だったん蕎麦を主食とする中国雲南省の少数民族・イ族の村。北京から空路で3時間15分かけて雲南省の昆明へ。ここから未舗装の悪路を含む3時間の道のりで瀘西という町へ。訪れるイ族の村はさらに1時間半も奥地にある。すでに標高は2000mを超え、クルマから見える農地には蕎麦・とうもろこし・タバコくらいしか見当たらない。
「標高が高いので、そのくらいしか栽培できないのです。今は物資も豊富に入ってくるようになりましたが、昔のイ族は蕎麦を主食としていた。毎日蕎麦料理です」。雲南民族博物館の起国慶副館長はこう説明してくれた。
だったん蕎麦を栽培して自給自足の生活を営むイ族は、中国の研究機関の調査で、「高血圧や糖尿病の発生率が低く、健康で長寿」とされている。だったら生活習慣病に悩む現代日本人にとって、イ族の食生活を見ることで健康への糸口が見つけられるのではないだろうか。
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中国雲南省は蕎麦栽培にうってつけ
実のところ少数民族のイ族といっても、中国全土に600万人、雲南省には500万人もいる。そのため現在でも蕎麦を主食とした生活を送っているのは、山間部の集落に暮らす人たちだけだ。そこで瀘西からさらに奥地に入った小直色村を訪れた。
154戸、600人のこの集落は、赤茶けたレンガ作りの家々が並ぶ。天安門事件までは他地域との交流もほとんどなく、古くからの生活習慣を守り抜いてきた集落だ。あでやかな民族衣装で着飾った10代の女性たちが訪問を歓迎してくれた。村の男性は、身長こそそれほどではないが、鼻が高く彫りの深い顔が特徴だ。褐色の肌は農作業で鍛え抜かれ、みな一流アスリートのようだ。
話を聞いてみると、彼らの祖父や祖母はほとんど70代前半で、長寿大国日本と比べれば驚く数値ではない。しかし70歳を超えても元気に牛追いをする姿もあり、健康的な生活を過ごしていることがうかがえる。
若葉の摘み取りは女性の仕事だ。自らの手で刺繍を施した鮮やかな衣装を着て、ていねいに1枚1枚葉を摘み取っていく。子供のころからそれが家の手伝いとなる。
夜になるとだったん蕎麦の葉を炒めたもの、豚やヤギの肉を煮込んだ素朴な料理でもてなしてくれた。アルコール度数の高い蕎麦酒も振る舞われ、このあたりのしきたりとして10代の彼女たちも「乾杯」の発声のたびに器を空にしていった。
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だったん蕎麦を使ったイ族の料理は、どれもシンプル
撮影した画像をあとから確認すると電線が映っていたが、夜になって電気による明かりが灯っていたのは役場などわずかな建物だったと記憶している。民家は真っ暗な中庭でロウソクの明るさを頼りに車座になって夕食をしていた。子どもたちが野菜や干し草の運搬をしたり、水たまりで選択している姿が強烈に印象に残っていた。
すっかり暗くなるとボクたちを歓迎してたいまつ祭りが繰り広げられた。煮て焼いて食べられても不思議ではなかったので、他の取材記者と相談してお礼の歌として「春の小川」を緊張しながらうたった。
15年前の夢物語。40歳になる直前で、まだ体力的な不安もなかったころである。あんな経験は二度とできないと思うし、精神的につとまらないと思うが、でも取材の依頼があったらまた行ってみたい気もする。