【THE REAL】横浜F・マリノスの新エース、齋藤学を高ぶらせた特別な夜…憧れの中村俊輔との初対決 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】横浜F・マリノスの新エース、齋藤学を高ぶらせた特別な夜…憧れの中村俊輔との初対決

オピニオン コラム
齋藤学 参考画像
齋藤学 参考画像 全 6 枚 拡大写真
■ジュビロ戦のハーフタイムに覚えた頭痛

何度も原因を思い巡らせてみた。それでも、まったく見当がつかない。日産スタジアムのピッチからロッカールームへ引き揚げる横浜F・マリノスのキャプテン、MF齋藤学は突然の頭痛に襲われていた。

「前半が終わったときに、めちゃくちゃ痛かったけど…何でだろうね」

おそらくはスタジアム全体を支配していた、特異な雰囲気が影響していたのかもしれない。ホームにジュビロ磐田を迎えた8日のJ1第6節は、スケジュールが発表された1月下旬から大きな注目を集めていた。

サックスブルーの「10番」を背負っているのは、昨シーズンまで延べ13年にわたってマリノスに在籍し、黄金の左足から放たれる正確無比なキックで一時代を築きあげた38歳のMF中村俊輔だった。

俊輔は年明け早々に、断腸の思いで移籍を決断していた。マリノスの株式を取得したイギリスのシティ・フットボール・グループ(CFG)の影響力が強まるごとに、募らせてきたストレスが原因だった。

経営面だけでなく、世代交代を含めたチーム編成、スタッフの処遇などにも及ぶ問題で、俊輔はキャプテンとして何度もフロントと話し合いの場をもった。それでも平行線をたどると、こんな言葉を残している。

「もう一度純粋にサッカーがしたかった」

果たして、俊輔は日本代表で「10番」を背負った先輩、名波浩監督に率いられるジュビロのラブコールを受け入れた。チームを象徴するレジェンドの移籍が、大きな騒動を招いたのはまだ記憶に新しい。

そして、俊輔の移籍とともに空いたままとなっていた「10番」を、キャプテン就任を打診された交渉の席で自ら強く希望。昨シーズンまで5年間背負った「11番」から変えたのが齋藤だった。

マリノスの10番を長年背負った中村俊輔
(c) Getty Images

海外移籍を模索したため、再契約は2月にずれ込んだ。一時は練習生としてキャンプに参加したからこそ、小学生からひと筋で育ってきたマリノスへの愛、そして前任者へ抱く畏敬の念を確認できたのだろう。

■憧れ続けた俊輔から浴びせられた怒声

迎えた今シーズン。齋藤は無双の存在感を放ってきた。左タッチラインから得意の高速ドリブルを何度も仕掛け、相手が間合いを詰めればスピードでかわし、距離を空ければパスを通す。

昨シーズンの年間勝ち点1位・浦和レッズは、2月25日の開幕戦でマリノスに逆転負けを喫している。2つのアシストを決めた齋藤へ、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は会見で思わず白旗をあげた。

「マリノスに負けたというより齋藤学選手に負けました」

そして、ジュビロ戦が近づいてきた。キャプテンとして「マリノスとジュビロの試合です」と、努めて個人的な感情を封印してきた。しかし、ジュビロ戦の直後には偽らざる本音をもらしている。

「気にしないわけがないから。僕はずっと俊さん(俊輔)の背中を見て育ってきたし、そういう選手と試合をするのは本当に不思議な感覚でした。でも、セカンドボールを拾う位置や守備のゾーンもそうだけど、相手にしたらすごく嫌な選手なので、試合になったら関係ないと思っていた」

自らのアシストであげた1点をリードして迎えた前半30分。卓越したボールキープ術を誇る俊輔から、ボールを奪えると一瞬思った。センターサークル内で死角から忍び寄るも、やはり隙を見せてくれない。

「すごくいいボールのもち方をされたので、ちょっとボールを突っつこうと思ったら、アキレス腱のあたりにグッと入っちゃって。俊さんがすごく怒っていたので、すぐに謝りました。すみませんって」

憧れの中村俊輔の背中を追い続けた
(c) Getty Images

勢いあまってファウルを犯し、ピッチに転がされた俊輔からにらまれ、怒声も浴びせられた。相手が齋藤だとわかると苦笑いと「やれやれ」という表情を浮かべながら、すぐにプレーを再開させる。

おそらくは2人だけが感じる、特別な空気が漂っていたのだろう。キャプテンと俊輔に憧れる後輩。二律背反する立場で戦い続けたことで思考回路がややパンク気味になり、頭痛の種になったのかもしれない。

