【THE ATHLETE】侍ジャパンの投手起用問題、必要なのはクローザーよりジョーカーだ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】侍ジャパンの投手起用問題、必要なのはクローザーよりジョーカーだ

オピニオン コラム

リリーフで安定感を見せた千賀滉大
リリーフで安定感を見せた千賀滉大 全 6 枚 拡大写真
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次ラウンドB組みの試合が3月7日に行われ、侍ジャパンこと日本代表がキューバ代表に11-6で勝利した。スコアだけ見れば大勝だが、終盤に5点を返されたことで試合直後から不満の声が漏れている。

少なくない識者やファンが「2番手の則本昂大(楽天)を続投させて打たれるのは、プレミア12の失敗が教訓として生かされていない」と言う。確かに私も続投の判断には首を傾げたが、それはそれとして。問題はそのあと。勢いづくキューバ打線をストップできなかったことこそ根が深い。

日本は岡田俊哉(中日)、平野佳寿(オリックス)、秋吉亮(ヤクルト)を使う細かな継投。だが八回に平野が出したランナーを秋吉が還されてしまう。最終回は牧田和久(西武)がピンチを招きながらも無失点に抑えたが、終盤の継投に大きな不安を残した。

矢継ぎ早に投手を注ぎ込んだ采配に「ブルペンの役割を明確に。選手を混乱させる小久保采配に疑問」という批判があるのも理解できる。理解はできるが、それを言っても仕方ないと思うモヤモヤした気持ちが残る。

小久保裕紀監督が『クローザーの第一候補』に挙げていた秋吉を、八回途中の2アウトニ、三塁からマウンドに送ったことが批難されている。抑えが決まってないじゃないかと。そんなことで今後の継投をどうするのか。采配が場当たり的だと彼らは言う。

クローザーの第一候補と目された秋吉亮
(c) Getty Images

おそらく、こうしたことを主張する人たちの頭の中には「後ろを決めれば前が決まる」式の投手起用が前提としてあり、まず『クローザー』や『絶対的守護神』と呼ばれる存在を指名して、そこから役割を分担していけと言いたいのだろう。

だが、もし小久保監督や権藤博投手コーチがリリーフ陣の中で最も秋吉を信頼しているなら、この場面で彼をマウンドへ送ったことに大きな問題はない。

『クローザーの第一候補』と呼んでいた秋吉を八回途中に投げさせたことで役割分担が決まってないと批判する声が出るのは、野球を1イニング=3アウト単位で考えているのではないか。それもひとつの考え方ではあるが、短期決戦の国際大会ではもっと緻密に1アウト単位で考える必要がある。

■クローザーという役割に囚われるべきではない

最終回に登板して最後のアウト3つを取る投手。試合を締めくくるスペシャリストを野球ではクローザーと呼ぶ。日本でも当たり前に用いられるようになった概念だが、近年この役割やセーブの価値が過大評価されているとアメリカでは見直しの流れが生まれている。

たとえば2013年の2月に米国の野球ライター、ヨナ・ケリーは『野球の最悪な契約15選』と題して、2012年シーズンにフィラデルフィア・フィリーズのクローザーを務めたジョナサン・パペルボンを”選外佳作”に挙げている。

このシーズンにパベルボンは防御率2.44、5勝6敗、38セーブの成績を残した。ケリーはパベルボンの投手としての能力ではなく、クローザーという役割やそれに固執したチャーリー・マニエル監督の采配を批判している。

クローザーは本当にチームが必要としている厳しい場面では登場せず、最終回の綺麗にならされたマウンドに登りアウト3つ取って帰ってくるが、果たしてこれは本当に守るべき絶対の約束なのか。ケリーはマニエル監督がパベルボンを出し惜しみしたため、このシーズンだけで7試合は落としたと書く。そしてパベルボンを選外佳作に挙げたのは、「フィリーズが彼をトレードしてくれれば、誰かがもっとうまく使ってくれるかもしれない」からだと説いた。

別な例を挙げてみよう。スポーツ専門局『ESPN』のウォレス・マシューズは、2010年のアメリカン・リーグ優勝決定シリーズでニューヨーク・ヤンキースのジョー・ジラルディ監督が見せた、マリアノ・リベラの使い方に疑問を呈した。

王手をかけられて臨んだ第6戦。ヤンキースは初回に1点を先制されるが五回表に追いつく。しかし、五回裏に先発のフィル・ヒューズがつかまって再び勝ち越しを許し、迎えるバッターはネルソン・クルーズ。

ここでジラルディ監督が救援に送ったのは、第3戦でめった打ちに遭ったデービッド・ロバートソンだった。ようやく追いついたのに勝ち越しを許した。なんとか追加点は与えず、残りのイニングで反撃をという場面である。ヤンキースのブルペンには、この時点で通算500セーブを達成していたリベラがいたにも関わらず、ジラルディ監督は短期決戦でリリーフエースを温存したのである。

結果としてロバートソンはクルーズに2ランを打たれた。ジラルディ監督がリベラをマウンドに送ったのは、5点ビハインドを背負ったあとの最終回。勝負に何の関係もない場面で切り札を切ってきた。

長年リリーフエースとして君臨したリベラ
(c) Getty Images

また、セントルイス・カージナルスなどを率いたトニー・ラルーサ監督は過去のインタビューで、「エック(デニス・エカーズリー)が1イニングのスペシャリストになったのは、あまり理解されていない複数の理由がある。第一には、当時のカージナルスは本当に良いチームだったため、毎週リードを保って勝利する展開が多くなるのが分かっていたことだ」と語っている。

