私は数日前からの高山病と体力の低下のため自力で登ることを断念。馬に乗って一行の後をついて行くことを決めていました。しかも、このトレッキングルートは時折吹く強風を避けるために早い時間にスタートしなければなりません。
一行は午前2時半に朝食を取ると、荷物をポーターに預け完全防備で出発しました。驚いたのはポーター達のプロ意識。どんな悪条件であっても彼らは、ひとりにつき20kgもある一行の荷物を当たり前のように持ちます。
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登り路でも、馬は人間と共に上がっていく
持ち手の部分に紐をかけ、その紐を頭に巻いて手で支えて持つのです。私と比べても決して身体が著しくたくましいわけでもなく、特に筋肉質という感じではありません。重い荷物を運ぶポーター達はかなりの経験者が揃っているのだと思いました。
さて、全員の準備が揃ったところで出発です。
見送りで外に出た私はあまりの寒さに身震いしました。メンバーのヘッドライトが左右に揺られながら暗闇の中へ小さくなりながら消えて行きました。私はしばらく夜空を眺め、ひとり残された不安を感じながらも、出発時間まで仮眠をとることにしました。
馬の準備ができた連絡を受けたので朝食を済ませて外に出ると、すでに馬が待っていました。馬の名前はマイカル(5歳)。曳いてくれるのは、普段は宿で調理師をしているスケという青年でした。英語がほとんどわからないようなので、会話は単語とジェスチャーです。それでもカメラを指さすことで綺麗な風景のところでは止まって欲しいという気持ちは伝わったようでした。
馬で登っているのは私だけかと思っていましたが、物の運搬で馬を使うことが日常となっている山間部では、早朝には馬の大渋滞です。お互いに挨拶をしている様子は朝のどこにでもあるような光景のようでした。また、私のように登山客で馬に乗っている人も何人か見かけました。
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早朝は馬の大渋滞
途中、2回ほど休憩をしてマイカルのペースで進んで行きました。コースを外れそうになる度に、スケが馬の手綱を引き元に戻します。
気が付くと、すでに頂上付近に来ていました。前方からは私を呼ぶメンバーの声が。少し前にみんなは到着していたようです。重い荷物を運んできたポーター達の姿ももちろんありました。山頂にはトタンでできたような山小屋が一軒、山の上のカフェと言ったところでしょうか。私は冷えた身体を温めるためにジンジャーティーをいただきました。今まで飲んだジンジャーティーの中でも一番身体が芯から温まり美味しく感じたのです。
自力で歩いてきたわけではありませんでしたが、それでも山頂5400mまで来られたことに胸がいっぱいになりました。何よりみんなに会えたことが嬉しくて不安だったことも高山病のことも、どこかへ行ってしまったようでした。
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山頂から下りてきてメンバー達も一安心。日差しが気持ちいい
休憩が終わると今度は下山です。登ってきたルートとは反対側の山を下りてきます。登ってきた風景とは違い目の前に広がるのは砂漠のような風景です。また寒さも和らいで行きました。私たちは、この後ムスタング(標高約3700m)まで下りてムスタング寺院を訪れます。
(続)