【THE REAL】日本代表・井手口陽介が放つ衝撃…世代交代の旗手が歴史に刻んだ語り継がれるゴール | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】日本代表・井手口陽介が放つ衝撃…世代交代の旗手が歴史に刻んだ語り継がれるゴール

オピニオン コラム

井手口陽介(2017年8月31日)
井手口陽介(2017年8月31日) 全 5 枚 拡大写真

キックオフ直後に飛び出したインターセプト


ファーストプレーから異彩を放っていた。オーストラリア代表のキックオフで前半がはじまってからわずか十数秒後。先発に抜擢された井手口陽介(ガンバ大阪)が、まるで猟犬のように襲いかかる。

右タッチライン際からFWマシュー・レッキーが、FWトーマス・ロギッチへ送った横パスを、狙いを定めていたかのように鮮やかにインターセプト。そのままドリブルで敵陣へ直線に駆けあがる。

5万9492人で埋まった埼玉スタジアムのボルテージが、いきなり最高潮に達する。相手の必死のスライディングタックルに防がれたシーンに、バヒド・ハリルホジッチ監督が伝授した戦い方が凝縮されていた。

「あれはもう監督の指示で、チームの戦術でした。自分の意思というよりは、戦術で動きました。相手のボランチに僕と(山口)蛍くんがいくような形で。相手のボランチに仕事をさせないような意思というか、戦術だったと思います」

今年に入って体格を生かしたロングボール戦法から、パスをつなぐスタイルに180度転換したオーストラリア。そのキーマンとなるダブルボランチ、マッシモ・ルオンゴとジャクソン・アーバインをまず潰す。

アンカーを託されたキャプテンのMF長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)の前方に、左右対で位置するインサイドハーフに指名された井手口と山口蛍(セレッソ大阪)のミッションは極めて重大だった。

高い位置から執拗に、相手のキーマンたちを辟易させるほどプレッシャーをかける。機を見るや攻撃にも加わる。突出した運動量の豊富さとボール奪取術をもつ21歳の井手口を、先発で抜擢した理由がここにある。

「イラク戦と今回とでは雰囲気が全然違うのでまったく別物でしたけど、あまり気負わずに試合に入ったのがよかったのかなと。意識しすぎると、本当に頭のなかが真っ白になってしまうので」

豊富な運動量で攻撃の芽を摘む
(c) Getty Images


埼玉スタジアムを震撼させた代表初ゴール


井手口が振り返ったように、国際Aマッチにおける先発出場は過去にわずか一度だけ。6月13日に中立地テヘランで行われた、イラク代表とのワールドカップ・アジア最終予選第8戦しかなかった。

途中出場を含めても3試合目になる8月31日のオーストラリア戦は、勝てばワールドカップ・ロシア大会出場が決まる大一番だった。誰もが緊張する状況で、しかし、頼もしいまでの強心臓ぶりが発揮される。

その象徴となったのが後半37分にペナルティーエリアの外から突き刺し、オーストラリアの戦意を完全に萎えさせた代表初ゴールだった。日本列島を震撼させた、永遠に語り継がれる一撃だったといってもいい。

「あれはゴールの枠に入ればいいかな、と思って蹴りました。それで上手く力が抜けていたんじゃないかと思います。嬉しかったですけど、あのときはもう頭のなかが真っ白になっていたというか」

相手のパスミスを、途中出場していたFW原口元気(ヘルタ・ベルリン)が奪いにかかる。数人の相手に囲まれ、体勢を崩され、最後はピッチに転がされながらも、左側をフォローしてきた井手口へパスを通す。

カバーに回ってきたアーバインのサイズは189センチ、78キロ。体格ではるかに勝る相手へ、171センチ、71キロの井手口が敏捷性で翻弄する。瞬時に右へ切り替えると、アーバインはもうついて来られない。

そのままドリブルでどんどん右へ切れ込み、3バックの真ん中のトレント・セインズブリーと、右のマシュー・スピラノビッチの間にわずかなスペースを見つける。次の瞬間、迷うことなく右足を振り抜いた。

