【THE REAL】ハリルジャパン屈指のドリブラー、齋藤学の挑戦…2年半もの空白の時間を越えるために | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】ハリルジャパン屈指のドリブラー、齋藤学の挑戦…2年半もの空白の時間を越えるために

オピニオン コラム
齋藤学 参考画像(2014年6月5日)
齋藤学 参考画像(2014年6月5日) 全 4 枚 拡大写真
最後に日の丸を背負ってプレーしてから、実に2年半近くもの空白期間が生じている。J1の舞台でもっとも切れ味鋭い攻撃力を搭載するドリブラーは、その間に26歳と中堅の域に達し、今シーズンはゴール数を初めてふた桁に到達させた。

ワールドカップ・ブラジル大会開幕を目前に控えた2014年6月6日。後半33分からピッチに立った、キャンプ地の米国タンパで行われたザンビア代表との国際親善試合で途切れたままのA代表における軌跡。2年後のロシア大会へ通じる夢の扉を再び開けるために必要な力と自信を、FW齋藤学(横浜F・マリノス)は手に入れている。

齋藤学 参考画像
(c) Getty Images

イラク代表とホームの埼玉スタジアムで、オーストラリア代表とは敵地メルボルンで対峙した10月のワールドカップ・アジア最終予選。宇佐美貴史(アウグスブルク)、武藤嘉紀(マインツ)の両FWが故障で辞退したことに伴い、齋藤はハリルジャパンに追加招集された。

もっとも、2試合を通じて最後までピッチに立つ機会を得られなかった。チームメートたちが必死に戦う姿を見ながら、いつ出番が訪れてもいいように準備を整えているときに、齋藤はある確信を抱いている。

「ああ、自分は成長したんだなと。そう感じましたね」

■試合への不安が気にならなくなった

記憶の糸をたどっていくと、背番号20ともに降り立った、2年前のブラジルの地に行き着く。コートジボワール、ギリシャ、そしてコロンビア代表とグループCを戦い、1勝もできないまま最下位で姿を消したアルベルト・ザッケローニ監督に率いられる日本代表で、出場時間が0分に終わった6人のなかに齋藤の名前も含まれていた。

齋藤に対する期待は小さくなかった。特にスコアレスドローに終わったギリシャ代表との第2戦。169センチ、68キロと小柄な齋藤が仕掛ける変幻自在なドリブルが、大柄なギリシャを逆に翻弄するのではないか、と。

「あのときは、特にギリシャ戦を控えた練習ですごく調子がよかった。出たらやってやるぞ、という思いでいたし、そうした姿勢はいまもずっと変わらないんですけど…」

2年半前の齋藤にあって、いま現在にはないもの。それは「不安」の二文字となる。もっといえば、A代表から遠ざかっていた歳月でコツコツと積み重ねてきたものが、心の片隅に巣食っていた「不安」を駆逐したことになる。

「自分がそこから変わったことと言ったら、試合に出ることへ対しての不安や怖さというものは、やっぱり途中から出る選手は特にもっていると思うんですけど。それがあまり気にならなくなったのかな。あのときはワールドカップということもあって、ゼロではないという感じで。多少は不安といったものがあったので。

それがイラク戦でもオーストラリア戦でも、いつ呼ばれもいいように準備しながら『ここで仕掛ければこうなる』と意識しながら試合を見ていられた。試合に出らなかったことは悔しかったし、メンタル的にもう一度回復させるのに時間はかかりましたけど、マリノスに戻ってしっかりとトレーニングを積んだことが、またここにつながっていると思う」

■「なかなかチャンスを得られないのは複雑」

今シーズンのJ1戦線で、ディフェンダー陣へもっとも脅威を与えたアタッカーは誰か。こんなアンケート調査が実施されたとしたら、かなりの高い確率で齋藤がベスト3に名前を連ねるだろう。

たとえるならボールが足に吸いつくような、滑らかでかつ小刻みにステップを踏むドリブルは、いったんスピードに乗ったらまさに手がつけられない。しかも、ただ単にドリブルでゴールに迫ってくるだけではない。

食い止めようと相手が体を寄せてくると見極めれば、スピードに乗ったまま、自らの周囲に生じたスペースを突いて味方に正確なパスを供給する。ドリブルとパス。ふたつの選択肢があるから、マークにつく相手も悩んで後手を踏み続ける。

だからこそ、今シーズンの齋藤は面白いように自身のゴールと味方へのアシストに絡んでいった。もっとも、キャリアハイをマークした数字がメンタルをひと皮むけさせたのではない、と齋藤は力を込める。

「去年くらいから栄養とかトレーニングとか、いろいろなことにチャレンジしてきた。その結果として体質なども変わったし、メンタル的なトレーニングも継続してきたので、いろいろなことがうまく形になってきているのかなと。ただ、それでもまだまだなので。もっと、もっといろいろなところでトライしていきたいと思っています」

日本代表を率いるバヒド・ハリルホジッチ監督の言葉も、成長するために刺激に変えた。たとえば、1‐1で引き分けた10月のオーストラリア戦。先発させた選手たちに疲れが見えながら、最初の交代カードを切ったのが後半37分と遅かった点を問われた指揮官は、具体的な選手をあげながらこんな言葉を残している。

「もしかしたら、もっとフレッシュな選手を入れるべきだったかもしれない。何人かの選手は確かに疲れていたが、齋藤や浅野(拓磨)だと経験がない分、プレッシャーに負ける不安があった」

