浅野が最後にJリーグ・U‐22選抜に名前を連ねたのは、昨年6月14日のツェーゲン金沢戦。今シーズンのパフォーマンスは、Jリーグ・U‐22選抜を十分に「卒業」したレベルに達している。
浅野だけではない。ゼルビア戦では、所属チームで不動のレギュラーを担っているMF大島僚太(川崎フロンターレ)やDF岩波拓也(ヴィッセル神戸)、MF喜田拓也(横浜F・マリノス)も招集されている。
Jリーグ・U‐22選抜を実質的なU‐22日本代表に変えて、J2昇格へ向けてひとつの取りこぼしも許されないゼルビアと対峙させた理由は明白だ。
来夏のリオデジャネイロ五輪出場をかけたアジア最終予選を兼ねる、AFC・U‐23アジア選手権が来年1月にカタールで開催される。出場枠3を16カ国で争う熾烈な戦いへ。22歳以下のホープたちに生きるか死ぬかの真剣勝負の経験を積ませて、心技体のすべてでレベルアップを図らせたいからだ。
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たとえばバヒド・ハリルホジッチ監督に率いられるA代表は、国際サッカー連盟(FIFA)が毎年定める国際Aマッチデーに公式戦や国際親善試合を行う。
対照的に、U‐22日本代表をはじめとする年代別の代表チームは、公式戦以外で特定の活動期間は定められていない。必然的に、日本サッカー協会がスケジュールをやり繰りする必要に迫られる。
U‐22日本代表は8月下旬にも、京都市内で4日間の短期合宿を実施。最終日にはJ2の京都サンガと練習試合を組んだものの、1対2で苦杯をなめている。
ゼルビア戦が行われた9月23日は、J1の試合が組まれていなかった。そこで、日本サッカー協会が各クラブへ協力を要請。浅野をはじめとする一部選手の起用を45分間にとどめる制約のもとで、GK牲川歩見(ジュビロ磐田)を除く15人をJ1クラブから招集した。
8月の東アジアカップでハリルジャパンとしてデビューしていたこともあり、浅野は京都での短期合宿には参加していない。だからこそ、余計にゼルビア戦へは期すものがあった。
「京都で勝つことができなかったので、今回は自分が参加することによって何らかのアクセントをつけられればと思って臨んだんですけど…」
前半だけの出場となったゼルビア戦。「4‐2‐3‐1システム」のワントップで先発した浅野は、絶対の自信を寄せるスピードが「空ぶかし」となったシーンを何度も味わわされている。
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「(相手の最終ラインの)裏を狙うにしても、自分が前へ走るタイミングでは、相手がもうカバーリングに回っているタイミングでしかボールが出てこなかった。そうなればワンタッチを入れて裏を狙うとか、タイミングというものにこだわらないといけない。それをゲーム中に何人が感じることができるか。自分が周囲にどのように伝えるのか、という点も今後は必要になってくる」
相手の最終ラインの選手と駆け引きを演じながら、オフサイドぎりぎりのタイミングで飛び出し、一気にトップスピードへ加速する。コンマ何秒でもパスが出てくるタイミングが遅れれば、すべてが徒労に終わる。
3月下旬マレーシアで行われた、1次予選を兼ねたAFC・U‐23アジア選手権予選を含めて、自分の武器や特徴はチームメイトたちに伝えたはずだった。しかし、時間の経過とともに感覚が曖昧になってしまうのが代表チームの宿命でもある。
だからこそ、時間が欲しい。ベンチに下がったゼルビア戦の後半終了間際。1点を追う状況で、186cmの長身DF植田直通(鹿島アントラーズ)を前線に上げた後の攻撃にも違和感を覚えた。
【サンフレッチェ広島のスピードスター、浅野拓磨が抱く危機感と期待感 続く】