110mハードル世界記録保持者アリエス・メリット、腎不全からの復帰を語る

ナイキは、世界記録を持つ110mハードルの選手アリエス・メリットが語る復帰までの道のりを公開した。

アリエス・メリットは、金メダル獲得から腎不全までの苛酷な道のりと、復帰までの努力を語った。彼は、もう2度と走ることはできない、普通に食事をすることもできなくなるだろうと言われたと話す。それでもアリエス・メリットは、また走っている。

2012年は世界記録を破り、金メダルを取り、大きな大会すべてで勝つことができた夢のようなシーズンだったという。しかし、2013年は怪我の連続だった。アリエスはそれでもなんとか持ち直して、パリの国際大会では勝つことができ、またトップに戻れると思っていたが、モスクワの世界選手権を控え、何かがおかしいと感じていた。

いつもとは違う不調を抱えたままモスクワに向かったが、メダルは取れなかった。決勝で走っている時にも体の何かがおかしく、しっかりと動いてくれないと感じていたと話す。その後お腹の調子が悪くなり、ひどい疲労を感じ、食べたものを吐き出すようになって医師を訪ねた。

尿検査をすると、すぐに腎臓に問題があることがわかった。虚脱型巣状分節性糸球体硬化症（FSGS）と診断され、緊急腎臓生検を受けたアリエスはステロイドを取っているか尋ねられたという。それは、虚脱型巣状分節性糸球体硬化症の症状がステロイドの副作用の一つだからだ。だが、アリエスは薬物は使っておらず、アフリカ系アメリカ人によく見られる遺伝子異常のためだということが確認された。

担当医から「あなたは死に向かっていて、もうどうしようもない」と言われたアリエスは、すぐに透析を始める必要があり、これまでのような生活が続けられないことがわかった。透析を始めるまでに4日間与えられたアリエスは、怒りと失望から部屋の中に閉じこもった。しかし、母親から「このスランプから抜け出して、自分が良くなることを、自分が信じなければならない」と声をかけられ、その4日後に検査を受けた。

医師は「腎臓機能が回復してきています。この病気ではありえないことです」と言った。医師によるありとあらゆるテストの結果、アリエスはパルボウイルスB19に感染していることがわかった。これは犬が感染するウイルスだが、人にも感染し、ひどい症状を起こすこともある。治療を8ヶ月受けると、腎臓は60％まで回復した。傷や障害、腎臓不良も残ったが、トレーニングを開始することができたのだ。

アリエスは、2014年最初の試合で世界で6番か7番の結果を出したと話す。インドアのシーズンも好調で、アウトドアシーズンが始まり、プリフォンテーンクラシックでは世界2位の記録で走った。しかし、医師から腎機能が徐々に悪化し続け、残された手段は腎移植しかないと告げられた。

彼の腎臓の機能は、2016年3月には完全になくなった。トレーニングを行うことで残っている腎臓の機能が悪くなることがわかっていたが、2015年の世界選手権のためにトレーニングをするつもりでいたという。全米予選に出場すると、アリエスはかろうじて代表に選ばれた。

代表メンバーになった時、アリエスはこの事実を公表しようと決意した。薬物をつかっていたのではないかという噂があった彼は、「薬物常用者の烙印を押されたくはなかったし、一度はまぐれで金を取れたけど、彼はそれだけの選手だと言われるのも嫌でした」と話す。

アリエスは腎移植の8週間後にトレーニングを再開したが、腎臓の周りに血腫ができたため、また手術が必要になった。その結果、2015年12月19日がそのシーズンの初めての練習となった。1ヶ月半ほど練習し、インドアのレースに出場した彼は、その時点で世界3位となった。

今ではリカバリーも数分でできるようになり、練習の量もこなせるようになったという。アリエスは自分の名前を歴史に刻むために、世界の屋外競技のタイトルを取り、世界記録保持者として引退したいと語った。

リオオリンピックについては、「手術を受けるような大きな出来事があっても、できる、ってところを見せてやろうという感じ」だと話す。決勝に残るだけでも、アリエスにとっては勝利だという。連覇ができたら、あらゆる痛みと、苦しみと、悲しみと絶望を払拭するような世紀の一大事的勝利だと思うと語った。