わずかなスペースを見つけて右足を一閃
(c) Getty Images

カーブの軌道を描き、なおかつ豪快な弾道が空間を切り裂く。必死にダイブしたオーストラリアの守護神、マシュー・ライアンが伸ばした右手も届かない。大歓声の塊が地鳴りと化して、スタジアムを揺るがした。


シャイで口下手な男が珍しく饒舌となった理由


自他ともに認めるシャイで、口下手でもある井手口が珍しく饒舌だった夜がある。6月25日。川崎フロンターレをホームの市立吹田サッカースタジアムに迎えた、J1第16節を終えた後だった。

この試合を最後に2つ年下で、ガンバのジュニアユース、そしてユースの後輩でもある19歳のFW堂安律が、オランダ1部リーグのフローニンゲンへ期限付き移籍で旅立つことになっていた。

後半23分にFW長沢駿の同点弾をアシストした井手口は、引き分けに終わった一戦に「勝って律を送り出したかった」と偽らざる思いを漏らした。そのうえで、こんな言葉を後輩へ送っている。

「僕が言うのもあれですけど、向こうでしっかり頑張って結果を残して、いいように言えば、もうガンバに帰ってこないようになれば一番いいんじゃないかと思います。僕もしっかり結果を残し続けて、いつかはA代表で一緒にプレーできればベストだと思います」

来年6月30日までの期限付き移籍には、完全移籍のオプションもついている。今シーズンのパフォーマンスが認められれば、フローニンゲンをステップにして、ヨーロッパの舞台で羽ばたくことも可能になる。

堂安がトップチームに昇格した昨シーズンから、移動のバスなどでは常に井手口が隣に座ってきた。J3に参戦させているガンバ大阪U‐23が主戦場だった可愛い後輩の悩みを聞き、ときには励ましてきた。

「(堂安)律は誰に対しても人懐こい性格なので、ホンマに毎日しゃべっていましたね」

中学生時代からガンバイズムを叩き込まれたピッチ内だけでなく、プライベートでもとにかく気が合った。だからこそ、ライバル心にも似た思いが頭をもたげてくる。

「サッカー選手である以上は、海外は一番の目標でもあるので。先に後輩に行かれたというのはあれですけど、しっかり僕も追いつけるように頑張りたい」


あの中田英寿氏をダブらせるルックスと衝撃


次にピッチで再会を果たすとしたら。A代表でチームメイトになるかもしれない。もしかするとヨーロッパの地で、敵味方となるかもしれない。そのときには、ともに“ガンバの生え抜き”の看板を背負って戦う。

おぼろげだった目標が、井手口のなかで明確な輪郭を帯びてきた。オーストラリア戦のスーパーゴールは、瞬く間に世界中へ伝播した。底知れぬスタミナと合わせて、海外を振り向かせる可能性は十分にある。

初めてハリルジャパンに招集された昨年11月の背番号「24」がイラク戦の「14」をへて、オーストラリアでは「2」へと出世した。チーム内における存在感の変化を物語る一方で、こう語りながら苦笑いもする。

「最初に選ばれたときはビビっていたというか。それは徐々になくなってきましたし、遠慮なくできているのかなと思います。守備も攻撃も、すべてにおいてですね」

中田英寿氏をダブらせる、ふてぶてしさすら漂わせるルックスとパフォーマンスとは対照的に、実はちょっぴり小心者でもある。ハリルジャパンの雰囲気にも慣れたいま、底知れぬ才能はさらに解き放たれようとしている。

2006年ドイツW杯・ブラジル戦の中田英寿
(c) Getty Images


才能はさらなる開花を見せるか
(c) Getty Images

1996年生まれの井手口には、日本が悲願のワールドカップ初出場を果たした1998年のフランス大会の記憶がない。2002年の日韓共催大会では、得点王を獲得したブラジル代表のエース、ロナウドに憧れた。

「僕にとっては、ワールドカップは小さなころからの夢のような場所。なので、近づいてみないとわからないし、そこへいくためにはもっと改善するところがある。オーストラリア戦も前半からもっともっといけたと思う。そのあたりが、まだまだ自分のなかでは甘いのかなと」

世代交代を加速させる新時代の旗手はベテランや中堅を突き上げ、昨夏に悔しさを共有したリオデジャネイロ五輪世代を力強くけん引しながら、貪欲なまでに成長を続けていく。

《藤江直人》

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