【スポーツ庁 鈴木大地長官に聞く】スポーツで稼ぐ空気を生み出す? | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツ庁 鈴木大地長官に聞く】スポーツで稼ぐ空気を生み出す?

オピニオン ボイス

スポーツ庁 鈴木大地長官
スポーツ庁 鈴木大地長官 全 5 枚 拡大写真
文部科学省が2017年3月に策定した第2期「スポーツ基本計画」では、「現状5.5兆円のスポーツ市場規模を2025年までに15兆円にする」という目標が掲げられています。

日本では学校の体育教育の延長線上にスポーツが位置付けられることがあります。学校教育の一部であるスポーツという認識では、スポーツにお金を払うという感覚が生まれにくくなり、スポーツ業界にお金が集まりにくくなるのは必然。

2015年10月に文部科学省の外局として設置されたスポーツ庁の鈴木大地長官は、「スポーツも稼がなくてはいけない時代になっている」と明言します。かつて水泳選手として活躍した鈴木長官は1988年ソウル五輪に出場。競泳男子100m背泳ぎで金メダルを獲得しています。スポーツ庁が創設されると初代長官に就任しました。

時には大きなお金も動くスポーツ業界。これからスポーツ庁はどのようにして目標を達成するのか、活動は何をするのか聞いてみました。(聞き手はCYCLE編集部・大日方航)

前回の【スポーツ庁 鈴木大地長官に聞く】:今の時代にスポーツは必要?

---:第2期「スポーツ基本計画」では、数値を含む成果指標が第1期計画に比べ大幅に増加(8→20)しています。このように「目に見える目標を設定する」ということを行政機関は避ける傾向があったように感じますが、今回わかりやすい目標を設定したのはなぜですか?

鈴木大地長官(以下、鈴木長官):昨年度は現行のスポーツ基本計画を振り返えるため、色んな人たちに集まっていただいて会議を続け、よく分析して反省しました。

わかってきたのは、国の成果物はなぜか読みにくい。難しく書いてあったり、しかも主語がなかったり。誰が何をするのかわからない。国なのか、地方自治体なのか。民間企業なのか、国民一人ひとりなのか。

それを明確にすると同時に、目標を数値化する。こういう文言をできるだけ入れていこうじゃないか、という風にしたわけです。社会が変わっているので、その分は変わらなきゃいけないということです。

スポーツ庁の鈴木大地長官

---:スポーツ庁も変わっていくということですね。「現状5.5兆円のスポーツ市場規模を2025年までに15兆円にする」と掲げられていますが、どのように達成していくのでしょうか。

鈴木長官:かなり高いハードルではありますが、政府が掲げる日本再興戦略の中でも、スポーツが成長産業だと後押しをしていただいています。オリンピック・パラリンピックというわずか2~3週間の国際大会を成功させる中でお金も使っていますが、一過性の大会で終わらせるのではなく、レガシーとして日本のスポーツが文化として根付いていくことが大事だと思っています。

文化として根付き、時と場所に関わらず皆さんがスポーツを行っている国・社会になれば10兆円、15兆円~というのも実現性があるものになっていくのではないかと思っています。

今、アメリカに代表されるようにスポーツはエンターテイメントでもあります。ヨーロッパのスポーツは文化としても定着していたり、我が国のように教育的な側面から発展する例もある。教育、文化、エンターテイメントという日本のスポーツの幅広い面をそれぞれの形に大きく伸ばしていくことで、高い目標に近づいていけるのではないかな、と前向きに思っています。

具体的には、全国にスタジアム・アリーナを20ぐらい建設し、街づくりと一体化して、ビジネスとしても成り立ちながら地域を活性化していくことが目標でもあります。そのためのスポーツの人材を育てたり、ビジネス界からスポーツ界へ知見を持った人たちが入ってきたりすることも大事です。

また、地域活性化と自然を生かしたアウトドアのスポーツの振興によって、スポーツに関心の低かったインドア寄りで運動不足がちだった人たちが、スポーツ界に入ってくることを期待しています。


---:レガシーの中には色んなものが含まれると思います。物理的なレガシーとしてスタジアムの話が出てきましたが、モデルケースはありますか?

鈴木長官:ひとつ例を出すと広島県のマツダスタジアム(プロ野球 広島カープの本拠地)。これは新しいスタジアムをつくり、綺麗なトイレをつくり、女性が「行ってもいいかな」という施設にした。そして「カープ女子」が生まれた。

そうすると、応援が盛り上がる、選手がハッスルする、もっと活躍したくて練習をする。そうしてまた盛り上がっていくという好循環が生まれます。マツダスタジアムは駅の近くなので、往来も活発になり、新しい人の流れもできたというわけです。

マツダスタジアム

日本でも街づくりから根本的に変えていけるのではないかと思います。茨城県の鹿島スタジアム(Jリーグ 鹿島アントラーズの本拠地)の場合、地元のおじいちゃん、おばあちゃんや子どもたちが、スタジアムに併設されたクリニックに通っているのです。鹿島アントラーズのチームドクターやトレーナーがクリニックの先生、しかも選手もそこに通ってきます。

同じ診療所でも、スタジアムに併設されていることでポジティブな空気が流れているような気がするんです。町民がみんなポジティブな気持ちになれる、スポーツの力を感じます。

---:アメリカの大学約1200校が加盟する全米大学体育協会(NCAA)は年間で1000億円もの収益を上げていると言われています。スポーツ庁も大学スポーツを活性化するため、大学横断かつ競技横断の統括組織として「日本版NCAA」を2018年度中に創設する方針を発表していますね。活動について教えてください。

鈴木長官:昨年度取りまとめた方針をもとに、今年度は学産官一体の協議会を立ち上げるなど、具体化に向けて取り組んでいます。現在の大学スポーツ(主に部活動)の課題である学生の安全確保、学業との両立支援、チーム運営・管理の透明化など、大学スポーツがより健全に発展するための基盤作りが必要です。

47都道府県に国公立大学や私立大学があり、大学が地域スポーツの拠点になり得る施設を持っています。地域貢献をし、地元にいろんなものをもたらす。そしてもたらされた住民が大学のスポーツを応援していくという流れが必要かなと思います。

先日、関西の大学に視察へ行きました。大学は地域の住民に対して無償で、学生選手がスポーツを教えたり、施設を貸し出したり、一方通行的な貢献になっています。

これからは地域の住民が大学の対抗戦に大勢押しかけて応援する時代になっていくと思います。大学が地域に開かれ観戦向けのスペースができれば、地元に根差した大学スポーツの良さが理解され、(住民が)返してくれるのではないかなと思います。

競泳選手時代のスポーツ庁 鈴木大地長官。1988年ソウル五輪男子100m背泳ぎで金メダルを獲得 (c) Getty Images

●鈴木大地(すずき だいち)
1967年3月10日生まれ、千葉県習志野市出身。元水泳選手。スポーツ庁初代長官。1988年ソウル五輪男子100m背泳ぎで金メダルを獲得。当時、スタートからしばらくもぐったままで水中を進む「バサロ泳法」が話題になる。1993年順天堂大学大学院体育学研究科コーチ学専攻修了。2003年9月から世界オリンピアンズ協会理事を3期に渡り務め、2013年4月より日本オリンピアンズ協会会長に就任。同年6月から日本水泳連盟会長を3年間兼任した。2015年10月より現職。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事も務める。2017年7月に国際水泳連盟(FINA)理事に就任することがFINA総会で承認された。

《大日方航》

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