大島によれば、最終ラインの選手からパスを受ける位置ひとつを取っても、手探りの部分があったという。しかし、国の威信をかけた戦いの舞台で、曖昧な関係を残したままでは同じ轍を踏んでしまう。
ハリルジャパンにおける世代交代の旗手となり、2年後のW杯ロシア大会の舞台に立つ。目指す場所が鮮明に描かれているからこそ、どちらかと言えば不得手としてきた“自分を出す”という作業を率先して行いたいと思いに駆られているのだろう。
■川崎よりも速いテンポで
「今日のような試合でまだ少し恥ずかしさを見せる面はあったが、そのようなチョイスをしたのは私の責任だ。このようなタイプの試合をしたときは、とにかく監督を批判してほしい」
試合後の記者会見で、ハリルホジッチ監督は大島をかばようかのような言葉を並べた。最終ラインを束ねる吉田は「能力の高い選手であることはわかっている」と才能を認めたうえで、あえて大島に厳しい檄を飛ばしている。
「川崎でやっているようなゆっくりとしたテンポではなくて、もっと速いテンポでリズムを作れるようなパスを配給してほしい」
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大島僚太 (c) Getty Images
せめて6月のキリンカップで、A代表の独特の雰囲気やパス回しを含めたスタイルを経験していたら、また違ったプレーを埼玉スタジアムのピッチで演じたかもしれない。
ナイーブに映る大島がトラウマを抱えないようにと、指揮官を含めた周囲が見せている配慮の跡。しかしながら、大島自身が「UAEに負けた」という現実を逃げることなく、真正面から受け止めたうえで、自分の力で乗り越えようと努めて前を向いている。
「僕ができることを全力でやりたい。それは攻撃の部分においてアクセントをいろいろとつけたいと思っているし、課題の守備というところでも、特徴のある選手が大勢いるので、そういう人たちから盗むことで僕自身の成長につながるのかなと思って日々臨んでいる」
次戦は舞台を敵地バンコクに移し、タイ代表と6日に激突する。戦いは待ってくれない。胸中に募らせた悔しさと無念さを力に変えて、稀代のプレーメーカーの資質をその体に搭載した大島は新たなる道を突き進んでいく。