もともとジュニア時代の錦織はクレーコートを得意にしていた。全仏オープン男子ジュニアダブルスでは、日本男子史上初の四大大会ジュニアダブルス優勝も果たしている。
ところが、プロになったころから錦織はクレーコートで勝てなくなった。
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錦織圭
■「戦い方が分からない」まま続けた練習と敗戦
球足が遅く長いラリーの続くクレーコートは、一見すると錦織有利のように思われる。だが赤土の上でラリーを制するにはパワーと、長時間戦い抜くフィジカルや精神的なしぶとさが必要になってくる。その部分でジュニア時代とは要求レベルが格段に違った。
加えてタフな試合が長時間続けばケガのリスクも高まる。もともとケガの多い錦織は、クレーコートシーズンを通して戦えないことも少なくなかった。そうしてジュニア時代は得意だったクレーが、プロでは最も苦手なコートに変わった。
「プロになった最初のほうは苦手意識しかなかった。どうプレーして良いのかが分からないまま、ずっとやっていた」
勝てない焦りと不安から錦織は、『クレーコートでスペシャリストに勝つのは難しい』と苦手意識を持つようになっていく。
■『日本人は勝てない』と言われたクレーコート
クレーコートは錦織に限らず日本男子の泣き所だった。米国スポーツ専門局『ESPN』のピーター・ボド氏は今年4月、クレーコーターとしての錦織を紹介する中でこんなことを書いている。
「日本の男子選手はプロテニスで一定の成績を収めてきたが、錦織が現れるまでクレーコートでは停滞していた。彼は昨年の全仏オープンで準々決勝に進んだが、それは日本男子が80年間成し遂げられなかったことだ」
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ボド氏は、ある時を境に錦織がクレーコートでもトップ選手になったと指摘する。
「錦織のクレーコート通算成績は49勝20敗、トップ10の相手には4勝7敗。だが2013年のマドリード・オープンでロジャー・フェデラー相手に番狂わせを演じてからは4勝4敗だ。バルセロナでもふたつのタイトルを獲得している」
錦織が初めてクレーコートでATPツアータイトルを獲得したのが、2014年のバルセロナ・オープン。その前に起こった出来事で転機となるのが、2013年12月に発表されたマイケル・チャン氏のコーチ就任だ。
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マイケル・チャン(左)と錦織圭
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