【THE REAL】浦和レッズ・遠藤航の驚くべきスイッチ力…10年ぶりの国内タイトルを引き寄せた存在感 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】浦和レッズ・遠藤航の驚くべきスイッチ力…10年ぶりの国内タイトルを引き寄せた存在感

オピニオン コラム
遠藤航 参考画像(2016年7月30日)
遠藤航 参考画像(2016年7月30日) 全 5 枚 拡大写真
ある選手がPKキッカーを任される理由は、ほとんどのクラブにおいて同じ傾向があるといっていい。いわく「正確なキックを蹴れる」あるいは「心理的な駆け引きで相手の逆を突ける」と。

その意味では、昨シーズンの湘南ベルマーレでPKを担った、当時22歳のDF遠藤航は異質だった。曹貴裁監督は「決める力がある」と前置きしたうえで、何ともユニークな選定基準を明かしている。

「たとえPKを外しても、その後のプレーが何も変わらない選手なので」

遠藤航(中央)とチームメート (c) Getty Images

■PKを外しても、すぐ気持ちを切り替えればいい

ボールを置くペナルティーマークから、相手のゴールキーパーが仁王立ちするゴールラインまでの距離は12ヤード(約10.97メートル)。蹴る側の成功率が80%に達するという統計もある。

守る側は「決められても仕方がない」と開き直りの境地に達し、一方の蹴る側はチームメートやファン・サポーターの期待を決めた視線を浴びながら、「決めて当然」というプレッシャーに襲われる。

選手によっては、ゴールキーパーまでの距離がやけに遠く見えることもあるだろう。当然ながら、その場合はほとんどが失敗に終わる。メンタルに強く左右されるPKを、遠藤はこう位置づけていた。

「PKに関しては、どちらかと言えば自分が蹴るよりも味方が蹴るのを見ているほうが緊張するんですよ。迷っちゃうと入らないし、基本的には前日の練習で決めることができた方向に、自信をもって蹴るようにしています。ミスをしたらどうしようと考えないようにしているというか、僕の場合は『たとえ外したとしても、すぐに気持ちを切り替えればいいだろう』といった感じで蹴っています」

ふてぶてしさすら覚えるほどの強心臓。統計上で最大20%の確率で起こるミスを引きずらないメンタルの強さは曹監督だけでなく、今シーズンからプレーする浦和レッズの指揮官をも魅了していた。

サッカー日本代表でも活躍する遠藤航 (c) Getty Images

■5番手は蹴るイメージを描きやすい

ガンバ大阪と埼玉スタジアムで対峙した、10月15日のYBCルヴァンカップ決勝。東西の雄がお互いに譲らない死闘は、延長戦を含めた120分間を終えて1‐1のまま決着がつかず、PK戦へともつれ込んだ。

ここでレッズを率いるミハイロ・ペトロヴィッチ監督が動いた。これまでは選手たちの自主性に任させてきたキッカーを自ら指名し、そのうえで蹴る順番を募らせた。5人のなかには、遠藤が含まれていた。

PK戦の流れを決めるうえで極めて重要な役割を担い、独特のプレッシャーをも背負う1番手には、キャプテンを務めて5シーズン目になる35歳のMF阿部勇樹が真っ先に名乗りをあげた。

レッズがPK戦に臨むのは、今シーズンで2度目。5月25日に敵地で行われた、FCソウルとのACL決勝トーナメント1回戦第2レグ。2番手を志願した遠藤は、阿部に続いてPKを成功させている。

「今回もそれくらいをイメージしていたんですけど、ズラタンと(興梠)慎三さんが(阿部さんに)続いて手を上げて、自分は手を上げるタイミングを失ってしまったというか」

苦笑いしながらPK戦直前の舞台裏を明かしてくれた遠藤は、2番手にズラタン、3番手には興梠の両FWがそれぞれ決まっていくなかで、ある“覚悟”を決めていた。

「4番手と5番手のどちらがいいかといえば、5番手かなと思っていたんです。そうしたら、チュン君(李忠成)が4番手で手を上げたので。すんなりと決まりました」

試合中に獲得したPKとトーナメント戦の勝者を決めるPK戦は、選手たちが置かれた状況を含めて、すべてが異なる。しかし、最後の5番手だけは、特にメンタル面において共通項が多い。