■自ら音頭を取って開催した選手ミーティング

俊輔だけでなく、MF兵藤慎剛(北海道コンサドーレ札幌)、DF小林祐三(サガン鳥栖)、GK榎本哲也(浦和レッズ)ら、長くチームを支えてきた30代のベテランが去ったマリノスは一気に若返った。

若さは爆発的な勢いを生み出す一方で、逆風にさらされたときに顔をのぞかせる脆さの原因にもなる。2戦連続の3ゴールで開幕連勝の船出を飾ったマリノスは、一転して3試合連続で白星から見離される。

特に敵地キンチョウスタジアムに乗り込んだ1日のセレッソ大阪戦では、攻守ともに精彩を欠いて0‐2で完敗。危機感を覚えた齋藤は、選手だけのミーティングを開催しようと呼びかけた。

「みんなで一度意識を共有したいと思って。セレッソ戦後のオフの間、ずっとミーティングで何を言うか考えていた。中身は秘密だけど、いい話し合いができたからこそ練習におけるみんなの姿勢が変わったし、セレッソ戦を見た人は『あれ、マリノスは全然違う』と思ったはずなので」

前後の話を総合すると、おそらく齋藤は「戦う姿勢」を若い選手たちに説いたのだろう。かつて齋藤自身が松田直樹さん(故人)や河合竜二(コンサドーレ)、そして俊輔の背中から学んだものでもあった。

「いまの若い子たちはそういうものを知らないので、僕らが見せていかないと。勝てていないときに何を感じるかが、僕はすごく大事だと思っている。勝てないから選手ミーティングをすればいいというわけじゃないけど、それでも戦う姿勢や球際の部分といったものを変えていかないと」

キャプテンの檄に発奮したのか。ジュビロ戦では25歳の天野純、22歳の喜田拓也のボランチコンビが何度も俊輔に1対1を挑み、ボールを奪い取った。そのたびに齋藤は心を震わせている。

「彼らが去年、俊さんにボコボコ抜かれているのを僕は見ているし、だからこそ『ああ、成長したな』と思いました。僕たちに対して、俊さんが何らかの変化を感じてくれたらすごく嬉しい」

勝てない時こそが重要と説く
(c) Getty Images


■リュックサックのなかに大事にしまわれた宝物

注目の一戦は前半34分にジュビロが追いつく。俊輔が蹴った左コーナーキックのこぼれ球を、キャプテンのDF大井健太郎がペナルティーエリアの外側から豪快に蹴り込んだ。

その後に続いた1対1の均衡に決着をつけたのは齋藤だった。後半28分。こぼれ球を拾うと、ゴール前にいた横浜F・マリノスユースのひとつ先輩、DF金井貢史へ絶妙の縦パスを通して決勝点をアシストした。

自らが放ったシュートは1本だけ。今シーズンは5アシストをあげる一方で無得点が続き、試合後には「点を取りたかったし、もっと仕掛けたかった」と反省したが、それを補ってあまりある喜びがあった。

「僕のアシストよりも、一人ひとりが走り切って、球際を含めて最後まで戦う姿勢を失わなかったことのほうが嬉しい。キャプテンになった自覚がないわけじゃないけど、それよりも僕はどのようにしたらチームが強くなるのかを考えて、いつも行動しているだけなので」

敵味方として初めて対峙した俊輔は、可愛がってきた後輩の内なる変化を感じていた。試合後には「あまり敵には見えないけど」と苦笑いしながら、こんな言葉で称賛することも忘れなかった。

「一番はメンタル面。人として成長するとプレーだって落ち着く。去年の途中くらいからよくなった」

昨シーズンの途中はちょうど俊輔の故障が続き、ピッチから遠ざかった時期でもあった。年齢的にもマリノスを支える自覚が芽生えたところへ、俊輔の移籍が触媒となって、メンタルが加速的に成長したのだろう。

試合後の取材エリアに、齋藤は黒いリュックサックを背負って現れた。ジュビロ戦の4日前に迎えた27回目の誕生日のプレゼントとして、後輩たちから贈られたものだ。

「負けたらもうつけられないと思っていたけど、勝ったからまたこれをつけていきます」

あどけない笑顔を向けたリュックサックのなかには、試合後に俊輔にリクエストして交換で手にした宝物、ジュビロの「10番」のユニフォームが大事にしまわれていた。

《藤江直人》

≪関連記事≫
≫貴重な水着ショットも披露!「もはや高校生には見えない」大人っぽい池江璃花子、沖縄・石垣島の海を満喫

≫ケンブリッジ飛鳥と滝沢カレンが似てる?リオ五輪時から密かに話題だった

≫レアル所属・中井卓大ってどんな選手?…「リアルキャプテン翼」と呼ばれた少年時代

関連ニュース