【THE REAL】バンディエラ・中村憲剛の色褪せない存在感…変貌を遂げる川崎フロンターレの中心で | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】バンディエラ・中村憲剛の色褪せない存在感…変貌を遂げる川崎フロンターレの中心で

オピニオン コラム
中村憲剛 参考画像(2016年6月25日)
中村憲剛 参考画像(2016年6月25日) 全 4 枚 拡大写真
■高難度の仕事が凝縮されたスルーパス

一瞬のうちに高難度な仕事をいくつも完遂した。ボールをもつ味方、前へ走る味方、相手の守備陣形をすべて見極めたうえで、ノールックかつワンタッチからのスルーパスでゴールを演出する。

「久しぶりに自分にしびれました。本当にしびれました。今日の2点目は何回もリプレーで見ます」

浦和レッズをホームの等々力陸上競技場に迎えた5日のJ1第13節。川崎フロンターレの大黒柱、36歳のMF中村憲剛を思わず自画自賛させたビッグプレーは、1点リードで迎えた前半29分に飛び出した。

レッズのMF駒井善成が出した縦パスがFW興梠慎三に合わず、こぼれ球をDFエドゥアルドがカット。ボールを預けられたMF大島僚太が、ドリブルでセンターサークル内へ入った直後だった。

「(大島)僚太にはずっと『ボールをよこせ』と言っていたんですよ。ウチがボールを奪った瞬間しか、僕のマークがはがれないので。ちょっとすると、すぐに阿部(勇樹)ちゃんがスッと来るから」

後方を振り返り、大島へ声をかけながら前を走る中村がパスを呼び込む。直前には前方をチラッと見て、MF阿部浩之が半身の体勢でレッズのゴール前へ走り込む姿も確認していた。

次の瞬間、中村はボールを自分の前に通過させながら、体をひねって右足を振り抜いた。ワンタッチでのプレーだった分だけ、レッズのキャプテン、MF阿部勇樹のアプローチも間に合わない。

ピッチで存在感を放つ
(c) Getty Images

ボールをヒットさせた瞬間は、前方を見ていない。いわゆるノールックからのスルーパスは寸分違わず、レッズのセンターバック、遠藤航と槙野智章の間にポジションを取っていた阿部の足元に入る。

そのまま抜け出した阿部は左足で軽くボールを整え、直後に左足のインサイドでシュートを放つ。変則的なリズムで放たれた一撃に、レッズの守護神・西川周作も反応できなかった。

■迷える浦和レッズを精神面で上回った90分間

リーグ戦で黒星と失点がかさんでいたレッズは、6年目を迎えたミハイロ・ペトロヴィッチ監督のもとでは初めてとなる4バックで臨んできた。

サンフレッチェ広島に逆転勝ちした前節から中3日。十分に準備できたとは言い難い。ある選手は「時間はほとんどなかった」と、実質的なぶっつけ本番だったことを認める。

「相手は不安や戸惑いがあって、そのよう(4バック)にしてきている。その隙を突こう」

フロンターレを率いる鬼木達監督が試合前のミーティングで発した檄に、中村も考えをシンクロさせる。

「相手が4‐4‐2にしてきた時点で、ウチが精神的に優位に立ったのかなと。それだけ向こうが苦しい、というのは感じました。最初の5分くらいはちょっと面食らいましたけど、長くやっているシステムじゃないので、自分たちがボールを動かせば必ず穴が空いてくると思っていた」

前半16分に阿部のアシストから、キャプテンのFW小林悠が先制点をゲット。レッズに反撃のチャンスを与える間もなく、針の穴を通すようなパスから奪った阿部の2点目が勝利を大きく手繰り寄せた。

「あの一本のパスで、今日の自分の仕事は終わったと思いました」

再び自らのプレーに酔うほど、すべてが完璧なハーモニーを奏でていた。エドゥアルドがボールを奪ってから、阿部がゴールネットを揺らすまでの7秒間を中村が笑顔で解説してくれた。

「あそこで僕がボールを止めたら、阿部ちゃんがオフサイドになると思ったのでダイレクトで出した。ダイレクトで出したほうが、相手も反応できない。前節のヴィッセル神戸戦でも同じような形から得点しているので、阿部ちゃんにもそのイメージがあったと思うので」

