本来この試合はフェザー級王者マクレガーと、ライト級王者ハファエル・ドス・アンジョスの対戦が予定されていた。しかし、大会直前の練習中にドス・アンジョスが負傷、急きょ代打として以前からマクレガー戦を熱望していたネイトが選ばれた。
■階級を飛び越えたスペシャルマッチ
この対戦が発表されたとき格闘技ファンは驚いた。なぜなら大会まで日がなく、ライト級のリミットまで身体を絞れるか分からないと言うネイトに合わせ、ウェルター級契約で行われると決まったからだ。
格闘技の階級は競技や団体によって違うが、UFCの場合ウェルター級は170ポンド(約77.1キロ)がリミットになる。普段マクレガーが戦っているフェザー級は145ポンド(約65.8キロ)。ドス・アンジョス戦のため、ライト級の155ポンド(約70.3キロ)を目指してきたマクレガーだが、そこからさらに6キロは増量しなければならない。
格闘技が厳密な階級制を敷いているのは、体格のアドバンテージが無視できないからだ。日本では『柔よく剛を制する』という神話が好まれるが、これは対戦する選手の技術に余程の差がなければ成立しない。ともに高い技術を持つトップ選手同士なら、単純に身体の大きい方が圧倒的に有利。
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コナー・マクレガー対ネイト・ディアス
■一発の重みに沈んだマクレガー
それでも第1ラウンド、マクレガーは期待以上のものを見せた。素速い出入りから、パンチが何度もネイトの顔面を襲う。体格差をものともしないほどマクレガーのパンチにはノビがあり、左フックでネイトは右まぶたの上をカットした。
血だらけになったネイトの顔面に、マクレガーのパンチが次々に入る。1ラウンドは終始マクレガーが圧倒して終わった。
これはひょっとするかもしれないと思われ始めた第2ラウンド。このラウンドもマクレガーの打撃が冴える。ネイトのパンチにカウンターの左を合わせ、後ろ回し蹴りも放っていく。
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コナー・マクレガー対ネイト・ディアス
顔だけでなく身体まで鮮血に染まるネイト。しかし、タフネスぶりで知られた男は、やられながらも逆転の機を窺っていた。そして残り3分でその時は訪れる。ネイトの繰り出したワンツーがマクレガーの顔面をとらえたのだ。アゴを打ち抜かれたマクレガーは動きが止まり後退。ここから一気に形勢は逆転する。
ネイトのパンチが次々にマクレガーの顔面に吸い込まれていく。マクレガーも左右のパンチで打ち返すが、ネイトのタフネスとパワーがそれを上回る。苦し紛れのタックルにいったマクレガー。結果としてこれが最悪の選択となった。
マクレガーのタックルをギロチンで受けたネイト。寝技の攻防からマウントを取ってパウンド。打撃を嫌がったマクレガーが背中を向けると、ネイトは背後からマクレガーの首に腕を回し締め上げていく。堪らずマクレガーはタップした。
苦しい時間帯を耐えに耐え、ネイト・ディアスが2ラウンド4分12秒で勝利。
リング上でジョー・ローガンに「世界が驚いてるぞ!」とマイクを向けられたネイトは、開口一番「俺は驚いちゃねーよ」と応えたかと思えば、直後にあいさつ代わりの放送禁止用語を発した。
And w/ that we will see you next time! #UFC196 https://t.co/6ZXCfbUVug
— UFC (@ufc) 2016年3月6日
実兄のニック・ディアスとともに、UFC随一の悪童として知られるネイト。ただの暴れん坊ではないことを示した一戦だった。
■大一番にはトップアスリートも注目
この一戦にはスポーツ界の有名選手も注目していた。終了直後からツイッターには彼らの驚きに満ちた声が寄せられている。
NFLグリーンベイ・パッカーズのQBアーロン・ロジャースは、「今夜の戦いは本当にすごい!デイナ・ホワイト、次のPPVが待ちきれないよ」とUFCのホワイト社長に興奮を伝えた。
2 incredible fights tonight! Great night @danawhite, cannot wait for the next ppv #UFC196
— Aaron Rodgers (@AaronRodgers12) 2016年3月6日
女子サッカーアメリカ代表のシドニー・ルルーも、「なんてクレイジーな夜なの!」とツイートした。
What a crazy night!!!!!!!
— Sydney Leroux Dwyer (@sydneyleroux) 2016年3月6日
格闘技団体Bellatorのライト級王者ウィル・ブルックスは、「ガゼルがライオンを食べるのは初めて見た」とツイートしたほか、「今夜は目標に届かなかったが、それでも依然として彼はチャンピオンだ」と称えた。
That's the first time I saw a gazelle eat a lion.
— Will Brooks (@illwillbrooks86) 2016年3月6日
Respect to McGregor he's shown what true belief in yourself can do. Tonight he fell short but he's still a champion. #145champ
— Will Brooks (@illwillbrooks86) 2016年3月6日
■次の目標はフェザー級タイトルの防衛
敗れたマクレガーだが、ウェルター級での戦いを受けたこと、不利と見られた条件の中で第1ラウンドは圧倒したことにより、その商品価値は下がっていない。
元UFCファイターで現在はコメンテーターを務めるチェール・ソネンは、今回の対戦について試合後「マクレガーは今回の試合のため、25ポンド(約11.3キロ)上の階級に挑んだ。ドス・アンジョスが欠場したあと、マクレガーは引き上げず次のステップアップにチャレンジした」と話し、彼の将来はとても明るいと予想した。
一方で試合後、前フェザー級王者のジョゼ・アルドは、ツイッターで「おまえのおとぎ話は終わった」とマクレガーに再戦を要求している。
See ya at #UFC200, @TheNotoriousMMA. Your fairy tale is over. You got nowhere to run now. Time to a rematch, pussy. pic.twitter.com/67fmic8qxG
— Jose Aldo Junior (@josealdojunior) 2016年3月6日
アルドにしてみれば1ラウンド13秒で敗れた前回の対戦は、試合開始直後に出会い頭のカウンターをもらっただけであり、実力なら自分のほうが上だと自負しているのだろう。いつまでも遊んでないで、さっさとリマッチを受けろと対戦に名乗りを挙げた。
マクレガーも「おそらく次はフェザー級に戻ってタイトルを防衛することになるだろう」と話している。ただし、相手については前王者アルドか、フランク・エドガーになるか今のところ未定。
また、ツイッターでアルドから対戦要求があったことについて聞かれると、「彼は今夜ここに来る機会があった。彼は対戦相手の第一候補だったんだ」と話した。
敗れてなおUFCで話題の中心に在り続けるマクレガー。今回の試合で復活を印象づけたネイト。ふたりとも次の対戦相手が誰になるのか注目される。