【山口和幸の茶輪記】テロに襲われたサンドニとツール・ド・フランスの関係 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【山口和幸の茶輪記】テロに襲われたサンドニとツール・ド・フランスの関係

オピニオン コラム
2003ツール・ド・フランスの正式スタート地となったレベイユマタン
2003ツール・ド・フランスの正式スタート地となったレベイユマタン 全 4 枚 拡大写真
1998年にサッカーワールドカップ(W杯)フランス大会の決勝が行われたサンドニのフランス競技場で、過激派組織による無差別テロが発生した。世界で最も華やかな場所であるパリが標的にされた。人々の憧れの街であり、そしてツール・ド・フランスの最終到着地でもあるのに。

2003年のツール・ド・フランス第1ステージ。出場198選手はパリの北にあるサンドニのスタッドフランス(フランス競技場)をスタートした。サンドニはフランスの中でもアフリカ大陸からの移民が多く、彼らの多くがフランス人の誇りでもある「自由・平等・博愛」の精神をもって生活している町だ。選手らは交通規制されていないパリ市内を27.9kmにわたってパレード走行。たどり着いたのがパリから南に20kmほど離れたところにあるモンジュロンという町だった。

この町の外れにあって、旅行者が一夜のねぐらにするような宿場の前で選手たちは一斉に止まった。1階には小さな食堂と、旅人がのどをうるおすためのカウンター形式のバーがある。要するにかつてのフランスの田舎町でよく見かけたオーベルジュ(旅籠)だ。旅籠はレベイユマタンという名前だった。実はこの場所こそが100年前、第1回ツール・ド・フランスの第1ステージの正式出発地だった。


レベイユマタンの壁には100周年大会の記念プレートが打ち込まれた

1903年7月1日。その日は水曜日だった。午後3時16分、自転車に乗った60人の男たちがこのレベイユマタンの前から一斉に出発していった。観客はわずか数十人。フランスのスポーツ新聞『ロト』が販売部数を増やすために企画したフランス一周自転車レースの誕生だった。レベイユマタンを日本語に訳すと「目覚まし時計」だ。ツール・ド・フランスの長い歴史はこうして目覚めたというわけだ。

第1回大会の第1ステージはレベイユマタンの前からリヨンまでの467km。翌2日の朝7時には最初の選手がリヨンにゴールするのだが、想像以上に早く到着したのでゴール地点に指定されたソーヌ川の河岸でだれもこの選手を迎えられなかったという。トップで第1ステージを制したのは32歳のモリス・ガランだった。口ひげをたくわえた身長162cmのフランス選手だ。パリで煙突掃除を本業としていた職人は、当時から自転車による長距離レースの強豪選手だった。

結局ガランは、パリまでの全6ステージのうち3ステージで優勝。総距離2428kmを走り、一度も首位を譲り渡すことなく、総合2位のルネ・ポチエに2時間49分45秒差をつけて優勝を飾った。平均時速26.450kmという記録は、当時の自転車の性能を考えると信じられないほどのスピードだ。

日本でツール・ド・フランスがおなじみになった近年は、パリ以外の都市で開幕し、パリにゴールすることが常になった。ただし歴史をさかのぼれば、1926年を例外として1950年までは必ずパリをスタートし、そして今日まで変わらずパリにゴールするというスタイルが取られた。



厳密に言えば、行政上のパリ市内を出発するのは第2回大会からで、第1回はパリの旧城門の外にある「バンリュー(郊外)」と呼ばれるエリアをスタートしたのだ。その理由はツール・ド・フランスが認知されていなかったからだ。第1回のゴール地点も正確にはパリではなく、パリ近郊のビルダブレーにゴールした。

それでもこの第1回大会の模様がまたたく間にフランス国民の関心を誘い、一気に認知度を高めた。その恩恵を受けて翌年からパリをスタートし、パリ16 区のパルク・デ・プランスにゴールすることを認められることになるのだ。

今でこそツール・ド・フランスのフィナーレは、パリのシャンゼリゼ通りだが、シャンゼリゼに選手たちが凱旋するようになったのは1975年からだ。パリの目抜き通りを完全封鎖してサーキットコースとして華やかなフィナーレを迎える。政財界の関係者が陣取る仮設スタンドは、7月14日に行われた革命記念日に使われた施工物を置きっ放しにしておいたもの。いちおうフェンスは一部にまとめられて往来の妨げにならないようにしているようだ。

ツール・ド・フランスは五輪やサッカーW杯と大会日程が重複する年は、海外開幕として話題性を喚起する戦略を採る。2016年はW杯イヤーではないのだが、フランス開催となるUEFA欧州選手権とかぶるためツール・ド・フランスにはとっておきの開幕地が用意された。ノルマンディー地方にある世界遺産モンサンミッシェルである。

UEFA欧州選手権の決勝はツール・ド・フランス大会9日目となる7月10日、テロの標的となったサンドニのスタッドフランスで開催される。平和の象徴であるスポーツが憎悪で破壊されることなく行われ、そして世界中の憧れのパリにツール・ド・フランスを戦い抜いた選手たちが凱旋することを切に願う。

《山口和幸》

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