この日、会場には、前回同戦で対戦した清水市代女流六段や、外国人初の女流棋士でポーランド人のカロリーナ・ステチェンスカ女流二級らが駆けつけ、その栄誉をたたえた。あでやかな和服姿で登場した里見女流名人は、祝賀パーティで静かにこう伝えていた。
「闘ってる最中も終わったあとも、いろいろな言葉をもらった。2連敗したときは、このような経験はないと思ったので、どれだけ自分の力が出し切れるのか。とにかく、盤に集中することができた。最終局は正直、終わったあと疲れた。すごく充実した疲れというか、シリーズ全体を通していい経験になった。これからも充実した日々を過ごせるように。少しでも将棋が強くなれるように努力したい。この一年は、わたしにとってすごく大きな一年になると思う。日々を無駄にせず、がんばっていくことを、ここでお約束したい」
就位式では冒頭、日本将棋連盟 佐藤康光会長が里見女流名人と、彼女と対戦し初戦・二戦と勝利をおさめた上田初美女流三段の闘いを振り返った。
「第1局は上田さんの指しまわりがすばらしかった。2局は里見さんの地元、出雲市で開催され、上田さんがアウェーながらも勝ち抜いて、王手をかけた。ただ、対局後の盤上以外のことも話題となった、豪雪のなか、上田さんがなかなか東京へ戻れず、丸一日、出雲で立ち往生し、もう一泊して帰った。スポーツ紙の見出しには『46時間ぶりに帰宅』といった文字も踊った」
「里見さんは非常に厳しい状況で巻き返した。千葉県野田市(関根名人記念館)での3局、岡山県真庭市(湯原国際観光ホテル)の4局と2連勝して、タイに持ち越した。これで二勝二敗となり、第5局は東京の将棋会館で行われたが、どちらが勝ってもおかしくないという闘いだった。手数も110手が平均のところを、202手と歴史的にも多く、二人で倍を指したことに。そして最後の最後に、里見さんが最後の力を振り絞って勝ち抜いた」
佐藤会長は、里見女流名人と上田女流三段の棋戦タイプの違いと、五番勝負の分かれ目についても見解を述べた。
「里見さんと上田さん、二人とも終盤が強いという印象。どちらも質の違う部分があって、里見さんは論理的という印象。目立たないけど着実にミスをせずに追い詰めていくというタイプ。上田さんは、パンチ力があるというか、勢いを持ち合わせながら、終盤を乗り切っていくという感じ。3局め以降は、里見さんの良さが出たと思う。第5局はどちらが勝ってもおかしくないすばらしい戦いだった。今回の五番勝負はすばらしかった」
また、岡田美術館(ユニバーサルエンターテインメント) の小林忠館長は、「勝負師としての厳しい立会を目の当たりにした。相撲でいえば、土俵際まで追い詰められながら、より戻していくという感じ。そんな立会の激しさを、将棋の対局の世界でも見えるんだと実感した」と二人の熱闘をたたえた。
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