「5番手は試合を決める状況で迎える可能性が高いし、そのほうが蹴るイメージを描きやすかった。決めたら勝ち、決めなかったら負けくらいの割り切りが逆にあったほうがいいかなと」

■得意のコースは右

たとえば昨シーズンのベルマーレで、遠藤は試合中に獲得したPKを3度蹴ってすべて成功させている。最初は3月7日のファーストステージ開幕戦の前半34分。相手はくしくもレッズだった。

試合は一進一退の攻防が繰り広げられるなか、両チームともに無得点のまま推移していた。先制点が大きなウエートを占めるだけに、レッズのDF槙野智章は“ささやき戦術”で遠藤にプレッシャーをかけにきた。

「どっちに蹴るの? 右に蹴るんだろう? 右だよな?」

ペナルティーマークにボールをセットする前から、遠藤に近づいては何度もささやいた。見かねたベルマーレのキャプテン永木亮太(現鹿島アントラーズ)に制止されると、今度は大声で「右!」と叫び続けた。

レッズのゴールマウスを守る西川周作は、槙野の“ささやき戦術”の共同作業として、遠藤が左側に蹴ってくると予想している。しかしながら、遠藤はプレッシャーを微塵にも感じていなかった。

「槙野さんからずっと“右だろう?”と言われていたので、じゃあ右に蹴ろうかなと思って。西川さんがけっこう早く左に動いたことも見えていたし、意外と落ち着いて蹴ることができました」

日本代表に名前を連ねる西川にコースを読まれていたとしても、おそらく止められなかったのではないか。こう思わせるほどの強烈かつ正確な弾道が右足から放たれ、ゴールの右隅に突き刺さった。

そして、向かって右隅に蹴り込むPKは、遠藤が最も得意とするコースでもあった。アントラーズとのファーストステージ第2節、ヴィッセル神戸との同第10節でも、同じコースにPKを突き刺している。

「正直、得意なのはそっち(右)ですけど…それはあまり書かないでくださいよ」

当時は悪戯っぽい笑顔を浮かべながらメディアに懇願していたが、泰然自若とする姿からは、たとえ得意とするコースを相手に知られても動じない余裕といったものが伝わってきた。

サッカー日本代表でも活躍する遠藤航 (c) Getty Images

■失点の後でもショックを引きずらない

年齢に不釣り合いな落ち着きぶりの“源泉”となる切り替えの速さは、ガンバとのYBCルヴァンカップ決勝でも存分に発揮されている。その象徴が、前半17分に許した先制点のシーンだ。

敵陣の中央付近でボールを受けた槙野が、強引なドリブル突破を図った直後にガンバのキャプテン、MF遠藤保仁に止められる。こぼれ球をMF今野泰幸に拾われ、パスを受けた遠藤が前方へ軽く蹴り出す。

ボールを受けようとトップスピードで戻ってきたのはFWアデミウソン。競り合うように遠藤も必死に追走してきたが、ここでアデミウソンが急停止して、ボールをまたぐようにターンする。

予想外の動きにバランスを崩した遠藤は、その場で転倒してしまう。約60メートルもの距離をドリブルで駆け抜けていったアデミウソンに、自軍のゴールを陥れられる光景をただ見つめるしかなかった。

アデミウソンが仕掛けてきた駆け引きは、確かにハイレベルにあった。それでも、ディフェンダーとしては屈辱的なシーン。しかし、遠藤の思考回路は失点直後から驚くほどポジティブに作動していた。

「自分の思うような守備ができない、あるいはちょっとしたミスで失点を招いてしまうのは、センターバックならば必ずあるので。大事なのは失点の後に自分のなかでしっかりとメンタルをコントロールして、ショックを引きずらないこと。焦ってカウンターを食らって、2点目を与えることが最悪のパターンなので」

3バックを構成する左の槙野、右の森脇良太の攻め上がりを自重させながら、ゴールを奪おうと前がかりになっては相手のカウンター作戦にはまり、不必要な失点を重ねる“悪癖”を封印させた。

