の選手選考および采配には疑問符がつく。一方で「その時点でのベストの選手が選ばれる」という代表の定義に則れば、22歳の柴崎岳(鹿島アントラーズ)をはじめとする若手は、まだまだ遠藤を脅かすレベルには至っていないことになる。
誰よりも遠藤本人が、こう言ってはばからない。
「サッカーは年齢じゃないということをこれからも証明し続けたい。それとともに、若くて素晴らしい選手がいることを自分の中で意識しながら、若い選手たちに負けないように頑張りたい」
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◆青空を流れる白い雲のように
正確無比なパス。攻撃に緩急のリズムを生み出す戦術眼。相手守備網の穴を瞬時に見つけ出す観察眼。黒子に徹し、味方の長所を巧みに引き出す献身的な姿勢。常に感性が研ぎ澄まされているからこそ次に起こりうることを素早く察知し、流れる雲のように飄々と対処できる。
懸念材料をあげるとすればシーズンオフが短かったことと、30度を超えるオーストアリアの酷暑となるだろうか。もちろん、予想通りに遠藤は意に介していない。
「確かに短かったですけど、一度サッカーから離れたのでリフレッシュできたのかな。どこに行っても間違いなく暑いし、そのことだけを知っておけばビビることもないんじゃないですかね」
4大会連続で臨むアジアカップ。日本代表が順調に勝ち進めば、決勝戦を直前に控えた1月28日に遠藤は35回目の誕生日を迎える。