バヒド・ハリルホジッチ監督は、長く日本代表のゴールマウスを守ってきた川島永嗣を今回のアジア最終予選で招集していない。理由は単純明快。今シーズンから移った新天地のFCメス(フランス)でゴールキーパーの3番手に甘んじ、出場機会を得ていないからだ。
ゴールキーパーに西川周作(浦和レッズ)、東口順昭(ガンバ大阪)、林彰洋(サガン鳥栖)の3人を招集したハリルホジッチ監督は、川島に対して「先発での出場がなければ、この3人のなかにも入ることができない」とメディアを介して厳しい方針を伝えている。
そして、同じことが本田にも当てはまる。ミランで出場機会を得られなければ、日本代表のなかで指定席を用意するわけにはいかない。アンタッチャブルともいうべき例外を設けてしまえば、チーム内には不健全な雰囲気が漂い始める。
振り返ってみれば、ワールドカップ南アフリカ大会を直前に控えた日本代表で、当時所属していたCSKAモスクワにおける出色のプレーが岡田武史監督を魅了。不振に陥っていた中村俊輔(横浜F・マリノス)に代わる、チームの大黒柱の座を射止めた。
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本田圭佑 (c) Getty Images
あれから6年あまり。勝負の世界における弱肉強食の掟は、誰よりも本田自身が理解している。タイ代表戦で先制ゴールをあげたFW原口元気は、所属するヘルタ・ベルリンでも絶好調をキープ。サイドアタッカーとしては、マリノスの齋藤学が得意のドリブルで対戦相手を翻弄し続けている。
今年の6月で30歳になった。選手である以上は、いつかは力をつけてきた後輩にバトンを託すときが訪れる。それでも世代交代の波に可能な限り抗ってみせると自らに言い聞かせながら、最後のワールドカップと位置づけているロシア大会を目指す思いを、本田はこんな言葉を通してUAE戦後に発信している。
「毎年100人くらいが海外へ行って、所属クラブでレギュラーとしてプレーする選手も50人いて、そこから誰を代表に選ぶのか。このような状況が、たとえば南米なんですよね。僕の経験上、ブラジル人選手がいないチームはないので。でもいま現在の日本代表は、僕を含めて海外である程度レギュラー争いをしている選手であれば、よほどのことがない限りは日本代表に選ばれて、レギュラーとして試合にも出られる。それだけじゃあ足りない、ということですよね。海外で活躍することがむしろ当たり前になって、日本代表のレギュラー争いも激しくなるくらいに、ヨーロッパの選手もやっていかないといけない」
■生き残りをかけて
もっと、もっと大勢の若手や中堅がJリーグから海外へ挑めという檄。そのなかで必ずレギュラーを獲ってみせるという自信と、自分自身を含めて、いま現在のヨーロッパ組の立ち位置はまだまだ甘いという戒め。さまざまな思いが伝わってくるが、本田を取り巻く状況は厳しい。
ウディネーゼ戦では両チームともに無得点で迎えた後半34分から、今シーズン初めてピッチに立った。配置された右サイドからゴール前への飛び出しやクロスなどで必死にゴールを目指したが、同43分に喫した失点を取り返せずに連敗を喫した。
現地時間16日には敵地でサンプドリア戦が待つが、出場停止の選手が戻ってくれば、再び本田の出番は遠のくだろう。フィオレンティーナ時代にモンテッラ監督から重用されたまな弟子・フェルナンデスのケガが癒えれば、攻撃陣のなかにおける序列はさらに低くなってしまう。
何よりも営業的な思惑が優先され、ベンチには入り続けるとすれば、本田個人の力ではなす術がない状況が生まれる。このままの流れながら、今シーズン限りでの退団は決定的。来年1月に幕を開ける冬の移籍市場をもにらみながら、ハリルジャパンへの生き残りもかけた本田の孤独な戦いは続く。