新豊洲Brilliaランニングスタジアムの全天候型60m陸上トラックのすぐ隣には、佐藤選手の所属する競技用義足開発ラボラトリーの『Xiborg』(サイボーグ)が同施設内に工房を構える。館長を務めるのは元プロ陸上選手の為末大さんだ。
為末館長、Xiborgの義足エンジニア遠藤さんに続き、佐藤選手に施設に対する期待を聞いた。(聞き手はCYCLE編集部・五味渕秀行)
●【インタビュー】為末大、ランニング施設への想いと2020年に向けた課題
●【インタビュー】競技用義足エンジニアに聞く…障がい者はもっと速く走れるようになる
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新豊洲Brilliaランニングスタジアムで練習する佐藤圭太選手
---:佐藤選手にとって新しい練習場所になりますが、率直な感想を率直な感想を聞かせてください。
佐藤圭太選手(以下、敬称略):こういうものを作るよ、という話は聞いていたのですが、いざできるとなるとオオッ~って感じはしますね。
---:佐藤選手は中学生時代にユーイング肉腫で足を切断され、サッカーから陸上競技に転向したそうですが。
佐藤:足を切った後もサッカーや他のスポーツをやりたいと思ってまして、まずスポーツの基本は走ることかなと思ったので、リハビリのつもりで競技を始めました。16歳のときに始めたので9年目、もうすぐ10年目になりますね。
---:障がい者アスリートの方々の練習はどこですることが多いのでしょうか?
佐藤:基本的に僕たちのような義足の選手とか、一般の方と一緒に競技ができる場合ですと大学に入ったり、一般のクラブチームに入ったり。僕の場合も大学のなかで健常者と混じって、障がい者ということでやっているんですね。
---:他の国の選手との練習環境の違いはありますか?
佐藤:パラリンピック(に参加する選手の環境)は先進国とそうじゃない国の差がオリンピック以上に激しいと思うんですよね。ドイツやアメリカ、オーストラリアなど進んでいる国はナショナルトレーニングセンターとか、それこそ健常者と混ざって練習やっている方も多い。
東南アジアなどはどういう風に走ったらいいかわからないとか、そもそも器具がないとか差が激しいですね。日本も器具はそろっている国だと思うんですけど、ノウハウといいますか仕組みはまだまだなのかなと思います。恵まれてはいるんだけど、うまく使い切れてないのかなって感じ。
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リオデジャネイロパラリンピックに出場 参考画像
(c) Getty Images
---:海外はこういうトラックと研究所が併設の施設はあるのでしょうか?
佐藤:ないですね。僕の場合ですと義足の調整があるので、今までは一般の施設を利用して練習して、ここ調整したいねって話になったら、1回それを研究所に持ち帰って調整をして試して、付け替えて、練習という形なので、1カ月とか何週間もかかったりもしました。ここだったらすぐ調整できるので、いろんな面で素早くできるのかなと思います。
障がい者にとっても、今では障がい者だから利用がNGという施設は少なくなったけど、調整のための施設は初めてだと思うのでいいきっかけになる。これを機に他の所でも調整のために使える施設が出てくるのかな。
---:アスリート目線で、義足の進化は感じられますか?
佐藤:よくなってます。今までは、健常者として走っていたものをそのまま同じように走れるようになろう、似せようという感じではないですけど、とりあえず走れたらOKみたいな感じだった。(最近は)どちらかというともっと義足の反発を利用して走るというか、義足を使うことを考えて、少し特徴付けられているかなと思います。
スムーズに走れるよう、分けて作られている感じはしますね。今までは健常者の足に似せようという感じがあったんですけど、義足は義足、うまく利用するためにこういう形がいいよねとか、違う部分を強化したほうがいいよねとか。昔はどちらかというとリハビリ、社会復帰のために走るものがあったのかなと思います。
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リオデジャネイロパラリンピック陸上男子400mリレーで銅メダルを獲得 参考画像
(c) Getty Images
---:オリンピックとパラリンピック、どの辺りに違いを感じますか?
佐藤:パラリンピックのスポーツはリハビリから始める方が多いので、僕もそうだったんですけど。オリンピックだと(一般レベル層からトップレベル層までの)三角形がすごい大きいと思うんですよ。
でもパラリンピックは人(競技人口)が少ないので、三角形もすごく小さい。すぐ代表になれたりする。ある意味、アスリートではない場合もあるんですよ。昔は僕もそうだった。アスリートになりきれていない部分があった。そういう意味で気持ちも、意識も変えていかなければならないかなと思う。
---:障がい者スポーツの方が健常者スポーツより代表になりやすい?
佐藤:注目はされやすいですね。比べる人数も少ないので、例えば6チームしか出てないから、とりあえず出ていたら入賞。そういう場合もあったりする。ちょっといい結果を出せば優勝とか。そういう意味でパラアスリートではあるかもしれないけど、アスリートじゃない。
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---:2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されますね。
佐藤:東京が決まって、パラリンピックというものも知っていただいて、今まではパラリンピックは扱いづらいものだったんですけど、いろんな形でいろんな方の目に触れる機会が増えると思う。もうちょっと身近なものといいますか、そんなに特別なことじゃないんだなと思ってもらえれば。
今だったら驚かれるかもしれないですけど、(4年後は)街中を歩いていても義足の人や車いすの人がいようが、別にそれは普通で。車いすだから助けるとかじゃなく、困っているから助けるみたいな感じになってくれたらいい。
---:パラリンピックのメダルは音が鳴るんですよね。
佐藤:そうですね。オリンピックとはまた違うので、そういう工夫も必要なんだなって。メダルの色だけでも判別できるけど、目が見えない人もいることが音が鳴ることでわかることなので、そういう認識が頭の片隅に残れば。
---:4年後の目標に金メダルを掲げています。手応えはありますか?
佐藤:(リオデジャネイロで銅)メダルを獲ったんですけど、もっと自分でつかみとりたいという想いがありますし、それぐらいの目標を持っていかないと。まだまだやらなければいけないことはたくさんある。今手応えがあるかというと、まだないですけど。
●佐藤圭太(さとう けいた)
1991年7月26日生まれ、静岡県藤枝市出身。2012年ロンドンパラリンピック、2016年リオデジャネイロパラリンピック陸上日本代表。リオデジャネイロ大会では男子400mリレーで銅メダルを獲得。ポジション・クラスはT44。中学3年でユーイング肉腫を発病して右ヒザから下を切断した。中京大学職員を経て、2016年春にトヨタ自動車に入社。