【THE REAL】誰からも愛される男・鄭大世の熱き魂…清水エスパルスを真の強豪へ導くための咆哮 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】誰からも愛される男・鄭大世の熱き魂…清水エスパルスを真の強豪へ導くための咆哮

オピニオン コラム
鄭大世 参考画像(2012年2月5日)
鄭大世 参考画像(2012年2月5日) 全 4 枚 拡大写真
■相棒のJ1通算20000ゴールをアシスト

体に力が入らない。頭もクラクラする。奇跡の同点ゴールが決まった瞬間、チームメイトと喜びを分ち合おうとした清水エスパルスのキャプテン、鄭大世(チョン・テセ)は相手ゴール前で座り込んでしまった。

「もう放心状態でしたし、ちょっと脱水気味でもあったので。引き分けたという実感がない。いまでも負けたと思っていますから。こんなにも守備で走って、こんなにも疲れた試合は人生で初めてですよ」

プロとして第一歩を踏み出した古巣・川崎フロンターレのホーム、等々力陸上競技場に乗り込んだ21日のJ1第8節。1点をリードされたまま、4分間の後半アディショナルタイムも終わろうとしていた。

絶対にあきらめたくはない。でも、もう時間がない。万策尽きたか、と観念しかけた直後に途中出場していた新外国人、FWチアゴ・アウベスが右サイドをトップスピードで抜け出していく。

敵陣深くまでボールを運んだ直後に、背番号8は左へ急旋回。ペナルティーエリア内へ侵入するや、角度のないところから半ば強引に左足を振り抜く。次の瞬間、強烈な弾道がゴール右隅に突き刺さった。

ゴールを告げた西村雄一主審が、直後に試合終了を告げるホイッスルをも夜空に響かせる。あまりにもドラマチックな幕切れ。ニアサイドに詰めていた鄭大世は、脱力感に全身を襲われていた。

もっとも、その後に水分をたっぷり補給したからか。取材エリアに姿を現した33歳の元北朝鮮代表ストライカーは、いつものようにウイットに富んだ言葉で周囲を笑わせる、誰からも愛される男に戻っていた。

「オレが20000ゴールを取りたかったんですけどね。でも、取りたいと思う試合ほどダメなんです。そういうの、いままで一度も取れたことがない。もう笑っちゃいましたよ」

この試合で最も早く決まったゴールが、J1通算20000ゴール目となる可能性があった。果たして、開始14分にメモリアル弾を決めたのは相棒の金子翔太。アシストしたのは鄭大世だった。

■自己中心的な男がキャプテンを担う理由

朝鮮大学校からフロンターレ、ブンデスリーガのボーフムとケルン、韓国Kリーグの水原三星ブルーウィングス、そしてエスパルスと渡り歩いてきたサッカー人生で、いい意味で胸を張れることがある。

「人よりも100倍、いや10000万倍くらいエゴイスティックなプレーをしてきた」

ストライカーは自己中心的な性格のほうが向いている、とよく言われる。北朝鮮代表として2010年のワールドカップ・南アフリカ大会の舞台にも立った男は、しかし、30歳を超えて内側から変わっていった。

2010年W杯の舞台にも立った
(c) Getty Images

勝利のためなら自己犠牲をまったく厭わない、フォア・ザ・チームの精神がいまでは力強く脈打つ。心身ともに疲弊し切ったフロンターレ戦の終了直後の姿は、鄭大世の魂を象徴していた。

それでいて、フロンターレ時代から熱い。涙にももろい。義理人情にも厚い。1年でのJ1復帰を決めた、昨年11月20日の徳島ヴォルティスとのJ2最終節。敵地のピッチで人目をはばからずに号泣した。

最終節までの1週間、毎晩のようにヴォルティスと戦う夢を見た。決戦前夜は完封負けを喫していた。計り知れないほど重い十字架を背負ってきたのだろう。プレッシャーから解放された瞬間に、涙腺も決壊した。

喜怒哀楽を隠さない立ち居振る舞いに、周囲は引きつけられる。頼れる背中に引っ張られたチームは、戦う集団へと変わる。いざ、J1へ。これまで無縁だったキャプテンを拝命したのは、自然の流れでもあった。

「引き分けたことはすごく大事。勝負事でこういう試合を落とせば自信もなくすし、次にもつながらない。勝ち試合を落とすチームは下にいくし、負け試合を引き分けるチームは上にいく。2戦連続で負け試合をしていることは不甲斐ないけど、追いつくのもまた力だと思ってポジティブにとらえたい」

21歳の金子をはじめ、20代前半の若手が5人も先発に名前を連ねるエスパルスが変わりつつある。確かなる手応えを感じているからこそ、フロンターレ戦後には“テセ節”も全開となった。

