【Next Stars】4000年の歴史とともに。武術太極拳と生きる…山口啓子選手 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【Next Stars】4000年の歴史とともに。武術太極拳と生きる…山口啓子選手

オピニオン ボイス
4000年の歴史とともに。武術太極拳と生きる…山口啓子選手
4000年の歴史とともに。武術太極拳と生きる…山口啓子選手 全 12 枚 拡大写真
12歳で最年少全日本指定強化選手に選ばれ、早くから武術太極拳のトップを走ってきた山口啓子(やまぐち・けいこ)選手。

動画を見るだけでその迫力は伝わる。いざ話を伺ってみると明るくユニークな選手で、競技時にに見受けられる姿とはまた別人であった。多くの人を引き付けるその原点に迫る。

■武術太極拳とは

”太極拳とは東洋哲学の重要概念である大極思想を取り入れた拳法である。健康・長寿に良いとされているため、格闘技や護身術としてではなく健康法として習っている人も多い。中国などでは市民が朝の公園などに集まって練習を行なっている。日本国内でも愛好者は多く、「太極拳のまち」を宣言した福島県喜多方市のように自治体単位で太極拳を推進している例もある。

日本で武術太極拳と呼ばれている競技は、世界的には「武術(ウーシュウ)と呼ばれているもので、太極拳、長拳、南拳を合わせて作られた採点競技である。”



■長拳(山口選手)



■槍術(山口選手)



■剣術(山口選手)



■4000年の歴史とともにある壮大な競技

---:太極拳は、競技なのでしょうか。文化的な背景、影響を多く受けているように感じます。

山口啓子選手(以下、敬称略):中国で発祥してきたスポーツなんです。ラジオ体操のような形で公園でやっているような姿がよく知られているのですが、私がやっているのは武術太極拳という競技になります。太極拳以外にも様々な南拳や長拳というのも存在します。

私は長拳というのをメインにやっている人間です。日本では太極拳という形で知られているので、私が所属しているスポーツクラブでも太極拳を教える役割をしています。健康体操という感じですね。

長拳はカンフーという感じで、飛んだり跳ねたりします。激しい器械体操のようなイメージです。ものを持ったまま飛んだり跳ねたり回転したりするハードな感じですね。太極拳自体はゆっくりな感じなんですけれども。

---:長拳以外の競技とどのようなものなのでしょうか。

山口:南拳は激しいけれど見た目が違います。象形拳という感じで、虎とか竜とか鶴とか動物系の声を出したりする、非常に力強い感じです。長拳はもっとスマートというか、綺麗な感じで、力強いのですけれども、その中に美しさ、しなやかさがあります。




---:太極拳、長拳、南拳に難易度の差はあるのでしょうか。

山口:特にはないです。それぞれに特長があってやはり難しいですし、すぐにできるものではないです。今までは型だけの勝負だったんですが、2008年の北京オリンピックから、体操のゆか運動のようにジャンプ運動を組み込まなくてはならず、失敗すると大幅減点されてしまうようになりました。失敗すると勝負にならないのです。

そこから私も含め、ジャンプ動作の練習はずっとしてきたのですが、逆に上の世代、北京の時に第一線でやっていた方々はジャンプ動作ができないのです。技術はものすごく高いのですが練習がなかなかできなかったので、評価されないような競技システムになってしまったのですね。これを期に引退した人はやはり多いです。

私はすごく恵まれていました。ちょうど年齢的にも10代のときに競技の方向が変わったので、15歳くらいに至るまでにはジャンプなどのできる動作を大幅に増やしていくことができたのです。女子はやはり飛ぶ動作が大変で、苦労している選手も多いです。しかし、今の競技体制だと、飛べないと結局上にはいけないので…。

