【小さな山旅】樹齢940年の翁杉…茨城県・真弓山(2)
オピニオン
コラム

日本の巨木でもっとも有名なのが、縄文杉であろう。縄文杉を見るために、1年で何万人もの観光客が屋久島に訪れているのだから、何ともな話である。推定樹齢4,000年以上(諸説あり)、樹高30m、目通り16mという巨木の姿は、神々しく、勇ましく、温かい。例え、木の周りが柵で囲われていたとしても、人々は行列をなして片道5時間もの距離を歩くのである。
縄文杉ほどではないにしても、茨城県にだって立派な巨木はたくさんある。真弓神社の北側斜面にある「翁杉」も、その一つだ。
推定樹齢940年、樹高45m、目通り10.4mのその杉は、縄文杉ほどではないにしても、異様な存在感があった。
森の中にでんと構えるその姿に惹きつけられ、しばらくその場に佇んだ。ぼんやりと翁杉を見ているだけで、心が落ち着き、安らいだ気持ちになれた。筆者も、巨木という存在にまんまと魅了された訳である。
さて、巨木の何が人を惹きつけるのか。翁杉を見ながら考える。それは、「長い年月を生きてきたこと」と「大きいこと」が醸し出す「偉大さ」にあるのではないか。
■年輪の数だけ、人を惹きつける。
先日まで、高齢者の方のディスカッションしている模様を文章に起こすという仕事をしていた。彼らの発言には、もはや格言といったレベルのありがたい言葉が見受けられた。
長い年月を生きてきたからこそ、生み出せる言葉であった。それらの言葉に、しばしば感動させられたものだ。
また、アンティークという言葉に弱い人も多い。生物でなくとも、長い年月を生き抜いてきた物には味があり、重みがある。その重厚感に人は魅せられるのだろう。人は「長い年月を生きてきた」という存在に、畏怖と一緒に尊敬の念を抱く。
■圧倒的な大きさが、人を惹きつける
さらに、人は大きなものに弱い。人は圧倒されるような大きさを目の前にすると、恐怖心を抱きつつ、また、感動もする。大きいということは、それだけで人の心を動かす力がある。
「長い年月を生きてきて」「大きい」。それは、とてつもなく「偉大」なことである。そのようなものは、人の心を強烈なまでに惹きつける。巨木もそれにあてはまるのだ。
だが、ちょっと待てよ。筆者自身だってその要素を満たしつつあるのではないか。中年と呼ぶに相応しいだけの歳を重ね、学生時代に一列に並ばされた時は、決まって先頭か最後方であった。つまり、そこそこ歳をとっていて、それなりに大きい。
なのに、何故偉大ではないのだろうか。いや、ひょっとしたら既に他人様から見たら偉大な存在になっているのかもしれない。きっとそうに違いない。そうでなければ堪らない。
そんなことを翁杉の傍らで考えていたら、何故だか無性に虚しくなった。その先の真弓神社で、必死に願掛けしたのは言うまでもない。
《久米成佳》
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