【THE REAL】鬼門の地から「輝く未来」への始発駅へ…湘南ベルマーレとカシマスタジアムを結ぶ秘話 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】鬼門の地から「輝く未来」への始発駅へ…湘南ベルマーレとカシマスタジアムを結ぶ秘話

オピニオン コラム
湘南ベルマーレ
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湘南ベルマーレを率いて4シーズン目となるチョウ・キジェ監督は、ミーティングを大事にしている。特にキックオフ前に行うミーティングについては、「そこで失敗したときには絶対に勝てない」という信念にのっとり、入念な準備を積み重ねて臨む。

キックオフ前のミーティングのテーマは毎回異なる。試合終了のホイッスルが鳴り終わった瞬間から、次の試合へ向けて、その時々のチーム状況を鑑みながら常に考えを思い巡らせる。

2月に発表した初めての著書『指揮官の流儀 直球リーダー論』(角川学芸出版刊)では、ときには日経平均株価や富士山登山などをテーマに設定。選手たちの興味を引きつけ、それらをサッカーに結びつけることでモチベーションと一体感を高めて試合に臨んだエピソードが描かれている。

ならば、後半アディショナルタイムの劇的な逆転ゴールで鹿島アントラーズを下し、J1昇格組のなかで初勝利をあげた14日のカシマスタジアムでの一戦を前にしたミーティングのテーマは何だったのか――。

■原点に帰ろうと選手たちに訴えかける

浦和レッズに1対3の逆転負けを喫した1週間前の開幕戦を、チョウ監督は「悪い意味で気持ちが昂ぶり過ぎた」と自戒の念を込めて振り返りながら、原点に帰ろうと選手たちに訴えかけていた。

「1対1の粘り強さや最後まで頑張る姿勢、あるいは声を出し続けるといった、我々が内なる部分で大事にしてきたものともう一度向き合っていこう」

レッズをホームに迎えた開幕戦は唯一のナイターで行われ、NHKのBS1でも生中継された。前半24分には自陣から仕掛けたカウンターから最後は6人が相手のゴール前へなだれ込んで決定的なチャンスを作るなど、チョウ監督のもとで育んできた「湘南スタイル」の一端を全国のファンへ披露した。



湘南ベルマーレ


しかしながら、入れ込み過ぎた分だけ、ミスや思い通りに運ばない状況が増えるたびに徒労感が募る。後半に入ると足が止まり、生命線でもある運動量でも相手の後塵を拝した。今シーズンの日程が決まる前からレッズと対峙する開幕戦を熱望してきチョウ監督は、自らのチームマネジメントが悪かったと素直に頭を下げた。

実際、アントラーズ戦へ向けた練習の多くを3対3やゴール前のディフェンスに割くなど、いつもとは異なるメニューを通じてメッセージを発信してきた。以心伝心。指揮官の熱い思いは選手たちの琴線に触れた。キャプテンのMF永木亮太が、アントラーズ戦を前にチーム全体が抱いた決意を代弁する。

「湘南スタイルに浮かれていた自分たちがいたんじゃないかと。わかりやすい意味での湘南スタイルは出せていたかもしれないけど、見ている人にとってわかりにくいところ、もっと細かいところが湘南スタイルの本質。チョウさんに言われて、自分たちもそうだなと思いました」

■記憶に刻まれる試合前ミーティング

永木の記憶には、同じカシマスタジアムで行われた2013年5月6日の試合前のミーティングが鮮明に刻まれている。キックオフ前の時点で1勝3分け5敗と結果を出せず、J1の厚い壁の前に自信を失いかけていた状況下で、チョウ監督はチームを電車に、選手たちを乗客にたとえた話をしている。

「1人が右へ行こうとしているのに、もう1人が『左がいいや』と逆の方向へ行ってしまえばチームは崩壊する。そういう選手が1人でもいると、電車だって脱線する。気持ちを合わせて電車に乗り、同じ方向へ向かって確実に進んで行こう」

その意図を、指揮官は前出の著書でこう振り返っている。

電車が出発している以上は通過した駅を振り返ることも、途中下車することも止めよう。次の駅へ向かって真っすぐに走っていくためには、試合に出られない選手を含めた全員が、自分たちのスタイルを信じ抜くことが何よりも大切となる。

その試合は0対1で敗れた。それでも、リスクを冒す姿勢を思い出し、攻守両面でアントラーズよりも人数をかけ続けた。残念ながら2013年シーズンのJ1残留はかなわなかったが、ベルマーレがいま現在に至るターニングポイントとして、当時からキャプテンを務める永木は敵地でのアントラーズ戦をあげる。

「あの試合からやるべきことがはっきりした。このスタイルをやっていけばいいんだ、ようやくJ1の土俵に立って戦うことができたんだと思えた試合だった。そこに去年にJ2を戦った経験が加わって、いまの自分たちがあるんです」

■黒星を重ねるカシマスタジアム

ベルマーレはカシマスタジアムを苦手としてきた。白星は中田英寿が在籍していた1995年11月22日にあげたひとつのみで、8個の黒星を重ねていた。今回も前半13分に先制されるなど、嫌なムードに支配された。DF遠藤航のPKで追いついた直後の後半11分からは、アントラーズの波状攻撃にさらされた。

同28分までの17分間で、決定機を作られること実に8回。MFカイオのシュートが右ポストを、MF遠藤康のシュートがバーを叩いた場面もあった。そのすべてで、ベルマーレの選手たちがシュートを放たんとする相手に体を寄せ、あるいは視界に飛び込んでプレッシャーを与えていた。遠藤の一撃はGK秋元陽太が懸命に伸ばした右手の指先でわずかに触り、コースを変えていた。

原点を思い出し、全身全霊で泥臭く戦う選手たちをチョウ監督は万感の思いで見つめていた。

「90分間を通して足を止めない。両方のゴール前で体を張る。1回でボールを取れなかったら2回、3回といく。1回で崩せなかったら2人、3人と人数をかける。我々が大事にしてきたことを選手たちがしっかりとやってくれた」



遠藤航 (c) Getty Images


劇的な決勝点は右サイドに流れたFW高山薫をMF大竹洋平がフォローし、攻め上がってきた遠藤が放ったクロスに途中出場のFWアリソンが豪快なヘディングを見舞った。最後まであきらめることなく、人数をかけて攻め続ける仲間たちを感無量の思いで見つめていた永木が、2戦目にして手にした初白星に胸を張る。

「2年前も試合内容的によかったけど、『それでも結果がついてこないのがいまの自分たちだ』とみんなで受け止めていた。その流れを今シーズンは変えないといけない。同じことを繰り返していては成長することはできないと、肝に銘じて戦っているので」

■行き先は「輝く未来」

ベルマーレにとって長く鬼門の地とされてきたカシマスタジアムは、2年前から「希望」という名の駅へ向けた電車の始発駅に変わっていた。さまざまな戦いを経験して再び到着したカシマスタジアムで、行き先は「輝く未来」へと変更された。永木が決意を新たにする。

「勝利という結果を2試合目で出せたのは、僕個人にとってもチームにとっても自信につながる。これで(ポンポンと)いきたいというか、いかないとダメですね」

20年という時空を超えた敵地での白星が、ベルマーレを特急へと変えるのか。平均年齢がJ1でもっとも若く、その分だけ無限の可能性を秘めている「暴れん坊軍団」から目が離せなくなってきた。

《藤江直人》

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