アップルコンピュータ(現アップルジャパン)代表取締役社長、日本マクドナルドおよび日本マクドナルドホールディングス代表取締役会長兼社長兼CEOを歴任し、2014年6月から現職。
子どものころから水泳などのスポーツに親しみ、64歳でトライアスロンを知った。経営者としてビジネスの世界で多忙な毎日を過ごす中、トライアスリートとして日々トレーニングに精を出す。
スイム、バイク、ランの3種目をこなすトライアスロン。原田さんが競技にかける想いを聞いた。
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(c) YUTAKA/アフロスポーツ
---:今後の目標を教えてください。
原田:次は11月8日の岡山マラソンです。ただ、最近筋肉がついて体重が増えました。それを少し落としたいですね。それが目の前の課題です。このままでは走るのが大変なので。
---:長期的な目標は何ですか?
原田:夢はアイアンマン完走です。ただ、無理しすぎると危ないですから、まだまだ決めてないです。まだ夢です。
---:でも、いつかはアイアンマンに挑戦したいですよね。
原田:それは仕事を辞めないと無理ではないかと思っています。日々の生活、食生活、全部管理しないと走れないと言われていますから。3800メートル泳いで、180キロもバイクに乗って、その後フルマラソンですよ。私は、180キロのバイクまではいけると思います。自分でその感覚はありますから。練習で100キロ走って、どれくらいの感覚か分かりますから。
その後のフルマラソンの感覚は分かりませんね。出場された方の話を聞くと、自分の限界を越えていますからゴールまでの記憶がないと言うんです。ゴールになって始めて我に返ると。そのようなレースらしいですから。(完走タイムが)13時間とかね…。そこまでやれるかどうか分かりません。
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(c) YUTAKA/アフロスポーツ
---:トライアスロンを通じて経営にいかしていること、哲学はありますか?
原田:そういったことはあまり考えないようにしています(笑)。やっぱり、トライアスロンがすごいと思うのは、過酷なところなんですよ。元々軍の訓練のためにこういう種目ができたと聞いていますが、体の使う部分が全部違いますよね。
過酷なスポーツはたくさんありますけど、これほど自然と深く関わっているスポーツもないと思います。誰だって、泳ぐ、自転車に乗る、走ることはしたことがありますよね。誰でもやったことがあることを3つつなげてやる。それを自然と関わりながらやっていく。
今回の宮崎シーガイアトライアスロン大会も、明日のスイムがあるかどうか、午後の説明会まで分からないんですよ。台風が来たらどうしよう。朝、海を見に行ったらすごい波。この中を泳いで生きて帰れるのかと思うわけですよ。なぜこんなに私はイライラするんだろう。なぜ主催者は明日のレースについて早く発表しないんだろうと思うんですよ。
ただ、そういうのも含めてトライアスロンなんです。明日が分からない。自然、台風の動きを気にする。それで実際にレースに出ると、先ほど言ったように自然には勝てない。だけど身をまかせすぎると進まない。最初に海の練習をやった時は台風が来てるまっただ中で、とんでもない波の中でトレーニングさせられたんですよ。
---:海での練習はプールとぜんぜん違いますよね。
原田:初めての海での練習はシーガイアで行いました。波が来ると逆さになったり縦になったりするんです。その中で泳がなくてはいけない。波が前から来たら「潜れ」とか言われるんです。それをやらされたんですよ。
最初は10メートルも泳げませんでした。もう体がめちゃくちゃになって、余計な力が入って呼吸困難になり、ライフガードにつかまって。でも慣れたら泳げるようになるんです。あの時に思ったのは、人間の力なんて儚い。波が来たらまったく勝てない。それでもレースをしないといけない。淡々とやるしかないですよ。
あるトレーナーに、トライアスロンというのはレースの日はレースではない、と言われました。レースの日はみんなが誉めてくれる晴れの舞台だと。本当のレースは、日々の練習だと言われたんですよ。それがトライアスロンなんです。
だから毎日毎日、地道にやればやるほど記録は伸びる。私が2歳、歳をとっても、2年前より記録がいいというのは、そういうことですよ。毎日練習したから自転車で6分縮めて、ランで5分くらい縮めたのかな(※)。けっこうな進歩です。
※:バイクタイムは1:36:56(2013年)から 1:30:58(2015年)に、ランタイムは1:16:35から1:10:50に短縮した。
---:トレーニングの積み重ねのたまものですね。
原田:プライベートですが、私の小学生の息子と2年前から親子でトライアスロンに参加しています。キッズトライアスロンに。私がやらせたんじゃないですよ。親父を見に来て、そこでキッズトライアスロンをしている所を見て、自分もやりたくなったと。
最初のトライアスロンで銅メダルをもらい、親父を追い越したと思っていますから(笑)。子どもの成長は楽しいですよね。ランではもう完全に負けますから。バイク、スイムはまだ勝ちますけどね。
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---:親子で同じ大会でトライアスロンを楽しめるなんて素敵ですね。
原田:そうです。息子の成長も分かりますし。
---:トライアスロンはどんなことが大変ですか?
原田:トライアスロンは準備が大変です。トランジション(種目を転換すること)のところに何を持っていき、こういう風に配置してなど。ちょっとしたものでも(準備が)抜けるとダメですよね。スイムからバイク、バイクからラン。そのための靴とか靴下とか、水面から上がってきたら砂に水をかけて拭くタオルとか、全部考えて置くわけですよ。
ところがトランジションの場所に靴を朝早くに置くと、(その後レースが始まるまで)近くでウォーミングアップしようと思ったらもう一足靴を持っていかないといけない。こういうところまで神経を使って、細かく細かくチェックリストを作って、忘れ物がないようにしなければいけない。それが大変です。
雨が降ってきたときのバイクのレインコートも。今回も雨が降ってきましたからね。以前参加した常滑のトライアスロン大会になるとトランジションが別々に2カ所になるので、また準備が至難の業です。
あとは栄養補給も重要です。どこに何を置くか。バイクに乗りながら後ろ(背中のポケット)からサプリメントを出して、走りながらキャップを開けて飲んで。キャップを捨ててはいけないので、締めてまた戻す。止まればいいんじゃないかと思うんですけれど、その時間がもったいない。もったいないからとサプリメントを摂らないと体がロックされてしまう。その時に慌てて摂っても遅い。だから大変ですね…。
---:でも、それも含めてトライアスロンですよね。
原田:そうそう。そこが面白いんですけどね(笑)。
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■インタビューを終えて
同席したベネッセコーポレーションのスタッフによると「いつもは厳しい顔をしている」という原田さん。しかし、30分のインタビューの間はそんな顔が想像できないくらいに、穏やかに、そして楽しそうにトライアスロンについて語ってくれた。原田さんの顔は、経営の世界とはまったく違った、自然との闘い、自分自身との闘いになるトライアスロンというスポーツの魅力に惹かれたひとりのアスリートの顔だった。
インタビューの最後にしてくれたトランジションやサプリメントを補給する話は、インタビューを終えた後に、去り際に語ってくれたものだ。原田さんのトライアスロンというスポーツへの気持ちが伝わってきた。
アイアンマンいうトライアスリートの誰もが夢見る舞台への挑戦も、原田さんならきっと成し遂げ、そして完走する夢も叶えてしまいそうだ。言葉ひとつひとつの力強さにそう感じずにはいられなかった。
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ベネッセ、原田泳幸社長に聞く――トライアスロンにかける想い
その1 「始めたきっかけ」
その2 「競技から学んだこと」
その3 「夢はアイアンマン完走」