クライミング日本代表・小武芽生、小柄な体を活かして壁に挑む | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

クライミング日本代表・小武芽生、小柄な体を活かして壁に挑む

オピニオン ボイス

ボルダリングW杯八王子大会に出場した小武芽生(2017年5月7日)
ボルダリングW杯八王子大会に出場した小武芽生(2017年5月7日) 全 10 枚 拡大写真
発達した広背筋を滑らかに動かし、ホールドと呼ばれる突起物を頼りにスルスルと壁を登りだす。彼女は『スポーツクライミング』の日本代表選手だ。

ワールドカップ(W杯)で世界を転戦する小武芽生(めい)は、「最初は軽い気持ちで始めました」と振り返る。

体全体をフル活用するスポーツクライミング。4~5mほどの高さの壁を使い、登り切った課題の数で順位を決める「ボルダリング」、ロープを付けて安全確保をしながら12m以上の壁に挑む「リード」、2名同時にスタートして壁を登る速さを競う「スピード」と合わせた3種目の複合競技として2020年東京五輪の正式種目に採用された。

小武芽生選手

中でもボルダリングは全国各地にクライミングジムがあることから、若者を中心に誰でも楽しめるスポーツとして人気がある。しかし、小武がクライミングを始めた当時はマイナースポーツの域を出ていなかった。

「小学校5年生の時に何か新しいことやりたいなって、フと思って。そのときに両親が『テニスはどう?』とか色んなスポーツを言ってきて、その中にクライミングがありました。ちょっとやってみようかなって」

それまでは器械体操や水泳をやっていたのだから、もともと運動センスはあったのだろう。メキメキと頭角を現し、15歳だった2013年に全日本クライミング・ユース選手権リード競技大会ユースAで優勝した。

同年からW杯への挑戦を始め、主にボルダリングで参戦して経験を積んだ。世界レベルの課題に苦しみ決勝に残ることもままならなかったが、昨年4月の中国・重慶大会で覚醒した。ボルダリングW杯での自己ベストとなる4位になった。

「そのときは本当に、ひたすら楽しくて。すごい疲れているはずなのに(気持ちが)ハイになって、早く(次の課題を)登りたい!みたいな気分になっていて。それが印象深いですね」

■小さな体でオリジナルのムーブを生み出す

学校の授業を終えて東京・二子玉川のクライミングジム『Fish and Bird(フィッシュアンドバード)』に姿を見せた小武は、フワッとしたロングスカートを履いたごく普通の女子大生だった。

しかしTシャツとショートパンツに着替え、壁と向き合いホールドを手にかけた途端、アスリートに変わった。またたく間に次の一手を出し、登っていく。

フィッシュアンドバードの壁を登る

身長は154cm。「160cmにはなる」と言われながら育ってきたが、中学校2年生から変化がない。「両親は普通に大きいんです。妹もプラス10cmくらいあって…」と肩をすくめる。だが、小さな体だからこそ有利な点もある。

「大きい人だったら収まらないような狭い動きとか、うまく壁に収まって休めたりもしますね。セッター(※)が予想しないような、オリジナルのムーブ(動き)が生まれてくるので、それがちょっと楽しいです」

※:課題となるルートを設定する職人「ルートセッター」のこと。選手がどういうムーブをして登るか、どの位置にホールドを置くとより大会が盛り上がるかなど計算して課題を作り上げていく。

ボルダリングW杯八王子大会に出場

体の動かし方について「自分の頭で考えた所を動かすのが得意。ちょっとココの筋肉に力を入れたいなって思ったら、すぐに。伝達反応が速いのかはよくわかんないんですけど」と笑いながら自己分析する一方で、弱点も理解している。ホールドとホールドの距離が遠い課題は苦労する。

「(背の)大きい選手は(ホールドに向かって)飛ばなくても届くのに、私は飛ばなくちゃ届かないこともあったりします。W杯とかに出ても私が一番背が小さい。もうちょっと大きかったら動きの幅も広がったけど、どうしようもない」

ちょっと身長のある選手なら手を伸ばせば届くホールドも、小武には届かない。そんな時はホールドからホールドに飛び移る「ランジ」でクリアすることもあれば、つま先をホールドに引っ掛ける「トゥフック」を大胆に使い、まるで鉄棒で逆上がりをするかのように足を伸ばすこともある。

小さな体をフルに動かす

小さな体を精一杯使ったムーブは観客を魅了する。小武に意識している選手を尋ねると、キム・ジャイン(韓国)の名を挙げた。

「私と同じ身長で、リードの世界チャンピオンにもなっています。ジャインはボルダリングではなくリード(を中心に活動する選手)なんですけど、あの身長ですごいトレーニングをして世界一になっている。尊敬しているクライマーですね」

10歳ほど年上のクライミング界の先輩を意識するが、小武自身も気がつけば年下のユース世代から追いかけられる立場になっていた。中学生クライマーの伊藤ふたば、森彩秋(あい)などが着実に力をつけ、トップ選手に負けじと食らいついてくる。

「いつのまにか自分がちょっと上にいる存在になっていて、下を見たら強い子たちがいっぱいいる状況で。立場が変わって、前はただ上さえ見ていればよかったのを、ちょっと下も気にしながら。本当に強い。私があの歳のころはあんなに強くなかったので、すごいなあと思いますよ」