ピッチの上では誰よりも熱く、涙もろい…ボーフム在籍時代
(c) Getty Images


■クラブ初のJ2を戦いながら築きあげた土台

かつてホームとして慣れ親しんだ等々力陸上競技場は、日本復帰を果たした場所でもあった。2015年7月25日。エスパルスの一員として初先発。フル出場するも、フロンターレに逆転負けを喫した。

移籍交渉をしながら外から見ている段階で、チームがバラバラになりかけているとわかった。実際にピッチに立っても、負の連鎖を食い止められない。クラブ史上初のJ2降格を必然と受け止め、再建を誓った。

「自分たちの個の力では、J1勢を相手に勝てないとわかっている。だからJ2を戦いながら組織の部分を固めて、しっかりとした土台を作ってJ1に上がってきた。1対1の状況で完全に突破できる選手も、相手を圧倒できる選手も、自分たちにはいない。そこはちゃんと足元が見えている」

開幕直後の低空飛行から右肩上がりの軌跡に転じ、夏場すぎからさらに加速。最後は怒涛の9連勝で終え、自動昇格となる2位に食い込んだ過程で、実は小さくない不安を抱えていた。

「昨シーズンは戦いながら『これがJ1なら守り切れないぞ』と、みんなが心のなかでまるで呪文のように唱えていたんですけど…実際にJ1の舞台で組織として守ってみたら『あれっ、何だかすごくいけるぞ』という試合がたくさんあって、すごく自信がついているというか。

オレらフォワードも、相手のボランチのところまでちゃんと下がって守備をする。そうなると、J1でもなかなか崩せないですね。ドリブルで突破してくるような、個の力で打開できるチームはなかなかない。一方でウチは守れるうえに、みんなでボールを回せるという強みがあるので」

開幕戦こそヴィッセル神戸に惜敗したが、続くサンフレッチェ広島、アルビレックス新潟にともに完封で連勝。手探り状態だったJ1での戦い方に、揺るぎないバックボーンが生まれた。

柏レイソルのホームに乗り込んだ第6節でも完封勝ち。8試合を終えて3勝2分け3敗と11位に食らいついている過程で、鄭大世は得点ランク4位タイの4ゴールをあげている。

水原三星ブルーウィングス在籍時代
(c) Getty Images


■ホーム初白星をさらなる飛躍へのきっかけに

面白い傾向がある。ここまでアウェイで3勝1分け1敗の星を残しながら、ホームのIAIスタジアム日本平では3試合を戦って白星がない。実は昨シーズンも、ホーム初勝利をあげたのは6試合目だった。

しかも愛媛FC、松本山雅FCと引き分け、北海道コンサドーレ札幌とセレッソ大阪に負けた最初の4試合はすべて無得点。究極の“外弁慶”ぶりに、鄭大世も苦笑いを隠せない。

「なぜかホームだと硬くなるんですよ。アウェイのときは『相手をゼロで抑えればいい』という約束事があるんですけど、ホームだとある程度前にいこうというか、攻めていこうとなるので」

日本有数のサッカーどころ、静岡県清水市(現静岡市清水区)に母体となるチームをもつことなく産声をあげたエスパルスは、攻撃的なサッカーを望むファンやサポーターの大声援に後押しされてきた。

スタンドの熱に応えようと必要以上に前がかりになり、攻守のバランスを崩す場面も決して少なくなかった。その結果として勝てないのは真の実力がないからだと、鄭大世は自戒を込めて振り返る。

「大声援はすごく力になるし、ファンやサポーターの皆さんには感謝している。ホームのほうがいいサッカーができるし、ボールもより回せて、チャンスも作れる。それなのに結果を出せなくて」

前節も未勝利で最下位の大宮アルディージャに開始早々に先制され、その後も攻めあぐねる。今シーズンから「10番」を背負う23歳のMF白崎凌平が、終了間際にゴールを決めて何とか引き分けた。

「引き分けを勝ち試合にできるチームは、もっと上にいける。オレはとにかく残留したいと思ってきたし、チームはひと桁順位を目標にしてきたけど、もうちょっと上にいけそうな感じもする。そろそろホームで勝ちたいよね」

30日の次節は4戦勝ちなしで、その間に16失点を喫しているベガルタ仙台をホームに迎える。地元と一体となって勝ちどきをあげる瞬間が、さらに高いステージへ駆けあがるきっかけになる。

《藤江直人》

≪関連記事≫
≫貴重な水着ショットも披露!「もはや高校生には見えない」大人っぽい池江璃花子、沖縄・石垣島の海を満喫

≫ケンブリッジ飛鳥と滝沢カレンが似てる?リオ五輪時から密かに話題だった

≫レアル所属・中井卓大ってどんな選手?…「リアルキャプテン翼」と呼ばれた少年時代

関連ニュース