---:競技評価の視点が変わることにより、勢力図も変わったのですね。長い歴史のある太極拳ですが、その魅力はどのようなものでしょうか。

山口:人それぞれ演技が全然違ってくることです。同じ長拳、同じ槍でも同じ剣でも全然違います。入れなければいけない動作はもちろんあるのですが、構成、振り付けなどを自分で考えて自分で演技するので…。

見え方は異なるし自分の特徴を活かした演技をするので、その人だけの技だったり、ジャンプもそうですけれど、その人しかない風格が自然と出てくるので十人十色であるのが面白いです。

太極拳のあの人の風格が好きという人もいれば、この人の風格も好き、という人が出てきます。ゴールがないのですね。4000年の歴史は長いです。(笑)


---:競技人口はどのくらいでしょう。

山口:愛好者を合わせると100万人以上になります。武術太極拳は毎年全日本大会があるのですが、毎年2000人近くが参加します。3日間で2万人くらいの観客が集まるような、なかなかの規模の大会ですよ。

---:山口さんが武術太極拳に出会ったきっかけは。

山口:父がカンフー映画が好きだったのですが、小学校1年生の時に地元の小学校で太極拳教室がやっているのを見つけ、そのままの父と一緒にはじめたのがきっかけです。最初は長拳からはじめました。すべての元になるのは長拳なので、若い選手は長拳からはじめるのが基本です。

フィギィアスケートのように採点競技に変わっていったのは、北京オリンピックに入れるために色々変えなきゃいけなかったという背景があるようです。結局採用はされなかったのですが。





■オリンピック競技にするためになにができるのか

---:正式にオリンピック競技にするためにはどのような取り組みが必要でしょうか。

山口:正式に競技にするためにはまずは一人でも多くの方に認知していただくことが必要ですね。太極拳自体を知っている方は最近増えてきたのですが、実際にしている人はまだあまりいないです。

私自身太極拳を通して多くの人と出会ってきましたが、「私は太極拳の長拳をやっています。こういった大会もあるんですよ」という感じでその都度説明しつつ、様々な方に理解をもらって応援していただきながら活動しています。もっと多くの人にこの競技を広めていきたいと思います。今の仕事もそういった思いで続けています。

---:今のお仕事というのは。

山口:各地のスポーツクラブやコミュニティセンターにて「武術太極拳」のインストラクターをしているのと、近年正式種目になる可能性が高い、この競技で金メダルを獲得できるような有望な選手を育成するために、子供たちのためのカンフー教室を開いていたりします

また、2019年より「武術太極拳」が国体の公開競技になったため、国体普及指導員としての普及活動も行なっています。

---:今後の目標は。

山口:世界大会において金メダルを獲り、世界チャンピオンになることです。また、個人的な活動として、幼稚園や小学校の幼児教育の一環でカンフーのカリキュラムを導入するための活動や、太極拳のプログラムを介護福祉施設などに取り込んでもらい、地域支援活動などを行なっていきたいと考えています。


■編集後記

マイナー競技においては、オリンピック競技になるか否かは、非常に大きな問題だ。競技人口や認知度、さらには世界的な世相を反映し、オリンピック競技が決まる。武術太極拳は、長い歴史をもつ競技ながら、競技の評価方法を変更するなど積極的に取り組んだ。

マイナー競技は、トップアスリート達が競技そのものの未来を背負い、普及のためにアクションを起こし続けている。観客側のニーズも汲み取りながら、新たな道を切り拓き続ける山口選手の高い表現力とコミュニケーション力も、決して甘くない競技環境を生き抜いてきたなかで磨かれたのだろう。

山口選手を応援!

《大日方航》

≪関連記事≫
≫貴重な水着ショットも披露!「もはや高校生には見えない」大人っぽい池江璃花子、沖縄・石垣島の海を満喫

≫ケンブリッジ飛鳥と滝沢カレンが似てる?リオ五輪時から密かに話題だった

≫レアル所属・中井卓大ってどんな選手?…「リアルキャプテン翼」と呼ばれた少年時代

関連ニュース