国内女子は、ボルダリングW杯総合優勝4度の実績を持つ野口啓代(あきよ)が先頭で牽引し、小武や野中生萌(みほう)、尾上彩らが後を追う。男子も女子も、日本代表は層が厚い。

コンペに出場するたびに「プッシュアップされて、私も強くならなくちゃって」と刺激を受けている。

ボルダリングW杯八王子大会

■ステップ・バイ・ステップで登る

とにかく登ることが好きだという。「ボルダリングもリードも、岩もインドアも全部好き」と一番は決められない。トレーニングのときは何も考えずにひたすら登ることもあれば、一つひとつのムーブを考えて、「もうちょっとこうしたら、違う動きもできるから強くなれるかな?」と修正しながら試すこともある。

高校時代は海外でクライミングがしたくて留学したが、誤算があった。

「(場所が米国の)フロリダになっちゃって…。フロリダには何もなくて岩もないので、片手で数えるぐらいしかやってないですね」と苦笑い。代わりにソフトボールで汗を流していた。

リード日本選手権

高さ13m、最大斜度約130°の課題を登った

街を歩いて“指が引っかかりそう”な場所を見つけると心が弾む。石垣を「ガバだ!持ちやすい!」などホールドに見立て思わずつかんでしまうが、クライマーならではの悩みもある。日々の練習でホールドをつかみすぎて、指の皮がうすくなっているのだ。

「指紋がないので、ケータイの指紋認証機能が使えない。反応しないことがあります」

そう笑いながら話す小武の今シーズンの目標は、去年の自分を超えること。だが「いきなり優勝とかではないんですけど」と控えめだ。

「ずっとステップバイステップというか地道にやってきているので、まずは決勝には行くことと(W杯年間総合)ランキングで10位以内になること。あとはケガをしない」

ボルダリングW杯八王子大会

昨年のW杯年間総合ランキングは、ボルダリングを20位、リードを37位で終えている。今シーズンはボルダリングW杯第3戦の中国・南京大会で1年ぶりの決勝進出を果たした。

その勢いで翌週に行われた日本開催の第4戦・八王子大会でも決勝入りを目指した。しかし、準決勝1課題目でつまづいたことが尾を引き、その後の課題も完登できず結果は20位。北海道から応援に来た両親には肩を落とした姿しか見せられなかった。

「1課題目が時間ギリギリで、急いで両手で持とうとしたら抜けて落ちちゃって。残念なクライミングになっちゃいました。登れなかったことで、あぁ…ってなっちゃって。それを引きずっちゃったかな…。普段できるようなこともできなくなっちゃって。調子はよかったんですけど、最後の最後はメンタル面にきてしまうので。(W杯の連戦の疲れは)回復していたけど、あまり眠れなかったかな。23時には寝たんですけど4時くらいに一回起きちゃって」

自国開催の緊張もあったのだろう。だが、背中越しに「芽生ちゃん、ガンバ!」と多くの声援を受けたことは励みになった。今回の成績で新たに気を引き締める。

「予選は単純に『準決勝行くぞ!予選落ちなんかしてられない!』っていう気持ちなんです。それが今は普通になってきているので、準決勝からどうやって気持ちを作り、決勝までもっていくかを、もう1回考え直したいです。フィジカル面でもどんなに疲れていても耐えられる体に鍛え直したいです」

壁を見上げる

■東京五輪も視野に入る

クライミングを始めた頃は意識することもなかっただろう大舞台も、気がつけば小武の手が届きそうな距離にある。3年後の東京五輪だ。

「私が始めた頃はクライミング自体の知名度がすごく低くて、メジャーではないなって感覚がありましたが、今はテレビで取り上げられたりもします。オリンピックはテレビで観ていても自分とは違う世界の話だったんですけど、ちょっとそれが現実味になってきて。あれ?頑張れば私も出れるかも?みたいな…。ひとつの目標ではありますね」

まだあまり意識はしていないようだが、目標に掲げているW杯年間総合ランキング10位が実現できたら現実味も増してくるだろう。

5月18日に20歳の誕生日を迎えた。クライミングは性別、年齢関係なく、それぞれのレベルで楽しむことができる競技だ。

「強くなくちゃ楽しめないわけではない。その人にあった課題があります。登り方、プロセスもひとつではないので、それも魅力かな」

これからも彼女だけの登り方で壁と向き合う。登り続ければホールドの先に東京五輪も見えてくる。ハタチになった小武芽生は、今日もまた未来につながる手を伸ばす。

●小武芽生(こたけ めい)
1997年5月18日生まれ、北海道札幌市出身。北海道山岳連盟所属。女子栄養短期大学食物栄養学科2年生。スポーツクライミング日本代表(ボルダリングA代表、リードB代表)。今シーズンから株式会社マイナビが結成した「マイナビクライマーズ」のメンバーとしても活動。2013年全日本クライミング・ユース選手権リード競技大会ユースA優勝。ボルダリングW杯は2016年中国・重慶大会4位、2017年中国・南京大会6位。好きな食べ物は自分で作る白玉。

《五味渕秀行》

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