ボルダリングのルートはどんな意図で作られているの? プロフリークライマー安間佐千さん、日本代表選手の掘創さんに聞いてみました | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

ボルダリングのルートはどんな意図で作られているの? プロフリークライマー安間佐千さん、日本代表選手の掘創さんに聞いてみました

オピニオン ボイス

安間佐千さん(左)と堀創さん
安間佐千さん(左)と堀創さん 全 5 枚 拡大写真
ホールドという色鮮やかな突起物を頼りに、壁に設けられたルート(課題)を登るボルダリング。若者たちを中心にした人気スポーツですが、そのルートがどんな意図で作られているか気にしたことはありますか?

ルートを作る(セットする)人々はルートセッターと呼ばれる職人です。7月にボルダリングジムのB-PUMP 荻窪店(東京都杉並区)で開催されたクライミング・コンペティション『ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017』(※1)では、国内で活動するルートセッターが尽力しました。通称「セッター」と呼ばれる彼らは、ボルダリングジムでは引っ張りだこの存在です。

同大会ではオープン参加で日本代表選手も出場した「ROCKSTARクラス」、アマチュア向け「BE A ROCKSTARクラス」、小学生向け「ROCKSTARS Jr.クラス」の3カテゴリーが用意され、合計で50を超えるルートが使用されました。これを支えたのがルートセッターの皆さんです。

今回はプロフリークライマーとして活躍する安間佐千(あんまさち)さんと、ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017のチーフルートセッターを務めた現ボルダリング日本代表の堀創(ほりつくる)さんに「ルートの作り方」を聞いてみました。

安間佐千さん(左)と堀創さん

安間さんはご実家が栃木県宇都宮市でボルダリングジムを営んでおり、時折ルートセッティングを手がけています。堀さんは会場となったB-PUMP 荻窪店に勤務しながらクライミング・ワールドカップ(W杯)のボルダリング種目に長年参戦しています。

W杯リード種目で世界の頂点を極めたことのある安間さんは本業ルートセッターではないため「語るには恐れ多い領域なので…」と苦笑いしたものの、1989年生まれで同い年の堀さんと和気あいあいとしたインタビューになりました。(聞き手はCYCLE編集部・五味渕秀行)

※1:同大会の男子「ROCKSTARクラス」を制した楢崎智亜選手は9月のドイツ本戦でも優勝して二連覇を達成、日本選手のレベルの高さを見せつけました。

---:ハイクオリティーなルートがたくさん用意されたADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017でしたね。以前、安間さんが日本のクライマーたちのレベルの高さについて「日本にはさまざまなホールドが輸入されていて、ルートセッターの技術も高い。地方のジムでも世界レベルのルートや、W杯で使われるホールドに触れられる機会がある」ことが要因のひとつと教えてくれました。そこで今回はルートセットについてお話を聞きたい思います。まず初めに、何をポイントにしてルートを作っていますか?

ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017で用意されたルートはこんな感じ

安間佐千さん(以下、安間):イメージが初めにあります。こういうのやらせてみたいなっていうポイントがあって、それを作ります。でもその方向性が大きくセットしながら変わることもあるので、あまりこだわりは持っていなくて。あまり自分の意図を出しすぎずに、ターゲットに合わせて流れの中で面白いものを作っていくことが僕は多いです。

堀創さん(以下、堀):けっこう課題の見た目を気にしていますね。課題の見た目と、壁のトータルでの見た目。自然の岩場でも登りたくなるラインというのがあると思うんですよ。『これ、かっこいいラインだよね』といった会話も仲間たちから出てきます。

なので、人工壁もやっぱり登りたくなるようなラインを作りたいなと思っています。見た目から入って、その上で自分の好きな動きなどを入れる。見た目と内容が両立するものを作るように心がけています。

---:いい課題、悪い課題ってあるのでしょうか?

堀:難しいですよね。自分が面白いと思った課題がいい課題であると思うのですが、やらせたい動きがわかったり、クライミングのテクニックの要素がちゃんと詰まっていて、なおかつそれに導かれるような課題はやっていて勉強にもなるし、楽しいですよね。

あとはジムで初心者がそういう動きをしているのを見ると、いい課題が作れたなと感じます。そのテクニックに応じてどんどんステップアップしていける課題はいい課題だと思います。

安間:あまり僕は判断していないですね。その辺の感性に関してはかなり人とズレているような気がします。だいたいの課題が面白いと思っちゃって(笑)、受け取り方だと僕は思うんです。周りが『これはクソ課題だ!』と言うようなときも、『へえ、みんなはそう思ってるんだな~』って感じで見ていることが多いです。

---:周りが『クソ課題』と嘆くのはどんな課題なのですか?

