先に銀メダルを授与されていたガンバ大阪の選手たちが降りてくる。激闘を終えたばかりの相手一人ひとりと握手をかわしていた小笠原は、最後尾にいたガンバのキャプテンMF遠藤保仁とすれ違う前におもむろに歩を止めた。
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小笠原満男
笑顔を浮かべながら抱擁を交わす。時間にして数秒。言葉はなくとも、1979年度生まれの同学年同士でしか共有できない思いは確実に伝わった。
表彰式が終わった後の取材エリア。遠藤と自身とを比較しながら「トランプだったら勝てるかな」とジョークでメディアを笑わせた小笠原は、晴れやかな表情でエールを送った。
「ヤット(遠藤)とは十代のころからずっと戦ってきて、いまだにサッカーではひとつも勝ったことはないと思っているし、キャリアも数字も本当に素晴らしい。今日試合を一緒にやれてすごく嬉しかったし、今後も僕らの年代がJリーグを引っ張っていける存在であるように、僕らの世代はまだまだ頑張っている、という姿を一緒に見せていけたらと思う」
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遠藤保仁
5万人を超える大観衆が見つめるなかで、10月31日に行われたナビスコカップ決勝。アントラーズは大会連覇を狙ったガンバを3対0で一蹴して3シーズンぶり、大会最多となる6度目の頂点に立った。
ガンバには昨シーズンから公式戦で4連敗を喫していた。今シーズンのリーグ戦も2戦2敗。ホームのカシマスタジアムで9月12日に行われた一戦では、エース宇佐美貴史に2ゴールを奪われ、石井正忠新監督のもとでマークされていた連勝を6で止められてもいた。
しかし、タイトルがかかった大一番でアントラーズの選手たちは泥臭く、雄々しく、そしてたくましく変貌を遂げていた。
出足の鋭さ。球際の激しさと無類の強さ。チャンスを逃さない集中力の高さ。何よりも、絶対に負けてなるものかという執念。すべてをピッチの上で体現していたのが小笠原だった。
【鹿嶋アントラーズのナビスコカップ制覇と小笠原満男の大会最年長MVPの価値 続く】