5月6日に予選、7日に準決勝・決勝が行われたボルダリングW杯八王子大会。会場となったエスフォルタアリーナ八王子(八王子市総合体育館)に予選は1917名、準決勝・決勝は2340名が足を運んだ。7日は1600枚の前売り券が完売し、埼玉県加須市で行われた2016年大会の有料入場者数(二日間合計で1220名)をはるかに上回った。
八王子大会は世界各国から男子は85名、女子は54名が予選に参加し、上位各20名が準決勝に進んだ。日本勢は男子が8名、女子が4名が残り、各6名で争われる決勝にも男子3名、女子2名を送り込んだ。
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準決勝は日本代表が立て続けに登場
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誰に注目するか迷うほど…
男子はアレクセイ・ルブツォフ(ロシア)、女子はヤンヤ・ガルンブレット(スロベニア)が優勝。男子2位に楢崎智亜(ともあ、栃木県連盟)、3位に渡部桂太(三重県連盟)、女子2位に野口啓代(あきよ、茨城県連盟)、3位に野中生萌(みほう、東京都連盟)が入り、表彰台に日本代表4名が立ったことで会場は沸いた。
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左から野中生萌、野口啓代、楢崎智亜、渡部桂太
僅差で優勝者にはおよばなかったが、ボルダリング日本代表の安井博志ヘッドコーチは、「チーム全体がいい状態」と喜びを隠さない。特定の選手が突出して強いわけではなく、大会ごとに異なる選手が決勝に残る選手層の厚さについても言及する。
今シーズンは開幕戦のスイス・マイリンゲン大会以降、各大会で日本代表は数名が決勝に残り、マイリンゲン大会で藤井快(こころ、東京都連盟)が優勝、八王子大会の1週前に開催された第3戦の中国・南京大会では渡部が勝利を挙げた。
八王子大会終了時点でボルダリングW杯個人ランキングは渡部がトップを守り、国別ランキングでは日本が2位スロベニアに大差をつけて独走中だ。
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決勝の課題に挑む渡部桂太
安井ヘッドコーチはチームの躍進について「気持ちの問題が大きい」と説明する。
「もともと日本人はテクニックが素晴らしいと言われてきたが、それに加えてフィジカルトレーニングを海外選手に負けないようにやっている。海外試合で萎縮する選手も多いが、それを補うために2008年から毎年海外合宿を行ってきた。地道な活動が海外でも緊張しないで戦えるメンタルを育て、それがようやく形になってきたと思う」
日本代表チームはユース世代から積極的に海外へ連れて行くことで、20代前半で最高のパフォーマンスを発揮することにつなげた。
個々が壁と向き合い、登った課題の数を競うボルダリングでは、メンタルの揺れが成績にも直結することは選手たちも自覚している。八王子大会で準決勝に進んだ女子の小武芽生(めい、東京都連盟)もそのひとりだ。
最初の課題でつまづいてしまい、それが後を引き、続く課題でも振るわなかった。「1課題目が時間ギリギリで登れなかったことで、それを引きずってしまった。普段できるようなこともできなくなってしまった」と反省する。
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準決勝の課題を登る小武芽生
日本代表キャプテンの杉本怜(れい、東京都連盟)も準決勝第1課題で手こずり、「メンタル的に落ち着いてできなかった」と決勝進出を逃したことを悔やんでいた。小武、杉本ともに南京大会ではファイナリストになった実力者だが、今回は力を発揮しきれなかった。
自身の結果も踏まえて杉本は、日本代表がより強くなるためにはメンタルの強化が欠かせないとする。
「技術的にはどの選手も世界トップに近いものを持っている。そこからひとつ抜けるにはメンタルの部分が重要になるのではないかと思う。ひとつのきっかけで化ける選手はたくさんいる」
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準決勝の課題を登る杉本怜
また、昨年のボルダリングW杯総合優勝を楢崎が成し遂げ、次いで総合2位に藤井が入ったことにも触れ、「ふたりが(世界のトップに)到達してくれたことで、メンタル的にも日本人はもっといけるんじゃないかと気持ちが高まってきた。ふたりの功績は大きい」と今年の日本代表の強さにつながっていると続けた。
ボルダリングW杯の次戦は6月に米国コロラド州のベイルで開催される。7月になると12m以上の壁を命綱を着けて登る「リード」のW杯も始まる。約1カ月の休息を得て、日本代表勢は再び世界の壁に挑む。
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ボルダリングW杯八王子大会に出場した日本代表チーム
東京五輪で行うスポーツクライミングは、ボルダリング、リードに加え、2名の選手が同時に壁を登って速さを競う「スピード」の3種目で争われる。日本代表はスピードに関しては欧米から遅れをとっているが、4月にスピード専用施設が東京・昭島に完成した。2020年へ向けて今後ますますスポーツクライミングに注目が集まる。