安間:使わないホールドがあったり、大きくショートカットできちゃったり、(難易度に対して)優しくできちゃったりとか。そういうのはちょっとよくないと思います。あと、(登っていて)よくわからない違和感があるときも面白くないなと思うことがあります。

安間佐千さんはプロフリークライマーとして世界中の壁を登り続けています《安間さんのインスタグラムより》

---:ルートを作ったときは自分が登れることは想定していますか? 1発目で登れるとか、何回かやれば成功できるとか。

安間:自分ができるっていうのは重要なポイントですね。つなげられなくてもムーブ(動き)ができているなどは大切にしています。でも世界的な大会のチーフルートセッターであっても、全然クライミングができない人もけっこういるみたいです。(自分が登れなくても)きっとこれぐらいの難易度だろう、という感性でセットしている。

---:日本の有名なルートセッターの方々は、選手としても活躍した経歴を持つ人が多いですが、海外では必ずしもそういうわけではないのですね。

堀:おじいちゃんが多い感じがしますね。50代、60代の。それまで150試合とかチーフルートセッターを務めたりしているセッターなので、もちろん(多少は)登れるのでしょうけど、まあ経験でしょうね。チーフは特にそうだと思います。

最近は30代の強いセッターも出てきてはいるのですが、それでもボルダリングでメインとなるのは50代、60代。今日の(アマチュア向けコンペの)BE A ROCKSTARで優勝できるのかな、この人…と(心配に)思うくらいのレベルの人がセットしている感じですね。

ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017でチーフルートセッターを務めた堀創さん。ボルダリング日本代表選手としても活躍しています

安間:誰だっけ、アメリカの…。

堀:クリス・ダニエルソン?(※2)

安間:そう、弱いんでしょ? 3級でハテナが出るくらいなんでしょう?(※3)

堀:そうそう、ホントに。

安間:でも三段(のルートセット)をバシッと決めてくる。あの人は。

※2:クリス・ダニエルソン(Chris Danielson)。セッター歴20年以上の経験を持つ米国人。IFSC国際ルートセッターとして世界選手権など国際大会も多くセッティングする。5月のW杯八王子大会でもチーフルートセッターを務めた。

※3:ボルダリングの難易度は日本式では1級を基準に、どれだけ優しいかで2級→3級→4級と下がり、難しいと初段→二段→三段と上がる。B-PUMP 荻窪店では8級~二段まで10の難易度が設定されている。


堀:あとはアスピラント(見習いとして参加するセッターのこと)で若いセッターを呼んで、彼らの動きで判断したりしているみたいですね。

---:アスピラントに試しに登ってもらうわけですね。

堀:そうです。それで修正していくんです。日本のセッターは強い部類ですよね。

安間:メチャ強いですね。

堀:よく聞くのは、日本でW杯のセットをすると海外のセッターからもっと優しくしろって言われて、ゴネるみたいな(笑)。でも結果的にチーフの方が(意見は)強いので、優しくしてちょうど良くなる。これ以上難しかったら誰も登れないんじゃないかというギリギリの線を狙っていて、その辺はやっぱりチーフはスゴいなって思いますね。

ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017の様子

---:今回のADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017の解説で、安間さんが「セッターは選手たちが実力以上の力が出せるくらいのものを作っていく」というようなことを話していました。やはり登ってもらうならその人の力がより出せる課題が理想でしょうか?

安間:クライミングは難しくてできないものをできるようにしていくだけではなくて、単に気持ちよく登るとか、この課題いいなあ、面白いなあって思う気持ちも魅力だと思っています。セットするにあたって、その人の限界に到達してほしいという意図を持ってやるときもあれば、(単純に登ってもらって)気持ちいいとか、さわやかだな~みたいに感じてもらえるものも作りたいですよね。

(インタビュー後半ではW杯の課題などについて聞いてみます! 明日の公開予定です)

●安間佐千(あんまさち)
1989年9月23日生まれ、栃木県宇都宮市出身。アディダス契約アスリート。12歳でフリークライミングを始める。2006年世界ユース大会ユースA(18歳未満)優勝など数年で国際大会で結果を残し、2012年・2013年にワールドカップ総合優勝(リード種目)。岩場では2010年に日本人初となる5.15aグレードに登攀(スペイン・Papichulo)、2015年には自身最高グレード5.15b更新(スペイン・Fight or Flight”)。実家は宇都宮市でクライミングジム『Flash』を経営する。

●堀創(ほりつくる)
1989年11月2日生まれ、宮城県仙台市出身。東京都山岳連盟所属。スポーツクライミング日本代表(ボルダリングA代表)。小学5年から登り始め、2007年世界ユース選手権リード種目で3位に。ボルダリングは国際大会で2008年アジア選手権、2011年W杯カナダ・キャンモア大会、2015年アジア選手権で優勝し、表彰台獲得も多い。4年ほど前からセッターの仕事も手がけ、2016年5月からB-PUMP 荻窪店でチーフルートセッターとして働く。2017年IFSCクライミングW杯ボルダリング種目で世界ランキング14位。

《五味渕秀行》

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