【小さな山旅】 夏の終わりと高尾山…高尾山(1)
オピニオン
コラム

車の中でサビの部分を独唱する。歌を口ずさみ、思うのだ。「夏が終わるのだ」と。少々センチメンタルな気分に浸っていた節に、ふと思い出したことがある。それは、一年前の夏の終わりに、独りで高尾山に登った時のことだ。
■観光と参拝と登山が同時に楽しめる
秩父山地に位置する高尾山(標高599m)。中腹に構える高尾山薬王院の他、サル園や野草園が山中にあり、夏季にはビアマウントがオープンする。トイレの数も多く、茶屋などの店も充実。もはや行楽地の体であるが、本来は立派な信仰の山である。
登山者にとっては、高尾山だけだと物足りないかもしれないが、陣場山まで縦走すると7時間にも及ぶコースになり、満足感が得られるだろう。展望も素晴らしく、東側には関東平野の街並みと筑波山や江ノ島まで見える。西側には丹沢山地や富士山が臨め、ダイヤモンド富士を見ることもでき、関東の富士見百景、八王子八十八景にも数えられている。都心から程近く、バス・電車・車のどれを使ってもアクセス可能という便利さも人気の理由のひとつだ。
■行列のできる山
高尾山の登山者数は、年間260万人を超え、その数は何と世界一。テレビや雑誌でも幾度となく紹介され、高尾山に登った知人に話を聞くと「行列ができていた」と口をそろえる。行列に並んでまで山に登りたくはない筆者は、そのような話を聞いて高尾山登山を避けていた。
だが、山登りを趣味とするならば、こと、低山を書くならば、この日本一有名といって良い低山に登らないことには始まらない。機会があるなら登ってみたいとは、常々思っていた。
■雨の平日は、高尾山日和?
その機会が突然訪れる。それが去年の夏の終わりであった。ひょんなことから手にした平日の休みと雨の天気予報。これはいくら高尾山でも登山者は少ないのではないか? 行列に並ばずとも、高尾山に登る絶好のチャンスではないか? そのように思った訳だ。
その絶好のチャンスを物にすべく、早起きして登ろうと決めたはいいが、セットしたはずの目覚ましは鳴らず(たぶん、止めてた)、まんまと朝寝坊をしてしまう。更に、カーナビが付いているにも関わらず道に迷うわ(ナビが古い)、登山靴は忘れるわ、とまるで高尾山に登るなと言われているかのようなスタートを切った。そうして、ようやくたどり着いた高尾山の山麓駅の駐車場には、果たして、たくさんの車が停まっていた。
まんまと思惑が外れたと思いきや、登山道にはそれほど人影はない。行列とは程遠い人の出で、雨も途中から上がり、道は登山靴がなくても快適に登れるほどに整っている。帳尻を合わせたかのような結末に拍子抜けするも、快適に登れることに越したことはない。
夏まっさかりの酷暑を終えて、夏の終わりに寂しさを感じつつ、やはり快適に過ごせることに越したことはないと思う、今日このごろであった。
《久米成佳》
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