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ニューヨーク・ヤンキース時代の黒田博樹 (c) Getty Images
黒田は初回から少ない球数で省エネピッチングを続ける。まずは1番藤井亮太を1球でセカンドゴロ。続く川端慎吾もショートゴロに取り、3番ミレッジはレフトフライ。この回わずか5球で終わらせた。
その後も前日まで絶好調だったヤクルト打線に付け入る隙を与えず、淡々と抑えていく。山田哲人と雄平が出場していなかったとはいえ、2014年シーズン12球団トップのチーム打率を誇った打線が手玉に取られる。
圧巻だったのは4回、この試合2度目の対決となった藤井に投じた、3球目のツーシームだった。左打者のインコースに外れる軌道から、手元で鋭く変化しストライクゾーン真ん中付近まで変化。メジャーの強打者を抑えるため磨いた黒田の武器だが、ボールが違う日本ではアメリカほど使える球にならないではとも危惧されていた。それがまったくの杞憂であったことを1球で示す。
黒田は5回に先頭打者、畠山和洋を外角のスライダーで三振に切ったところで降板。4回1/3を投げ被安打0四死球0奪三振3、球数は39球だった。
開幕カードで対戦する可能性がある黒田に対し、ヤクルトも積極的に手を出しイメージと実際のズレを確認するようなバッティングだったが、それにしても球数が少ない。9回まで投げても100球に届かないペースだ。
■ストライクゾーンで勝負する投球
黒田の球数が少ない大きな要因はボール球の少なさだ。39球のうちゾーンを外れたのは9球。ほぼすべての球をストライクゾーンに投げ込んでいる。
日本ではキャッチャーが慎重に初球まずボールから入り、打者の打ち気や待ち球を探る傾向にある。しかしメジャーでは初球からストライクを要求し、ゾーンで勝負する投球が求められる。
日米の考え方の違いもあるが、何よりメジャーで上位打線に名を連ねるような選手は、ゾーンから外れたボールに手を出さない。様子見の投球をしてもカウントを悪くするだけで終わる確率が高いためだ。
黒田と同じく今年メジャーから復帰した選手にソフトバンクの松坂大輔がいる。松坂がメジャーで苦戦した理由はいろいろあるが、そのひとつに狙った球でゾーン内の勝負ができなかったことを挙げなければならない。
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ニューヨーク・メッツ時代の松坂大輔 (c) Getty Images
もともとコントロールの悪かった松坂だが、日本ではゾーン付近に速い球を投げると、打者が空振りしてくれた。アバウトな制球でも助かっていた。しかしメジャーのバッターは振ってくれなかった。そうなるとカウントが悪くなり、球数が増え、中4日のローテーションをこなせなくなる。年間200イニング登板がローテーションピッチャーの勲章とも考えられるメジャーでは、この投球だと先発で評価してもらうのは難しい。
少しでも甘く入ればスタンドに運ばれる緊張感の中、ストライクゾーンに相手が打てないボールを狙って投げるコントロール。そういうシビアな世界で7年間、ローテーションを回してきた経験が黒田のピッチングを進化させた。
■もはや代名詞となった援護率の低さ
黒田がメジャー流の投球を持ち込んだとして、他球団もこのままやられるわけがない。そういうピッチングをすると分かれば、相応の対策は立ててくるはずだ。
黒田個人に心配なのは、不思議なほど援護がもらえないピッチャーである点だ。どうしてか彼の投げる試合は味方打線が点を取れない。昔から言われすぎて、半ばオカルトの域にまで達している。
ヤクルトとの試合でも黒田は好投するが、広島打線は6回まで点が奪えなかった。しかも主砲ブラッド・エルドレッドが右ヒザ半月板損傷のため一時帰国、手術の可能性もあり再来日は未定だ。
3年連続Aクラス、2015年こそ優勝を狙う広島に開幕前から大きな不安材料だが、それでも今の広島は黒田がいたころに比べれば勝てるチームになっている。暗い時期は終わった。
40歳の仕事人が堪え忍ぶ投球で広島に歓喜の瞬間を呼び込めるか。2015年プロ野球、最注目の選手になることは間違いない。