指揮官が公式会見で発した言葉は、さまざまな媒体を介して伝わり、最終的には選手たちも見聞きすることになる。言うまでもなく齋藤も、自分に「経験」や「不安」といった言葉が向けられたことを知っている。

「なかなかチャンスを得られないのは複雑ですけど、やっぱり信頼を得られていないところが、出場するチャンスをもらえていないという事実につながっていると思うので。この場面で使っても大丈夫だと、監督に思ってもらえるようなプレーを出していかないといけない。信頼を得るためには、ここからじゃないですかね。

監督からはJリーグのこともなかなか評価されないけど、Jリーガーでもしっかりできるんだぞ、というところも見せたい。ただ、一度集まれば海外組も国内組も関係ないし、ベテランも若い子も関係ないと思っているので。しっかりコミュニケーションを取って、そのうえで自分のプレーをしていくことが大事なのかなと」

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ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のハリルホジッチ監督は、長くフランスでプレーしていた関係もあり、練習の指導や記者会見でフランス語を駆使する。そして、齋藤にはフランス語に対する「免疫」が備わっていた。

マリノスの指揮は、昨シーズンからフランス人のエリク・モンバエルツ監督が執っている。そして、ハリルホジッチ監督が好んで使う、フランス語で「決闘」を意味する『デュエル』は耳慣れていると屈託なく笑う。

「デュエル、デュエルとウチのフランス人もよく言うからね。慣れてはいるけど、そういう1対1の場面で自分は違いを作っていかないといけない。失敗することに対してネガティブに思う必要はまったくないし、しっかりと仕掛け続けていくなかで、一回そこで点を取っちゃえばいい。そう考えられるところも、自分のなかではちょっと変わったかな」

■監督を悩ませるきっかけになればいい

攻守両面で『デュエル』に徹し続け、4試合を終えたワールドカップ・アジア最終予選でハリルホジッチ監督の信頼を勝ち取った選手がいる。ひとつ年下のFW原口元気(ヘルタ・ベルリン)は、ドリブルを絶対的な武器とするアタッカーとして、原口が浦和レッズでプレーしていた当時から比較されてきた。

もっとも、ドリブルの「質」でふたりは対極に位置する。前述したように滑らかで小刻みなステップを踏み続ける齋藤に対して、原口はまるで斧で前方のスペースをぶち壊しながら、最短距離を進んでいくような力強さがある。

「(原口)元気には負けないぞ、と言わせたいんですよね」

茨城県内で行われてきたオマーン代表との国際親善試合(11日・カシマサッカースタジアム)、サウジアラビア代表とのワールドカップ・アジア最終予選第5戦(15日・埼玉スタジアム)へ向けた短期キャンプでのひとコマ。原口の名前を出されると、齋藤は悪戯っぽく笑いながらこんな言葉を紡いでいる。

「元気は素晴らしいですよ。イラク戦でもオーストラリア戦でも、元気のところで違いを作り出していた。ただ、元気も僕もタイプは一緒ではないし、一緒にピッチに立ってもやれると思う。ピッチに立ったら誰にも負けるつもりはないつもりでいるけど、元気とはすごくいいコミュニケーションも取れている。ドイツの話もいろいろ聞いているしね。

サウジアラビア戦は本当に大事な試合になるし、だからこそ一丸になって戦わないといけない。そのなかで、チームがワールドカップに行くために、自分に何ができるか。ブラジル大会のときは、自分はアジア最終予選というものに絡んでいなかったので。自分が出ることで、このチームにプラスアルファをもたらしたい」

不断の努力の積み重ねで「自信」の二文字を胸中に宿らせたからこそ、10月シリーズで出番なしに終わっても、再び右肩上がりの成長曲線を描くことができた。前を向き続ける齋藤の姿勢に、ハリルホジッチ監督も今月4日に行われたメンバー発表の席で賛辞を惜しまなかった。

「最近かなり活躍している。最後の突破やリズムの変化がかなり面白い。1対1で突破できる希な選手だと思う。(オマーン代表との)フレンドリーマッチで、もしかするとチャンスがあるかもしれない」

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故障者が出たことに伴う追加招集ではなく、今回は満を持して初日から招集された。2年半もの空白を埋めて、新たなステップを踏み出す瞬間へ。機は熟しつつあるなかで、齋藤は自身の思考回路をユニークに自己分析する。

「自分はこの(代表の)空気を吸いにきたわけじゃない。監督が考えるいろいろな戦術のなかで、いろいろな使われ方があると思うし、そこは特に何も考えずに。というか、どうこうしたいと自分からは言わないけど、何かひとつ(自分の起用法で)悩ませるきっかけになればいいかな。いま、うまい言い方したでしょう?

選ばれた以上は(ピッチで)何かをすることが自分の成長につながると思うし、我を通すことはすごく大事なこと。あとは協調性というか、どれだけ(我を通す思いを)落とすことができるか。それも大事になってくる。それでも僕は試合に出るべきだと思っているので、今年1年、やってきたことをここでもしっかりと出したい」

代表戦のピッチに立ちたいというエゴイズムと、チームの一員としての謙虚な立ち居振る舞いに徹し、波風を起こしたくないという思い。二律背反する感情を絶妙のバランスで同居させながら、交代枠が6つあるオマーンとの国際親善試合のキックオフを告げるホイッスルを、齋藤は必殺ドリブルの“刃”を研ぎながら静かに待っている。

《藤江直人》

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