壮大な大河ドラマを背景に持ち、劇的な展開が続いた2016年NBAファイナル。その視聴率は中継したABCネットワークによると、同イベントでは史上最高の18.9%を記録した。
全米が注目した一戦は、ここまで見られなかった僅差の接戦になった。レブロンが攻守に鬼気迫るプレーを見せ、アービングもシリーズ後半からの好調を維持。ラブはシュートタッチこそ戻らなかったが、14リバウンドで前半からゴール下を支えた。
試合は89-89のまま最終クォーター残り数分からスコアが動かない。両チームとも堅いディフェンスを見せ4分近く無失点が続く。この展開にアービングは、「先に点を取ったほうが優勝する可能性が高い」と感じていた。
先に決定機を迎えたのはウォリアーズ。残り2分を切ったところでイグダーラのディフェンスリバウンドから速攻、自陣にJR・スミスひとりしか残っていなかったキャバリアーズに対し、ウォリアーズはイグダーラとカリーが素速く攻め上がる。
カリーとのパス交換でスミスを翻弄したイグダーラがレイアップ。決勝点になるかと思われたが、ふたりの後ろを走っていたレブロンが最後の瞬間に追いつき、シュートをボードに叩き付けてブロック。
All 20 angles of @KingJames' incredible block in Game 7 of the 2016 #NBAFinals!https://t.co/zWqsPzqSQj
— NBA (@NBA) 2016年6月21日
現地の解説も「スーパーヒューマン!」と絶叫したディフェンスに、シュートを止められたイグダーラも、「彼はシリーズを通してあれをやってきた。彼はチームのために素晴らしいプレーをした」と脱帽した。驚愕のプレーで窮地を脱したキャバリアーズ。この試合もうひとつのハイライトが1分後に訪れる。
試合時間残り1分を切りボールはアービングの手に。敵陣でドリブルする彼にカリーがディフェンスでついた。この場面でアービングが思い切って狙った3ポイントシュートは、綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれる。1年前は病院のベッドの上でファイナルを見ていた男が、土壇場で決定的な1本を沈めた。
Kyrie is COLD-BLOODED! #NBAVine #NBAFinals https://t.co/ZOnI5YZafB
— NBA (@NBA) 2016年6月20日
優勝を大きく手繰り寄せるシュートを決めたアービングだが、最初に思ったことは「カリーとトンプソンのディフェンスにつかなくては」だった。このチーム相手に3点差はリードと呼べないことを彼は知っていた。
決定的な得点がほしいキャバリアーズは、残り時間わずかで好機を得る。シュートを狙ったレブロンがグリーンとの接触で倒され、フリースローを獲得したのだ。しかし、このプレーでコートに手をついたレブロンは右手首を痛め、しばらく立ち上がれないほどのダメージを負う。
敵地のプレッシャー、痛む右手首の悪環境で1本目のフリースローは外れた。だがレブロンはすぐに修正し、2本目のフリースローをねじ込んでリードを3ポイントシュート1本では追いつけない4点に広げる。そして試合はそのまま終了した。
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映画のようなと形容するにもできすぎな展開、フィクションなら「盛りすぎて安っぽくなっている」と言われてしまいそうなエモーショナルな場面の連続で勝利し、ついにクリーブランドの歴史を変えた。
試合が終了し、すべての重圧から解放された瞬間、レブロンは泣き崩れた。NBAのキングと呼ばれる男が人目もはばからず涙を流した姿は、この一戦にかける彼の意気込みを象徴するシーンだった。
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ラブ(右)と抱き合うレブロン
コート上でインタビューを受けたレブロンは、あらためて今回の優勝がオハイオ州ノースイーストのためだと叫んだ。
「ここへ戻ってきたときにゴールを定めた。それはクリーブランドに優勝をもたらすこと。僕はそれに自分のすべてをかけた。すべてのオッズは僕らが不利だと語っていた。難しい戦いだった。クリーブランド、この優勝はお前たちに捧げる!」
■物語の終わりは、別な物語の始まり
物語は感動的な結末で幕を閉じたがNBAは来季以降も続いていく。すでに選手たちは次の戦いを見据えている。キャバリアーズの選手たちが喜ぶ姿から、カリーとイグダーラは最後まで目を離さなかった。
試合後の会見でこのことについて尋ねられたカリーは、「来季さらに強くなって戻って来るため、夏の間中ずっと記憶に焼き付けておく必要がある。僕らにできることはそれくらいだから」と話した。この敗戦を糧にカリーとウォリアーズはさらなる成長を遂げるだろう。
勝ったキャバリアーズもここで得た自身を胸に連覇を目指すことになる。その先にはマイケル・ジョーダン時代のシカゴ・ブルズが成し遂げた3連覇の偉業も見据えているはずだ。
ひとつのドラマが終わった。同時に新たなドラマはすでに始まっている。