■可変システムで戦う浦和レッズ

レッズは「3‐4‐2‐1」を基本としながら、マイボールになるとボランチの阿部が最終ラインに加わる「4‐1‐5」に様変わりして、相手ゴール前に人数をかける「可変システム」のもとで戦っている。

最終ラインが4人になれば、スムーズにボールを回せる。一方で前線とのつなぎ役が柏木陽介だけになってしまうので、中盤におけるボール回収率がどうしても下がる。後半に入り、遠藤は阿部に注文を出した。

「後半はあえて3枚でボールを回しました。阿部さんが前に出ることで、セカンドボールをより拾えるようになったと思います」

リスクマネジメントに細心の注意を払いながら、前へのプレッシャーをも強めていく。チャンスを作り続ければ、レッズの攻撃陣ならば必ず相手ゴールをこじ開けてくれる。厚い信頼感が後半31分に結実する。

右コーナーキックの直前に投入されたFW李忠成が、ファーストタッチで同点弾を叩き込む。突入した延長戦の終了間際には、あわや決勝点を献上する場面で遠藤が防波堤の役割を果たしてもいる。

味方のスルーパスに抜け出したガンバのルーキー、FW呉屋大翔がペナルティーエリア内で右足を一閃。強烈な一撃は右ポストに命中し、ゴールライン上を転がっていった末に森脇に掻き出された。

このとき、呉屋の真正面に飛び込み、足の内側にシュートを当ててコースを変えたのが遠藤だった。距離にしてわずか数センチ。しかし、ブロックがなければ失点していたかもしれない、と西川が振り返る。

「僕もちょっと触っていますけど、その前に(遠藤)航の足に当たって方向が変わっていたので。ポストに当たった後は“入るな”と願い続けました」

迎えたPK戦。サッカーの神様は4番手で登場した呉屋のPK失敗を選び、対するレッズは4人全員が成功した状況で、つまり決めれば優勝決定という状況で5番手の遠藤を登場させた。

「(西川)周作君が止めてくれてからは、自分が決めて勝つイメージをずっと思い描いていた。蹴る瞬間は本当に落ち着いていました」

遠藤がボールに歩み寄っていく光景をベンチ前で見ながら、5人のなかに指名したペトロヴィッチ監督は勝利を確信していたはずだ。果たして、遠藤は迷うことなく強烈な一撃を得意とするゴール右隅へと蹴り込んだ。

「決まった瞬間は嬉しかったし、泣いている味方選手につられて自分も涙が出そうになりましたけど。このクラブに入って、タイトルにかけるファン・サポーターの強い思いは感じるところがあったし、その意味では絶対に取りたいと思っていたけど、一方で反省する部分も出てくる。そこをしっかり見つめる意味でも、喜んでばかりもいられないと思って」

サッカー日本代表でも活躍する遠藤航 (c) Getty Images

■国内三大タイトル独占に向かって

レッズにとって、旧名称のヤマザキナビスコカップだった2003シーズン以来、13年ぶり2度目の戴冠。国内三大タイトルにいても2006シーズンの天皇杯以来、10年ぶりとなるだけに誰もが感情を爆発させた。

遠藤にとってもベルマーレのトップチームに昇格した2011シーズンに幕を開けたプロサッカー人生で、トップリーグで初めて手にするタイトルだった。しかし、すぐに視線をさらに高く切り替えていた。

「自分にとっては初めての経験ですけど、浦和にとっては当たり前の環境というか、毎年のように結果を求められている。最後はみんなと笑って終わるためにも、気を抜くことはできない。充実感はなくはないですけど、だからといってまったく満足もしていない。自分のよさを生かせるのはここだと思って移籍してきたし、こういう結果を求められる環境に身を置くことで、さらに成長する自分を求めているので」

J1のセカンドステージ制覇に王手をかけたレッズは、チャンピオンシップで決勝にシードされる年間総合順位でも首位を走る。天皇杯では来月12日の4回戦で、川崎フロンターレと対戦することが決まった。

すでに何シーズンも“赤い悪魔”の一員として、プレーしているような風格と貫禄。23歳の若大将・遠藤が高鳴らせる自慢の強心臓が、2014シーズンのガンバ以来となる国内三大タイトル独占を狙える位置につけたレッズを縁の下から支えていく。

《藤江直人》

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