【THE ATHLETE】エメリヤーエンコ・ヒョードル、氷の皇帝も逃れられない老いと格闘技の進歩 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】エメリヤーエンコ・ヒョードル、氷の皇帝も逃れられない老いと格闘技の進歩

オピニオン コラム
元PRIDE世界ヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードル 参考画像(2009年1月20日)
元PRIDE世界ヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードル 参考画像(2009年1月20日) 全 2 枚 拡大写真
2000年代前半の格闘技を見ていた人間にとって、エメリヤーエンコ・ヒョードルという名前は特別な存在感を持つ。

それまで卓抜したグラウンドテクニックでPRIDEヘビー級王座を守ってきたアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラに対し、ガードをものともせず強烈なパウンドで上から潰した2003年3月16日の対戦、そして偶然のバッティングによる無効試合をはさんで行われた2004年の大晦日決戦。いずれもヒョードルは勝利して格闘技界で主役の座に就いた。その後も連戦連勝、無敗の絶対王者として君臨し続ける彼を人々は称賛した。

だが超一流の総合格闘家も寄る年波には勝てなかったか、それともケージが合わなかったか。『PRIDE』消滅後に参戦した『Strikeforce』でヒョードルはデビュー戦こそ勝利したものの3連敗。1勝3敗でリリースされている。

その後の経歴をかいつまんで説明すると、3試合戦って3勝して2012年に現役を引退。2015年の大晦日に『RIZIN』で復帰、復帰戦ではシング・心・ジャディブから1ラウンド3分2秒でTKO勝ちを収めた。

最近では数年越しにUFCとの契約話も持ち上がり、再び格闘技界で話題の人物になっている。

エメリヤーエンコ・ヒョードル、UFC登録へ

そんななかで6月17日、ロシアで行われた格闘技イベント『Fight Nights Global 50』にヒョードルが出場、元UFCファイターのファビオ・マルドナドと対戦した。

■第1ラウンドでダウン、あわやTKO負けの大苦戦

ヒョードルはマルドナドに対し、第1ラウンド開始直後からスタンドのパンチ連打で猛攻を仕掛ける。だがガードを固めるマルドナドに決定的な打撃を入れられず、ラッシュを打ち切って一度リングの中央まで戻り仕切り直した。

ヒョードルは第1ラウンド残り4分を切ったところで再び飛び込むが、ここでマルドナドにカウンターを合わせられ倒れる。ダウンしたヒョードルにマルドナドが追撃のパウンド。会場がヒョードルのホームでなければ、この時点でストップされてもおかしくなかった。

激しいパウンドの嵐からなんとか立ち上がったが、無防備なアゴへパンチをもらいフラフラの状態で相手に背を向け逃げる。距離を取って構え直したがダメージは深刻だ。

マルドナドも攻め疲れたか決め手を欠き、第1ラウンドにして最終ラウンド終盤のようなノーガードの打ち合いを演じたところで、このラウンドは終了。ヒョードルはパウンドのほかにも金網に押しつけられながらのクリンチアッパーを何発ももらい、ラウンド間に映し出された顔にPRIDEで“氷の皇帝”と呼ばれた男の面影はなかった。


第2ラウンドに入るとヒョードルが底力を見せ始める。疲れから手が出ないマルドナドに対し、跳びヒザ蹴りや組みついてのヒザ蹴り連打、さらに左右のパンチを振り回して主導権を奪い返す。マルドナドは金網際でガードを固めるが、第1ラウンドほどパンチを防ぐことができず、隙間からヒョードルの拳が入り込む。それでも致命的な一撃と呼べるものはない。

第3ラウンドは開始早々にマルドナドの左フックが顔面をとらえ、ヒョードルは体勢を崩したが踏みとどまる。ヒョードルは再び至近距離でのヒザで主導権を握り、金網際で左右のフックを連打するも今度はマルドナドが応戦。PRIDEで数多の強者を葬ってきたヒョードルのフックが、マルドナドを倒せないのはダメージの深さか老いゆえか。

ヒョードルは金網に追い詰めて連打を見舞う場面は作り出すが、致命傷を与えることはできず決定打に欠ける。対するマルドナドは前のラウンドから手数がなくなり、なんとも主催者泣かせの展開になってきた。

ヒョードルは試合終盤に攻勢を仕掛け、押している印象を作って終了。判定でヒョードルが勝利したものの、スッキリしない格闘技ファンからは「すぐにロシア外で再戦すべきだ。この内容なら引き分けが妥当だろう」「試合勘がとんでもなく鈍ってる」「PRIDEの生き残りでいまだに最前線のハントが異常なんだな」といった声が寄せられている。

そう言いたくなるのも理解できる内容だった。

■進化に取り残されたレジェンド

この試合を見た限りでは、今のヒョードルがUFCに参戦してもヘビー級のトップ選手とは試合にならないだろう。サイズの差もあるためライトヘビー級に下げるのではとも言われているが、それでもジョン・ジョーンズやダニエル・コーミエに勝つ姿は想像しがたい。

左右のフックを振り回しながら圧力かけて、その流れでテイクダウンするのがヒョードルだが、この試合ではそうした動きがまったく見られなかった。相変わらず左右のフックは速いが、ボクシングできる選手にガードを固められてしまうと倒せるほどの威力がもうなく、打ち返されると逆に窮地を向かえる。

綺麗なストレート系のパンチを打てるタイプの選手ではないので、10年前と比べてもボクシング技術が格段に向上した現代の総合格闘技界ではつらいだろう。第2ラウンドからローキック、PRIDE時代にはあまり使わなかった跳びヒザ蹴りや首相撲からのヒザ連打などムエタイスタイルへの適応を垣間見せはしたが、基本的には総合格闘家として時代遅れな選手だ。

ディフェンス面でも加齢による運動能力と空間認識能力の衰えなのか、マルドナドのストレートを上体の操作だけで避けようとして正面からくらってしまう姿があり、全盛期のイメージに身体がついていかない『子どもの運動会でアキレス腱切っちゃうお父さん現象』とでも呼ぶべきことが起こっていた。

第1ラウンド序盤のカウンターがなければ違った展開になったかもという「たら・れば」も言えるが、いくらマルドナドを格下の選手とナメていたとしても、あそこまで無防備に突っ込んで行ってカウンターもらうのはどうなんだろうか。今のチームにヒョードルを抑え付けられる作戦担当がいないことを表してないか。このあたりはヒョードルの存在が大きくなりすぎてしまったことにも原因がありそうだ。

ヒョードルの無策ぶりはこの試合に限ったことではなく、PRIDE消滅後の試合はだいたいそんな内容だった。

それもこれも引っくるめてPRIDE時代の幻影を追いかけ、ヒョードル最強幻想を夢見ていた人々の期待を叩き潰すに足る試合だった。

《岩藤健》

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