そして、もしあなたのチームがこの条件に当てはまらないなら、クローザーが宝の持ち腐れになる問題があるとも話した。

一方でラルーサ監督は、「試合の最後に投げる投手が決まっていることで、そのほかの役割も決まる。確かに七回や八回で勝ち星が逃げることもあるが、最終回のアウト3つを取るのは最も大変だ。そのプレッシャーをコントロールできる選手は重要だよ」とスペシャリストの存在を擁護している。

近年ではもっと踏み込み、クローザーが年間に挙げる30数セーブのうち、本当に落とせない天王山は数えるほどしかない、たいていは落としても「残念だった。また明日」で済む試合だとも言われている。セーブの価値に懐疑的な目を向け、クローザーは手厚く保護されているとの意見だが、今回はクローザー論ではないし、この役割の是非を論じたいわけでもないので割愛する。

問い直したいのは、長いシーズンを想定した『勝利の方程式』や『ブルペンの役割』なる考えを、短期決戦にまで持ち込むのは戦術の硬直化を招きはしないかということだ。

■一番良い投手は、一番危険な場面で投げさせる

こうしたことを考えていくとき真っ先に思い浮かんだのは、クリーブランド・インディアンスのセットアッパー、アンドリュー・ミラーの存在だ。2016年シーズンの途中にヤンキースからインディアンスへトレードされた左腕は、アメリカン・リーグ優勝決定シリーズで最高の仕事をやり遂げる。

第1戦でインディアンスのテリー・フランコーナ監督は、七回途中の1アウト走者なしからミラーをマウンドに送る。六回裏にフランシスコ・リンドーアの2ランで先制し、絶対にリードを守りきりたい場面。ミラーはアウト5つすべて三振で奪い、トロント・ブルージェイズを意気消沈させた。

第3戦では八回途中から登板して1回1/3を投げ、被安打1、奪三振3でセーブを挙げたミラー。王手をかけて臨んだ第5戦では六回途中に早々とマウンドへ上がる。3点リードしているがブルージェイズの強力打線が目覚めれば分からない場面。ミラーは1アウト一塁から、レギュラーシーズン37本塁打のジョシュ・ドナルドソンを併殺に打ち取りピンチ脱出。

この試合では2回2/3を無失点に抑えインディアンスの勝利に貢献するとともに、シリーズMVPも獲得している。

シカゴ・カブスとのワールドシリーズでもフランコーナ監督はミラーをフル回転させる。1勝1敗で迎えた第3戦では五回途中、2アウト二塁から登板して無失点で切り抜けると、六回には三者連続三振で味方を鼓舞した。インディアンスは七回にココ・クリスプのタイムリーで勝ち越し1-0で勝利。

ワールドシリーズはカブスの勝利で幕を閉じたが、どんな場面でも行けと言われれば出ていって、圧倒的な力を見せつけるミラーの存在感は際立っていた。

フランコーナ監督の考え方は明確だった。短期決戦では一番落とせない場面、絶対に点を与えたくないシチュエーションで戦力を出し惜しみせず、最も信頼できる最高の投手を投げさせる。

そして勝負のポイントは必ずしも試合の終盤にやってくるとは限らない。流れを読み違えることなく、常に最適なタイミングを探す。それに応えられる選手がいてこその起用法であることは大前提だ。

■日本のジョーカー・千賀滉大の可能性

今回のWBCではイスラエル戦で韓国が見せた、八回2アウト満塁からオ・スンファン登板が国際大会を勝ち抜く上で必要な采配、選手の資質だと私は感じた。前にボールを飛ばされれば何が起こるか分からない場面で注文通りの三振。九回も無失点に抑えて味方打線の奮起を待った。

ピンチを切り抜けたオ・スンファン
(c) Getty Images

結果的には負けてしまったが、あれをできる投手が日本にも必要だ。私はインディアンスのミラー、韓国のオ・スンファンのようなジョーカー的役割に千賀滉大(ソフトバンク)を推したい。相応の賭けにはなるが。

千賀には第2先発などで少し長いイニングを期待する向きもあるかもしれない。だが、私は勝敗に直結するピンチを絶対に抑えてくれるなら打者ひとり、たとえ1球しか投げなかったとしても計り知れない価値があると思う。

権藤投手コーチは「一番良い投手をクローザーに」が持論だ。それで横浜ベイスターズを日本一に押し上げたのだから私ごときが何をか言わんやであるが、国際大会では一番良い投手は最後のアウト3つではなく、勝負所のアウトひとつを絶対に取るポジションに置いてもらいたい。

千賀滉大にジョーカーとしての役割を期待
(c) Getty Images

国際大会では早い回にリードを奪われれば、そこから先は各球団のリリーフエース級が次々に出て来るため、追いつくのが至難の業。打線は相手より1点でも多く取り、投手陣は追いつかれないように粘る。そしてセットアッパーやクローザーとは違う、明確な役割を持たないことが役割のフレキシブルな位置に相手打線の心を折れる最高の投手。

これが国際大会仕様の野球ではないだろうか。

冒頭のキューバ戦に戻ろう。日本は七回2アウト一塁から則本を諦め、岡田をマウンドに送った。岡田はきっちり仕事をこなしたが、イニングが変わると八回のマウンドには平野が上がる。

ここでもし絶対的な投手がいるのなら、私は七回2アウトから1回1/3を投げさせて良かったと思う。そこをピシャリと抑えて、盛り上がる相手ベンチに冷水ぶっかけるのは今後また対戦する可能性を想定してもありだったはずだ。

それができないから、キューバが打ち出すと慌ててマシンガン継投に入ってしまったのではないか。

相手打線の勢いをストップする投手と、最終回を抑える投手。どちらも用意できるならそれに越したことはないが、片一方しか選べないなら私はストッパーに最高の投手を持ってくるべきだと考える。

《岩藤健》

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