以心伝心というべきか。自己最多となるシーズン8得点目を、前半戦の17試合で叩き出した阿部も笑顔で続いた。「僕もしびれました!」と。

■鬼木達新監督のもとで進化を続ける今シーズン

2012シーズンの序盤から指揮を執り、独特のパスサッカーを浸透させた風間八宏監督(現名古屋グランパス監督)が昨年限りで退任。前人未踏の3年連続得点王を獲得した、FW大久保嘉人もFC東京へ移籍した。

迎えた今シーズン。ヘッドコーチから昇格した鬼木監督は、前任者が築き上げたスタイルの踏襲と、そのうえに独自の彩りを加える方向性をぶれることなく貫いてきた。

独自色とは球際における激しさと前線からの守備、そして攻守の切り替えの速さ。これらが強く意識されすぎた序盤戦は、J1でもAFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも勝ち切れない状態が続いた。

自分たちはポゼッションにこだわる
(c) Getty Images

頃合いだと見極めたのか。4月21日の清水エスパルス戦を前に、鬼木監督が「ボールをもってなんぼだろう」と説いた。いま一度、原点でもある「風間スタイル」に帰ろうという意味だ。中村が振り返る。

「自分たちがボールをもつというスタイルに特化しないと、ウチはダメだと思うので。守備の部分をオニさん(鬼木監督)が丹念に植えつけてきたなかで、ボールをもつところ、パスを止めて蹴るとか相手のマークを外すという部分がちょっとピンボケしていたところがあったのかなと」

時計の針が守備へ振れすぎるのを、鬼木監督自身も覚悟していたのだろう。ベストのタイミングで慣れ親しんだポゼッションスタイルを思い出させ、長丁場のシーズンを戦いながら融合させていく。

準々決勝進出を果たしたACLを含めて、5月以降の公式戦では9勝1分け1敗の星を残している。単なるV字回復ではなく、ポゼッションに泥臭さが加味された新生フロンターレの誕生と言っていい。

「オニさんが『ボールをもとう』という話をしてからは、選手たちのなかでも意識が変わりましたよね。球際の激しさや切り替えの速さは継続されているので、本当に少しずつ成長しているのかなと」

■視線の先にはっきりと見つめる豊穣の秋

中央大学から加入して15シーズン目のバンディエラ。J2時代も、カウンターを武器にJ1で3度の2位を経験した2000年代の後半も、その後の低迷も、そして風間前監督時代もすべて経験してきた。

だからこそ、ガンバ大阪から移籍した阿部が大久保の穴を埋めて余りあるほど急速にフィットし、一度は12人も離脱した故障者も復帰しつつあるチーム、特に攻撃陣に中村も大きな手応えを感じている。

「僚太がいて、(エドゥアルド・)ネットがいて、(小林)悠がいて、阿部ちゃんがいると楽ですよね。僕は何もしなくても、本当にいるだけでいいというか。それはそれで、ちょっと寂しいんだけど」

ボールを保持しながら、前半は無得点でもいいから相手を動かして疲れさせる。後半に必ず空いてくる隙を突いてリードを奪った後は再びボールをつなぎ、いなして終わらせる必勝パターンが生まれつつある。

「あとは守備の部分で、いままでと全然違う。阿部ちゃんと僕で前からスイッチを入れるけど、阿部ちゃんのタイミングがすごくいいから、後ろが連動してついてくればおそらく相手に何もさせない試合ができる。まだ隙があるので、そこはみんなでもっと詰める必要があるかな」

表情を輝かせながら言葉を弾ませ、それでいてまだまだ貪欲なのは、真夏の消耗戦の先に豊穣の秋、つまりチーム悲願の初タイトル獲得を見つめているからに他ならない。

変貌を遂げつつあるフロンターレ
(c) Getty Images

リーグ戦は首位の鹿島アントラーズと勝ち点4差の5位で折り返した。ACLではレッズと8月23日にホームで、9月13日には埼玉スタジアムでベスト4入りをかけて激突する。

「8月になれば違うシチュエーションになるだろうし、いまの浦和じゃないと思うので」

ACLの前哨戦を制した、という思いはない。目の前の試合をひとつずつ、確実に。理想と現実の二兎を追い求め、変貌を遂げつつあるフロンターレの中心で、中村は決定的な大仕事を演じ続ける。

《藤江直人》

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